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彼女の事情12

ストックが完全に切れたので更新が2~3日に一回になります……多分。

ヴィオレッタは体調もそこまで悪くないという判断で、あれからダンス、ヴァイオリン以外のレッスンもロベールによって組まれたが、心境の変化か昔ほど難しいとは感じなくなっていた。

その間もアシュレイは二度三度とヴィオレッタの元を訪ねて来ていたが、どうしても会う勇気は出ず、逃げてしまっていた。

そうして色々ありながらも概ね充実した毎日を過ごしていたある日のことだ。

ロベールが数日間泊まりで父の仕事の手伝いとして同行することになった。ロベールは謝っていたが、ヴィオレッタは仕方がないと思う。だが、一つ困るのがダンスの練習だ。ダンス講師は年配の女性なので、パートナーとして組むことはできない。それはロベールも分かっていたようで、”いい相手を用意しておいたから”と悪戯を企んだ子供の様な笑みを浮かべて、そう言った。そのままロベールは出掛けていく。


そうして少し不安を感じながらも向かった部屋にはなんと、ルシアンがいた。彼は相変わらずのマントを深々と被った姿だ。しかしヴィオレッタの疑問はある部分に向く。


「……ルシアン先生って踊れるの?」


純粋な疑問だ。ヴィオレッタはよく考えるとルシアの名前や出身国以外殆ど知らない。話すことは多かったが、ルシアンは大抵聞き手側にまわっていた。


「まあ、それなりには……な。ほら、さっさとやるぞ」


声音はかなり機嫌が悪そう且つ態度もあからさまに嫌そうだったが、一応は付き合ってくれるようだ。

しかし踊りだしてみると、予想を裏切ってルシアンの踊りは上手かった。ロベール程ではないがきちんとリードしてくれる。


「意外。ダンス、上手いのね」

「普通だ。意外とかいうな」


ヴィオレッタは最近、ダンス中に話す余裕すらある。

だが、話しながらも一つの不満があった。それをダンスレッスンの休憩時間にルシアンに言ってみた。


「ねえ、そういえばそのマント取らないの?」

「?何故だ」

「さっきから近づく度に顔にかかってくすぐったい」


そんなに激しくないダンスのせいか、ルシアンのマントは奇跡的にもずれることは一度もなかったが、顔が近づく度に布が顔に触れるので、気になって仕方がなかったのだ。


「……取ったほうがいいのか?」

「まあ……できれば。……取りたくないなら別にそのままでも我慢する」


ルシアンが自分自身の事を話すことは殆どなかったが、流石に数カ月共に居ればある程度はヴィオレッタも気づく。ルシアンがマントをずっと取らないのはルシアン自身の容姿にあるのでは?と。だから強制はしなかった。


「……いや、お前なら良い気がする。でも一応言っておくが、俺の容姿を見ても絶対叫んだり後悔したりするなよ」

「え、うん」


彼がマントを脱ぐと、ヴィオレッタは目を見張った。褐色の肌に白銀の髪、瞳を開くと綺麗な翠がのぞいた……今までみたことのないような容姿だ。けれど不思議と悪い気持ちは起こらなく、むしろ綺麗だと感じた。


「……驚かないのか?」

「…………?」

「気持ち悪いとか、異質だとか……化け物とか」

「いいえ、特には。……逆に綺麗だな、と思ったかな」


彼はいつもの自信満々だった声音や態度とは真逆の、少し安心したような顔をしていた。なんとなくだが、ルシアンは顔が赤い。きっと素顔を見せるのはかなりの勇気が必要だったのだろう。

それにルシアンの言葉……異質や化け物という自分に対する否定的な言葉はもしかしたら彼自身が投げかけられてきた言葉だったのかもしれない。数年前まで前髪で同じように瞳を隠してきたヴィオレッタは思う。”ルシアン先生は自分に近い人間なのかもしれない”と。


「……っそうか。……ロベールに似て、おかしなやつだ」

「…………兄様に似ている、ね」

「急に暗くなってどうしたんだ?」

「いいえ、別に」


だが一転、”ロベールに似ている”その言葉がヴィオレッタの心を抉った。ルシアンまでもがヴィオレッタをロベールの妹として見ているのを再認識させられた気がしたのだ。無意識の内に声までもが暗くなってしまったようだ。


「……まさかお前、ロベールに似ていると言われたのが嫌だったのか?」

「っ――――」

「図星、か。まあ、アイツかなり腹が黒いもんな……俺も何度利用されたことか。そんな奴と一緒にしてすまなかった」

「え、どういうこと?」


ヴィオレッタは、なんだか話が食い違っている気がして聞き返す。


「ん?性格が似ていると言われたのが嫌だったんじゃないのか?あの性格悪い腹黒男に」

「兄様は性格悪くなんてないわ!」

「え、お前それ本気で言っているのか?」


ルシアンが驚いた瞳でヴィオレッタに問いかけるが、ヴィオレッタは何故か必死になって言い募った。


「先生こそなにを言っているの?兄様は性格も良いし、なによりも完璧な人じゃない!」

「……アイツ全然完璧じゃないぞ。滅茶苦茶性格悪いし、それに完璧でもない。なんなら昔なんて剣術も弱くて、勉学においても微妙だったぞ」

「なに、を……?兄様は昔から何でもできたじゃない!?」

「お前は何か勘違いしているようだから言っておくが、アイツ……ロベールは鍛錬でボロボロになってもヴィーのため、ヴィーのためって馬鹿みたいに努力してたんだ。強くなってウィステリアの騎士団に入ったのも兄としてお前を守って、頼られたいから……だとよ。とんだシスコンだな…………性格悪いけど」

「え……?え!!?」


初めて聞く事実に唖然とする。家に帰ってきている時のロベールは一度たりともヴィオレッタに努力している姿など見せなかったし、なによりいつも何でも出来ている印象だった。でも、それが本当に努力の末のものだとしたら……?あんなに何でも完璧にこなせるようになるには、どれだけ努力をしたのだろうか。


「この間も今お前に頼られている状態が嬉しくて仕方がないってデレてたぞ。正直、キモかった」

「……………………ごめんなさい」

「は?」


今更になって記憶が思い起こされる。元々はヴィオレッタが自分の瞳を嫌いになった理由としては、幼い頃にある伯爵令嬢に”化け物”と言われたこともあったが、お茶会で他の大人たちにも陰で”異質だ”と言われていたからだ……と。でもそれはロベールが騎士団に入団して、副団長と言う立場になってから耳にすることはめっきりと減った気がする。


自分はロベールの立場の上での評判に守られていたくせに、それを嫌がって……バカみたいだ。それにあの時もロベールが正しいことを言っていたのに、八つ当たりの様な真似をして。

ヴィオレッタは今までずっと守られているのに気づいていなかった自分自身の未熟さに苛立つと共に後悔した。


「私、ルシアン先生にも八つ当たりしていたわ」

「よく分からんが、別に気にしてない。まあ、あれだ。ロベールはロベールだが、お前……ヴィオレッタもヴィオレッタだ。一緒にしてすまなかった。俺はヴィオレッタ――――お前自身の事も、その……嫌いじゃない」

「……耳が赤い」


ヴィオレッタ。初めてルシアンにそう呼ばれたのが改めてヴィオレッタ自身を認めてもらえたようで何となく嬉しかった。ヴィオレッタはそれがバレたくなくて、思わずルシアンを茶化す。


「っうるさい。……はあ、やっぱりヴィオレッタはヴィオレッタだな……俺がマントをとっても態度は変わらないし」

「ルシアン先生、なにか言った?」


ロベールが帰ってきたらあの夜の事を謝ろう。ヴィオレッタはそう心に決めた。けれどその前にダンスの練習だ。人間努力しなければできるわけがない。ルシアンの話の通り、ロベールがヴィオレッタに見えていない所でずっと努力していたようにヴィオレッタも頑張ろうと思えた。


その後は、何故かルシアンの態度はダンスを始める前より若干柔らかくなっていて、さっきまで仕方なさそうに付き合ってくれていたダンスも自分から相手をしてくれ、レッスンは捗ったのだった。


***


一週間程でロベールは公爵家に帰ってきた。ヴィオレッタは帰ってきたのを聞きつけてすぐにロベールが休んでいる自室に押し掛ける。迷惑かとも思ったが、どうしてもあの時の事を早く謝りたかった。


「兄様、おかえりなさい!」

「ただいま、ヴィー」


ロベールはヴィオレッタが部屋に入ってくると疲れなどないかのように、笑顔で暖かく迎えてくれる。そんなロベールに我慢できずに抱き着いた。

ヴィオレッタはこんなにも優しい兄にあんな酷いことを言ってしまったことを更に心が痛んだが、すぐに心を切り替える。


「私、兄様に謝りたかったのです。あの夜は……あんな酷い事を言ってごめんなさい。ルシアン先生に言われて気づいたの。兄様はずっと頑張って、私の事を守ってくれていたって。兄様の地位や名声は兄様が元々持っていたのではなくて、兄様の努力の証だったんだって。ごめんなさい、それといままでありがとうございます」


ヴィオレッタはロベールの顔を見るのが怖くて、思わずロベールの胸の辺りに顔を埋めてしまう。けれどロベールは軽くヴィオレッタの頭を撫でた後、言った。


「ヴィーを守っていたのもそのために努力したのも私がしたくてしたことだから気にしなくていい。あの日の事もヴィーが謝る必要はない。私はただ、ヴィーに後悔してほしくなかっただけだ。君の幸せのためなら私はいくらでも協力するし、努力も惜しまない。……だから後悔だけはしないようにしてほしい」

「……っはい」


ヴィオレッタは、感極まって一言しか答えられなかった。だがロベールはその言葉に微笑む。ヴィオレッタはあのアシュレイが訪ねてきた日、彼に会わなかったことを本当は心の奥底では後悔していた。ロベールはそれすらも見破っていたのかもしれない。


(今度アシュレイ殿下が来たら、せめて会ってお話をするくらいの事は頑張ろう。もしかしたら話して向き合うことで諦めもつくかもしれない。もし諦めきれずに決意が揺らいだとしても私は……彼の幸せを、リーシャ達の生きる未来を絶対叶えて見せる)

社交ダンスとかちょろっと調べた程度で普通にやったことはないので、ツッコミは無しだと有難いです。ファンタジーですから。



個人的設定:(読まなくても何ら問題ないキャラクターの設定です。ただのまとめ)


ロベール=ガーランド

・重度のシスコン。

・アシュレイ・ルシアンといった周りの人物の弱みを大量に握っている。

・ルシアンがロベールの代わりにヴィオレッタのダンスの練習相手になったのも、彼に脅されたからである。

・幼い頃は剣術は人を傷つけるのがあまり好きではなく、勉学はやる意義を見出せなかったので、両方とも微妙だった。

・溺愛していた唯一の兄妹であるヴィオレッタ(この頃はヴィオレッタ2~3歳くらい)の容姿及び金の瞳が大人たち(親戚にすら)に”異質だ”と言われていたのを聞いてしまってから、ヴィオレッタを守るためにも変わることを決意。

・数年かけて、ヴィオレッタを守れる立場を手に入れる。

・ヴィオレッタは第一王子の婚約者になったことで妬み嫉みから更に何かを言われることが増えたので、裏で一番頑張った人。

・序盤でヴィオレッタが立ち直れたのも貴族たちのヴィオレッタの瞳に対する評判を潰していったロベールのお陰と言っても過言ではない。



・貴族たちの金の瞳に対する批判は、その色を持つヴィオレッタを早めに潰すためのものでもあったという裏設定があったりなかったり。

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