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彼の事情3

※二話更新の後半です。


そうしてそのまま数年が経過する。その頃にはもう、僕の陰口を言う人間など消えていた。むしろ全員手のひらを返したように、僕の事を持ち上げる噂ばかりだ。貴族とは現金なものだなと思う。蔑んだり、褒めたり……(せわ)しない。


その頃から僕は思うようになる。


“僕は彼女に見合うような人間になれただろうか?もう彼女を迎えに行っても許されるだろうか”


そんな時だ。父上から僕の婚約の話をされたのは。けれど、この中から選べと渡された婚約者候補のリストにはヴィーの名前は入っていなかった。

あれから色々と調べたが、彼女は僕より二つ年下で公爵家令嬢。幼い頃から大きな病気もしたことはなく、健康。調べている最中、ロベールだったり、よくわからない方向から色々と邪魔が入ったが、何とかそこまでは調べ上げた。だから年齢も立場も全て僕と婚約するには申し分なく、リストを渡された時も彼女が僕の婚約者候補に入っていない(はず)などないと思い込んでいたのだ。

ついに彼女を迎えに行くことができる…!そう脳内で歓喜していただけに絶望は大きかった。


この婚約者候補のリストには、僕よりも5歳も上から産まれてまだ日が浅い赤ん坊すらいるのに、彼女の名前はない。

僕は思ってもみない事態に狼狽(ろうばい)しながらも父上に訊ねる。


「父上、何故ヴィオレッタ=ガーランドが僕の婚約者候補に入っていないのですか?」

「っ!?お、前――どこでその名前を……?」

「関係ないでしょう?私は何故だと聞いているのです」


父上のちょっとした言葉すらも誤魔化そうとしているように聞こえて、久しぶりに感情を抑えきれなくなるくらいにその時の僕は苛立っていた。我ながら情けないと思う。けれど彼女を調べた時、確実に婚約をできると思っていた僕にとってそれは青天の霹靂……衝撃以外のなにものでもなかった。

父上は何故かかなり狼狽していて、結局その日は口を割らず、部屋から追い出された。

その後も執務だの何だので明らかに僕と話すこと自体を散々避けられ続けた。だが僕は諦めずに時間を無理矢理に作って、父上に食いつく。自分でもすごい執着心だと思うが、諦めることなどできないのだ。


それを一カ月程続けたある日のことだ。僕は父の執務室に呼ばれ、ガーランド公爵家の事情について聞かされたのだった。

父上は、”お前がここまでしつこい人間だとは知らなかった ”と少し疲労が濃い顔で苦笑いしていたが、そんな発言は笑顔で流す。やっと、彼女との婚約に近づけるかもしれないのだ。なんと言われようと問題ない。そうして父上は優しいような、少し呆れたような遠い瞳をしながら話し始めた。


***


ガーランド公爵……彼女とロベールの父親は父上……国王の乳兄弟で、昔から優秀な人間だった。彼は宰相の立場として、この国を引っ張っていく存在の一人だったが、社交界にて現公爵夫人との大恋愛を繰り広げ、結婚した直後、妊娠した夫人を守るように田舎に引きこもり始める。

執務の多い期間は渋々(しぶしぶ)登城してきたが、それ以外の期間は完全に田舎の公爵家の本邸から全く出ることなく、本当に最低限の登城回数で済ませる。一応仕事はしているので目をつむっていたが、彼の行動は宰相として前代未聞だった。

その状態でも十分酷かったというのに、娘が産まれてからは急変する。宰相という立場を補助をしていたヴァーノン侯爵に完全に譲ったのだ。そうして自分は完全に田舎に引きこもり、補助のみをする。そうして公爵自身は田舎で商業ギルドを立ち上げ、大成功。補助と言っても新しい宰相の相談に乗る程度で全く登城しなくなってしまった。

確かに新しく宰相になったヴァーノン侯爵も優秀だった。元々補助をしていたのもあり、仕事も完璧にこなす。

けれど父上は乳兄弟であり、気の置けない仲でもあった宰相がいなくなってしまい、寂しかったようだ。何度も帰ってこないかと聞いたが、返事は一つ。


”すまない、家族との時間を大切にしたいんだ”


確かに宰相という立場は時間が取れない。公爵は優秀だった故に最低限の時間の執務で済んでいたが、それでも月の半分は登城していた。だからその時は仕方なく了承した。

けれど、どうしても公爵との絆を残しておきたかった父上は思いつく。自分たちの子供を婚約させればいいのでは……?と。だが、それは公爵の一言によって一刀両断されることになる。


“王族に嫁がせたりなんてしたら、絶対に娘が苦労するだろう!?私は彼女の幸せを一番に願いたい……”


同じ父親として……王として、彼の気持ちは理解できたそうだ。……自分も子供達の幸せを願っているから。無理強いなんて出来なかった。



父上は途中途中思い出すように優しいほほえみを何度も浮かべながら、そこまで語った。


***


それを聞いて、僕は思わず無言になる。僕は今まで自分の気持ちばかりを優先して、彼女の負担なんて考えていなかったのだ。考えが浅はかだった……自分が情けない。けれどそんな僕を見て、父上は再び口を開く。


「とにかく私は、彼の気持ちを優先したかったんだ。だから公爵を呼び出すまでは協力できても、説得までは力になれるかは分からない。……でも、本当にアシュレイ――お前が彼女を婚約者にと望むならば、その気持ちを直接公爵に伝えろ。そうして彼女を掴んだら、絶対に離すな。幸せにしてみせろ!……今のお前には力があるのだから」

「はい……!ありがとうございます、父上」


父上の言葉に目を醒まされる。そうだ、僕が彼女の負担を取り除くくらいに頑張ればいい。僕は改めて彼女を守ることを決意した。前を向き、部屋の出口に向かう。しかし、途中で思い出したように呼び止められた。


「あ……そういえば、公爵はかなり意地っ張りだから気をつけろよ。……説得できたとしても、きっと何かしらの一押しが必要だと思う」


ひと押し……そう考えて真っ先に思い浮かんだのは、ある男だった。


彼は公爵家の人間で、能力的にも頼れるし、頭も切れる。もしも彼をこちら側に引き込めたならば、彼女と婚約できる可能性は飛躍的に向上するだろう。

彼女との婚約のためならば迷っている暇はなかった。正直彼の前で彼女の話題を出すと、暴走しそうで怖くないとは言わないが、僕にはヴィオレッタと婚約するという大きな目的があったから。


***


「ロベール?今、時間大丈夫かい?」

「ん……アシュレイか?少し待っていてくれ」


早速副団長室の扉の前で声を掛けると、中からごそごそと紙をまとめる様な音が聞こえた数秒後、扉が開かれた。彼が確実にいる時間を……と、昼間を選んだが、やはりというかなんというか仕事中だったようだ。でも問題ないと思う。彼が同意してさえくれれば、僕の用事は直ぐ済むのだから……必ず同意させて見せる。そう決意して、彼に向き合った。


「待たせたね。それで、要件はなんだい?」


僕を部屋に招き入れた後、席を勧めながら何の用かと穏やかに聞いてくる。いつも通りの穏やかな彼だ。だが僕は今から確実に彼を逆なでするような話題を出す。そのことにそこはかとない緊張を覚えながらも目的を口に出した。


「実はね、僕……君の妹のヴィオレッタ=ガーランドと婚約したいんだ」

「は……?」


その言葉を言い終わった瞬間、ロベールの周辺の空気が冷たく凍ったように感じる。それどころか空気が刺すように鋭くなり、ゾワリと肌を粟立たせた。


「何を言っているんだい?アシュレイ。君が、ヴィーと婚、約…………?」

「っそうだ」


ロベールの冷たい空気にも負けないように、気合を入れて返事をする。正直、空気ががらりと変わってしまったロベールは怖かった……かなり。気を強く持っていなければ、このまま威圧感だけで圧死してしまいそうだ。けれどめげずに続ける。僕が彼女が欲しいという心は本物なのだ――――仮令(たとえ)、ロベールに刺されたとしても諦める気はさらさらなかった。だから、彼に協力を頼みこむ……彼女との婚約を少しでも確実なものにするために。


「頼む!僕には彼女しかいないんだ。彼女以外考えられない……だから婚約のため、君にも協力を願いたい」


僕はロベールに頭を下げる。けれど返事はなく、そこにあったのは空白だった。

ロベールの反応が気になる。実際、今にも刺されるのではないかと恐怖心もあった。けれど頼んでいる立場にいる以上、返事がない限り頭を上げるわけにはいかない。彼への失礼にあたる。だからそのまま頭を下げ続けた。

それからどれくらい経っただろうか……。数分だった気も数時間だった気もする。それくらいに緊張していたんだ。


「……アシュレイ、君には覚悟があるかい?」


驚いた。怒り口調じゃない事もだが、それ以上にロベールの声が予想以上に穏やかだったからだ。


「かく、ご……?」

「そうだ。ヴィーを……僕の妹を守り続ける覚悟が、君にはあるのかい?彼女がもしも君の婚約者になるとするならば、きっと沢山敵ができるだろう。だって君の婚約者というのは未来の国母だ……それに彼女のあの容姿――君は妹に会ったことがあるんだ。わかるよね?」


実はロベールにはヴィオレッタに会ったことがあるということは彼と知り合った当初だったかに既に打ち明けている……その時は彼のシスコンさに驚く結果になったのだが。けれど、それからは彼女の話もたまに聞かせてもらえるようになったのだ。それが日常のちょっとした楽しみだった。


そして彼が言うヴィオレッタの容姿とは、きっとあの特殊な髪色と瞳のことだろう。彼女の家系には降嫁した王族がいたらしく、彼女だけにその証が凝縮されたように集まっている。ロベールの言い方からして、僕の婚約者以前に、容姿について言われることは多かったのだろう。王族でもないのにその色を持つことは貴族にとって脅威であり、それと同時に異端なのだ。それに妬みや嫉みも入っているか……。

でも、僕は昔の僕とは違う。もう無力ではない。政治方面、社交方面……どんな分野でも顔が利く自信があった。彼女を迎えるために、僕はここまで頑張ったんだ。だから、彼女を守るためなら覚悟などいくらでもしてやろう。


「覚悟なんてする必要もない。僕は彼女を絶対に守る……幸せにしてみせる」


父上に言われた言葉も思い出しながら顔を上げて、ロベールの淡い翠の瞳を強く見据える。もうロベールに対する気後れはなかった。


「……そうか」


ロベールが聞き逃しそうな程小さな声で、そう呟く。彼の口元は若干緩んでいた気がするのは僕の気のせいではないだろう。


「このロベール=ガーランド、アシュレイ=ウィステリア第一王子に忠誠を誓うと約束致しましょう……妹を守ってくれる限り、な」

「そんなの当然だ。安心して誓ってくれ」

「ああ。君が誠実な人間だということはここ数年間で散々見てきたから知っている。まあ、建て前の様なものだ」


ロベールが笑いを零しながら、そう優しく微笑んだ。


書いてる途中、若干寝ぼけていたので、おかしい所があったら後日きちんと修正します。

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