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【8】アレクの過去④

気付いたら、リサ全く登場せず。


※ちょっとですが流血表現あります。




「ねえアレク、魔王ってまた誕生するのかな?」



討伐の準備をしながら彼女は言った。



「………さあ? 誰にも分かんないだろ、そんな事」

「そうだけどさ、もし誕生した時はあたし全力で皆んなを守るからね」

「それはどうも。 だったらその時は俺も姉さんに着いていくよ」



上手く動かない指先で懸命に上着のボタンを留めようとする彼女を見兼ね、アレクが代わりに留めた。



「そんな不確定な事よりも、今は魔物討伐に専念しろよ」

「えへへ、ありがとう。ごめんねー、日に日に迷惑かけちゃって」

「別にいいよ。 俺は姉さんのしたい事を一緒にするだけだから」

「あー! またアレクってばあたしに聖剣押し付けちゃったから、とか考えてるんでしょ!? 言ったじゃん、あたしは聖女になる為に聖剣を握ったんだって! 気にし過ぎ、これはあたしの意思なんだからー」



力の入らない手で殴られても痛くはなかった。

いくら浄化の能力が使えても、この状態で討伐に向かわせる教会のやり方にいよいよ声に出して毒を吐きそうになる。

大司教曰く、浄化で弱らせた魔獣は適合者でない子供達でも狩るのは簡単な事らしい。

だったら自分でやれよと言いかけたのはアレクの記憶に新しかった。


未だに殴るのを止めない彼女に静止の言葉をかけ、やんわり謝る。

彼女はその謝罪が口先だけだと分かっていた。

アレク自身もこの罪悪感が消えることは無いのも分かっていた。



「って、姉さん聖剣は?」

「ん? あー、あれは今は大司教様が持ってるよ。 ほら、今のあたしじゃ持ってても仕方ないしねー。 あ、でも一応他の剣は持っていくよ!」

「…何だよそれ、本当に大丈夫かよ。 じゃあ余計に梅雨払い頑張んないとな」

「ここだけの話、アレクの事は凄い頼りにしちゃってますよー」



いつも通り笑いながら、彼女はアレクに抱きつく。

前に一回抱き締めたのが気に入ったらしく、それから何回か自らアレクに抱きついていた。

知らない間にどんどん広がる身長差。

彼女はアレクの胸元に額を当てた。くぐもった声がする。



「アレク、また死んじゃって、これ以上あたしの体が動かし辛くなるのが怖い」

「…………」

「けどさ、子供達を死なせるのも嫌なんだよ。 あたしは最年長だからね、聖女様が昔してたみたいに守ってあげないと」

「姉さん…」

「でも、あたしはこれでまた聖女様に近付ける。 大司教様もそう言ってくれたしねー。だから頑張るよ! でも、もしアレクも一緒に子供達を守ってくれたら嬉しいなー、なんて」

「…分かった。 俺も出来る限り守るよ。 だから姉さんは自分の心配をしてくれ」

「ふふっ、了解。ありがとねーアレク。 じゃあ、行こうか」



彼女はまた笑う。


笑ってアレクから離れ、歩き出した。




****




爆音が響いた。

アーティファクトの爆発音だと、アレクは分かっている。

深呼吸し、息を整えた。


彼女は数人の伝令役の子供達と神官を連れて、討伐に向かった。

魔物が住処にしている付近には教会が無く、国王からせっつかれ慌てているのか大司教は珍しく神官を連れていく事を彼女に許可して討伐に向かわせた。

アレクは彼女の目指す方向に居る魔獣を粗方討伐した後はアーティファクトの威力が届かない村での待機を命じられた。

彼女の居る位置は魔物が住処にしていた廃村で、アレクの待機している村からは随分と離れた場所にあるはずなのにそれでもアーティファクトが解放され魔術が発動した空気の振動や地鳴りはアレクの元まで届いた。

一瞬の間を置き、強い突風が吹く。 焦げた臭いと熱しられた空気が一気に襲う。

息を吸うのもままならない。

呼吸が整い、舞い上がった砂塵が晴れて視界が戻るまでがとても長く感じられた。


「……倒されたのか?」


手で被った砂埃をはらい、村の入り口まで歩く。

伝令役の子供がもう来ていた。

彼女の近く、アーティファクトの効果がギリギリ届かないと予想されている場所で何人か待機し、魔物が倒されたのを確認してからアレクに報告する。そう言う手筈だった。

思っていたよりも早い到着に嫌な予感がする。

頭を過るのは魔物の討伐失敗。 そうなれば彼女の遺体を回収するのはかなり難しくなる。

脳内で何個か策を練りながら、アレクは息を乱し今にも倒れてしまいそうな伝令役の子供の肩を抱く。

その子供は何処か呆然としていたが、アレクの顔を見るなり表情を歪め彼の服に縋り付く。



「っ神官が裏切った!」



強く叫ばれ、アレクは瞬時に理解できなかった。



「どう言う事だ」

「僕も分かんないよっ! けど、姉ちゃんは魔物の方に行って僕達は離れる為に別行動して後ろに下がったんだ! そしたら、姉ちゃんが見えなくなった瞬間神官が襲ってきて…!」



子供をよく見ると所々切れて血が滲んでいた。

特に腹部からの出血が酷く、呆然としていたのは血が足りなくなってきていたからだ。

アレクは着ていた上着を脱いで子供も腹部に当て圧迫する。

自分と同じく村で待機していた子供を呼びつけ、代わりに押さえさせた。



「アレク、僕と居た子達は皆んな神官に刺されて、多分…殺された」

「魔物はどうなったか分かるか?」

「砂とか酷くて、分かんなかった。 ごめんなさい、僕伝令役にせっかく使ってもらったのに……」



子供は腕で顔を覆い、涙を隠した。


いきなりの神官の行動にアレク自体も何を目的としているか分からなかったが、さっきから全身を駆ける焦りに思考が支配されそうだった。



「俺が見てくる。全員ここで待機しててくれ」



アレクは村にある馬駐から一頭拝借し飛び乗る。

姿勢を低くし少しでも空気抵抗を減らす。

村ではだいぶ薄くなっていた焦げた臭いが段々と濃くなり突風によって木々が薙ぎ倒され森の一角が完全に壊されていた。 空気も重く熱い。

いくら隣の村だと言っても距離はかなりある。

速いはずの馬の速度が今日はいやに遅く感じた。


まだ舞っている砂に痛む目も気にせずアレクはただひたすらに馬を走らせた。





****





濃くなる煙に目が沁み喉が痛み、呼吸がしずらくなる。

さっきまで木が倒れていただけだったが、気付けば所々燃えていて感じる熱が比べ物にならない。

途中で息絶えている子供達と神官を発見した。

村に着いた子供が言っていた通り、子供達は刺され切られ絶命していた。

神官に至ってはアーティファクトの有効範囲内に居た為、巻き込まれて死んでいるのを見た。

どこかおかしいとアレクは感じる。

神官と子供達は彼女を蘇生させる為に教会側…大司教が用意した人材だ。

アーティファクトの有効範囲外に出て討伐の能否を確かめ、後方に控えているアレクに伝令し、音により集まると予想された魔獣を討伐して彼女の蘇生を行う。

それがアレクに伝えられた内容であり途中まではそれに沿って動いていた筈だ。

なのに伝令役の子供は神官に殺され、その神官はアーティファクトにより死んでいる。

訓練を受けている子供達を殺せたのは神官が強い訳ではなく、単純に子供達が弱く幼かったのが原因だろう。

そもそも教会に属している神官が子供を殺すなどあり得ない事だ。


アレクは馬から降り、焦げた地面を踏む。


アーティファクトを発動した場所、つまりは彼女の居た場所辿り着いた。

爆炎の後がある。黒く焦げた地面だけが残り、そこから少し離れた場所では木々が円を描くようにして倒れている。

中心では燃えている物も無く、灰すらも僅かにしか残っていない。

それだけの熱量と風がここから放出された事を示している。


アレクは震える喉から、深く息を吐いた。

熱い筈なのに、体が冷えていくのが分かった。



「ーーそういう事かよ…」



アレクは膝から崩れた。

焦げた地面はまだ熱かったが、それさへも感じ辛くなっていた。

中心に残る僅かな黒い灰を両手で掬い優しく包んだ。



例えば、神官が生きていたとする。

魔物討伐が成されたと確認を取り、彼女の遺体を回収して待機していた安全地帯の村で蘇生を行えばこの作戦は成功と言えただろう。

だが、それには前提条件を満たす必要がある。


爆音と共に放たれた熱は何もかも燃やしてしまった。

離れた村に届いた熱風は熱く呼吸を奪う。

だとしたらその中心、アーティファクトが発動した爆心地はどれ程の熱だったのだろうか。


見渡せば、黒く焦げた地面と僅かな灰。

魔物の姿は無く、討伐は成された。




そして、彼女の遺体もどこにも無かった。

読んでくださりありがとうございます!


次こそはアレクの過去終わる……予定です!

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