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【7】アレクの過去③

更新遅くてすみません。

過去話、今回で終われなかったです…(゜o゜;;




何度も挑み、敗れ、それでも彼女は挑み続けた。


その間に魔物により潰された村や町は多く、その殆どが辺境の地にある教会も建たない所だった。

彼女の行ける範囲は意外と限られている。

教会が有り、すぐにでも蘇生が出来る環境が整った場所でないと彼女は討伐に迎えない。

もちろん神官や大司教が前線に着いてくるなどありえない。

彼女が手を出せない場所へは他の適合者が子供達を引き連れ向かうが、殆どが帰ってこない。


昔から一緒に過ごしていた数少ない適合者がアレクと自身以外居なくなった時、彼女は初めて泣いた。

目を閉じ、耐える様に静かに涙を流した。



「アレク、大丈夫だからね。 アレクはあたしが死なせたりしないから」



すぐに涙を拭って笑う。

彼女の言う聖女様は、どんな時でも諦めずにいたらしい。

もうずっと前に読んだ禁書の内容を今でも覚えている彼女は、それを道標にどんな状況下でも笑う。


彼女を彼女たらしめているのは最早それだけだった。

聖女の存在だけが、彼女のひび割れた心を何とか模らせていた。



アレクは一度、何故そんなにも聖女に拘るのかと聞いた事がある。


彼女は寂しそうに笑いながら、何もかも諦めていた時期があったと言う。浄化の能力が使えると知った時、教会にそれ程多くはない自分の持つ何もかもが搾取され消費され、ただ死んでいくんだろうと漠然と思い勝手に絶望していた。

そんな彼女は始まりの勇者の物語をふと思い出した。聖女と呼ばれるその勇者も確か浄化の能力を持っていた筈。もしかしたらこの能力を隠し通す術が書いてあるかもしれない。

最初はそんな気持ちで聖女について調べた。

次第に彼女は聖女の民衆に対する無償の奉仕や教会に対する献身に憧れを抱き始めた。

自分もこんな風になれたら、どんな状況下にあっても自分の正しいと思う事を貫けたらどんなに高潔でいられるだろうか。

そうしたら、諦めて笑うだけの人生が何か変わる気がした。


聖女も浄化の能力を持っていたせいで教会に入れられ、聖剣を握らされた。

それでも嘆いたり後悔する事なく自分を信じてその剣を振るった。


自分とは違うその考えに酷く憧れ、また決してその領域にまで届かない事を知り焦がれた。


もし、その高潔な心の在りように少しでも近付けるなら、彼女が聖女により生きる希望を見つけた様に誰かの聖女に自身もなりたいと強く願い、彼女もそう在ろうと行動し続ける。


「だからあたしは今、神様に試されてると思うんだよねー」


いつもの口調で言う彼女は、命を助けられ続け聖剣を肩代わりしてくれたアレクの恩人であった。

子供達を助け、魔獣に魔物討伐を率先してやり続ける彼女の疲弊した心の拠り所になっている聖女にアレクはただ感謝した。




****




戦況は一向に回復せず、進行してくる魔物に誰もが怯え、日に日に教会の門を叩く者は多くなりお布施が増えた。

しかしその甲斐なく倒される気配の無い魔物に民衆の不安が募り、大司教であるパブリッツが民衆により負傷する事件が起こってからは教会の中で空気が一変した。

大司教の部屋に呼ばれる回数が増え、討伐はもちろん教会上層部の護衛をする仕事まで増えた。

子供達が死ぬ度に彼女の笑みが陰るのも多くなってきて、口数も減り以前の様な剣技のキレも無くなっている。

いつの間にかアレクは彼女の剣技真似ている内に技術を越していたらしく今では彼女が浄化して弱らせた魔物をアレクが討伐し、魔物討伐では彼女の遺体を運ぶ時間稼ぎの殿を務めた。

今日も彼女は死に、アレクが無事教会に遅れて戻って来たら彼女はアレクの部屋の前で蹲っていた。

いつかの日の逆である事が月日を感じさせる。

今日は大司教に討伐が終わったら部屋に来る様に自分と同じく命じられていた彼女が何故こんな所にと、まず疑問が浮かびその後、大司教とした話の内容があまり宜しくなかったのかと感じ、彼女がしてくれた様にアレクは彼女を立たせ抱きしめる。身長は優に越しており胸板に彼女の頭を押し付けた。

懐かしい香りが鼻腔を掠め、アレクの方が泣きたくなった。

努めて優しく問いかける。


「姉さん、どうしたんだよ。 珍しいな」

「…いや、ごめんねー。 少し怖くなっただけだから。 うん、もう大丈夫」

「何が大丈夫なんだよ。 態々俺が部屋に戻るの待ってたくせに。 …何かあったのか?」

「ううん。無いよ、本当に無い。 ただアレクの顔が見たかったんだよねー」


正直な体は震えている。



「姉さん、俺は強いよ。 今ではあんたよりも強くなった。 それでも頼りないのかよ…」



こんな状態の彼女を今まで見た事は無かった。

まるで、初めて討伐に向かう幼子の様に憔悴し、今の彼女からは強さを微塵も感じる事が出来ない。

アレクがもう一度抱きしめている腕に力を入れようとすると、彼女は自ら腕を突っぱね離れた。

息を深く一つ吐き、今までにない眼差しでアレクを見る。



「…アーティファクトを使う事になったの。 今のままじゃ勝機は無いって大司教様は判断したみたいなんだよねー」

「アーティファクト…! それって、過去に禁止武器に指定されたはずだろ!? 確か古代の強力な魔術が封じられてるって言われてる」



国が禁止した古代の武器、アーティファクト。

見た目は無色のガラス玉で女性の手でも包める程の大きさをしている。

中には今では使える者が居ない、古代の人々が使っていた強力な魔術が封じられていて、それを割る事によって発動する事の出来る希少価値の高い武器だが、その殺傷能力の高さから使用禁止武器に国から指定され、その存在自体知る者は少ない。

教会がそれを惜しみなく渡せるのは、教会がアーティファクトを非合法な手段で回収しているからだった。

今家や国にある殆どのアーティファクトは教会が管理している。

それを踏まえれば教会は組織としては国王よりも強い戦力を持っている事になるが、聖人の集まりと信じられている立場から危惧する者は現れなかった。


だからこそ、態々アーティファクトを使い国王の反感を招く真似をする教会にアレクは驚きを隠せないでいた。

彼女は懐から大事そうに、アーティファクトを出す。

アレクは実物を見るのは初めてだったが、何処となくその一見ガラス玉に見える物体から異様な気味の悪さを感じてしまいたじろいだ。


反対に、彼女はそれを大事そうに手の中で優しく握り、祈りを捧げる様にその手を胸まで持っていく。



「これがあれば、子供達を救える。 あの魔物も倒せる。 けど、やっぱり怖くてさー。 どんだけ威力があるか分かんないし、これを発動する前にあたしが死んじゃったら計画は失敗。 この作戦は同じ魔物にはきっと一回しか通じないと思うんだよねー」



魔物には魔獣と違い、知性があり知識がある。

あれ等は戦う度に学び経験を積む強かな生き物だ。

それを一番分かっている彼女だからこそ、こんなにも恐怖してしまう。

まだ大人と子供の狭間に居る彼女の心には重くこの作戦がのしかかった。

アーティファクトをまた懐に仕舞うと彼女は笑う。



「教会もさ、国王様からせっつかれてるみたいなんだよねー。 大司教様も焦っちゃって」

「だからって、こんな禁止武器を使うなんて事、許されない…。 大体、そのアーティファクトがどれだけの威力かも分からないんだろ。 危険すぎる」

「大丈夫だよ。 この作戦、元は聖女様が考案したって大司教様が言ってたんだよ。 これを成功させればまた一歩聖女様に近付けるって言われたんだー」

「はぁ!? それ信じたのかよ?」

「うん、さっきその事についてまとめてある書物をみせてもらったの」

「そんなん嘘に決まってんだろ! 教会がそう言う所だってのは姉さんが一番分かってんじゃないのかよ!?」



怒鳴るアレクの手を、彼女が握る。

今度は、アレクの手に祈りを捧げた。



「アレク、あたしは聖女様に成りたいの」

「こんなん、間違ってる」

「聖女様がした事をなぞれば、あたしはまた一歩聖女として進めるの」

「どれだけ強い魔術が中に入ってるかも分かんない…」

「うん、だからアレクに協力をお願いしたいんだよね。 あたしの体、知っての通りもう器用には動かない。 だから、アレクに魔物に近付く時の梅雨払いをして欲しいの」

「何でそこまでするんだよ…」

「ーー言ったじゃんか」



彼女は笑う。



「あたしは、誰かにとっての聖女に成りたいから、だって」



部屋で大司教はまた蘇生する。

これが終われば少しは休める。

子供達の無理な討伐も見直すと、彼女に言った。


彼女はそれを信じた。



そしてアレクはそんな彼女を、信じ過ぎた。




教会が、何の為に自分達を育成したのかも忘れて……。

読んでくださりありがとうございます!


次か、次の次くらいで過去話終わりたいです。

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