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【5】アレクの過去①

評価してくださった方、ありがとうございます!(o^^o)


※少し酷い表現有ります。




いつ居なくなってもいい様に、その子供達に名前は付けられていなかった。



フェルト孤児院。

表向きにはミディア大司教が親の居ない子供達の為に建てたとせれているが、そんなのは間違いだ。

人には公言出来ない目論見を進行する為に造られた施設だと、そこに居る子供達が一番よく分かっていた。

教会と隣接する孤児院は世間と隔離され、子供達にとってはそこが国であり大司教は絶対だった。

地下で暮らし薬を投与され、戦闘訓練をさせられる。

名も無い子供達は、意味を知らされる事無く教会によりすり減らされていく命を受け入れるしかなかった。


ただ、もしその減っていく命を少しでも留めておく手段があるとしたら、教会に認められるしかない。

聖剣を扱える魔力と一定の基準を超す戦闘力を兼ね備えた子供を教会は聖剣適合者と呼び、名を与え、現在の大司教パブリッツ直々に管理されているのだ。

選ばれれば、他の子供達よりかは僅かでも長く生きられる。

次は自分の番かもしれないと恐れる子供達は、その希望に祈りを捧げ過ごしていた。


名を与えられるているのは現在5人。

その中に、アレクは居た。

その頃はひたすらに、死から逃げていた彼は表情が乏しく、笑う事など無いに等しい生活を送っていた。



表向きは大司教自ら世話をしている彼らは、毎朝大聖堂で祈りを欠かさず捧げている。

強制的にさせられている祈りに何を願えば良いのか分からずアレクはただ目を瞑っていた。

脇腹を何かで突かれ、薄く目を開く。



「………何?」



小声で不機嫌さを隠さず言えば、脇腹を突いた犯人は笑った。

アレクはその屈託の無い笑顔が苦手だった。

何も楽しくないこんな生活でよく笑っていられるなと常々思っている。

現実が見えていないのか、見ようとしないのか、とにかくその子供はアレクにとって耐え難い現実から一時的でも逃げるために笑っている、そんな印象を持っていた。



「アレクは何をお祈りしてるの?」

「…、何も」

「えへへ、そうだよねー。毎日神様に祈ることなんて早々無いよねー」



朗らかに笑うアレクよりも少し年上な少女は長いブラウンの癖っ毛を耳にかけ、そばかすが薄く出ている顔をダラシなく緩ませる。

祈りを捧げる厳粛な場には全く相応しくない表情を見せていた。

アレクはその顔を見て更に不機嫌になる。



「姉ちゃんは祈れよ。今日討伐メンバーに入ってんだから」



周りの子供よりも年上と分かる少女を子供達は姉と呼んでいた。

もちろん、誰とも血縁関係など無い。

教会内での架空の家族では、彼女が姉なのだ。

彼女はまた笑むと長い髪を一房摘み見せびらかす。



「いやいやアレクは分かってないなー、あたしには聖女様が付いてるから大丈夫何だよねー!」

「またそれかよ…」



大袈裟に溜息を吐く。


聖女が付いているは、彼女の口癖だった。

少し前に彼女は教会の禁書を覗き見た際に始まりの勇者、教会内では聖女名を持つ人の外見的特徴が長髪のブラウンに金の瞳と記されている事を知った。

それからと言うもの、彼女は自分の髪色と瞳の色が似ていると言う理由から事ある毎に自分には聖女が付いていると言うのだ。

教会側に何故知っていると聞かれればマズイ筈だが、彼女はそんな事は気にしていない。

ずっと憧れていた人と同じ特徴を持っている事を兎に角自慢したいのだ。

聖女の事を知るために態々リスクを冒して禁書を見る程熱烈なのだから。



「金色って言うより黄色だろ」

「あ、酷い! あたしだって光が反射して角度とか条件が揃えば金だもん! それに、少しだけどあたしには浄化の力があるもんねー。ほら、どう見ても聖女様じゃない!」

「はいはい。 それ、教会の連中に聞かれないようにな」

「もちろん!っとお祈り終わったみたい」



まばらに大聖堂から祈りを捧げていた人達が出て行く。

顔に覇気は無く、少しづつ強く凶暴化している魔獣に気が気でないのだ。

悪い噂とはすぐに広まってしまうもので、民衆はすでに何か悪い事が起きると感ずいている。

お布施も増え、祈る者も後を絶たない。

魔王とは、教会にとってはいい稼ぎ方法なのだ。

例えば何が起ころうと、最終的には倒せばいいのだから。



「んじゃアレクはお掃除頑張ってー!」

「姉ちゃんも。 逃げる時見つかんなよ」

「あたしアレクと違って上手く逃げるから大丈夫! 他の子もみんな逃げてるのに、何でアレクだけ見つかっちゃうのかな?」

「うるさいなー。今日も、どうせいつもの場所でメンバーと隠れとくんだろ?」



適合者はだいたい地下で監視されている非適合者を連れて討伐に向かう。

非適合者の子供は弱く討伐で命を落としてしまう事が多い。

だから隠れる。

討伐は彼女が主に行い、少数狩っては時間を潰す為に同じ場所に隠れる。

前に早すぎるんじゃないかと大司教に聞かれたからだと彼女はアレクに語った。



「そ、だから大丈夫! んじゃね!」



軽快な足取りで、彼女は人の波を軽々すり抜け大聖堂から姿を消した。

まるで買い物に行くみたいだとアレクは内心呆れる。


浄化の力は当別だ。

魔を倒す事も弱める事もできる。

ただその能力は極めて希少で、中々居ない。

教会側は浄化の能力を持つ者を探しては前線に送り死んでは蘇生を繰り返し心が壊れても使う。

そんな道具と化した子供を何人も見てきたアレクはあの無防備に能力の話をする彼女が信じられなかった。



出遅れたアレクは最後尾に着いて大聖堂を出る。

すぐに声がかかった。



「アレク、今から私の部屋に来なさい」

「………はい、パブリッツ大司教様」



静かな声で行動に制限をかけられ口を尖らせる。

掃除は得意では無いアレクだが、今日程したいと思う日は珍しい。

アレクは度々討伐で怯んでしまう。きっと今回もその注意だろう。長くなる説教を想像して眉を寄せた。

重たい足取りでパブリッツの後ろを歩く。

沈黙が耐えられず、アレクは周りに人が居ない事を確かめ喋りたくないのに口を開いた。



「あの、今日のメンバーはどこまで討伐に?」

「貴方が気にする事ではありませんね」

「すみません…」



せっかく出した話題は見事に砕かれた。

何と不毛だろうか。




****




座りなさいと席を勧められ大人しく従う。

教会に似合いの質素な椅子だが素材がよくフィットする。


何を言われるのかと内心焦りながら差し出された薄汚れた布に包まれる一振りの剣にアレクは見覚えがあった。



「っ!これ、聖剣!?」



教会が布教している始まりの勇者の伝説に書かれたいた聖剣。

暗記する程読まされたその物語に出てくる挿絵に描かれていた聖剣そのものだった。



「この前の討伐で、素晴らしい戦果をあげたみたいですね。 神は仰いました、それを貴方に捧げろと」



これは嫌味だ。

前の討伐でアレクは逃げてしまった。


アレクの聖剣を持つ手が震える。

嬉しさなんかではない。

これを手にすると言う事の意味を正しく理解していた。


聖剣に選ばれる、それは即ち魔物討伐の最前線に出されると言う事だった。

今まで何とか繋いできた命が今度こそ消える、そんな予感が過ぎる。


戦績次第では蘇生してもらえない。

もし、聖剣を扱う者として教会に認めてもらえなかったら使い捨てにされ、たまたま魔力量が一定より多かっただけの子供として聖剣の慣らしに使われるのだ。

いつまでもいい戦績を残せない敵前逃亡を繰り返す適合者を間引く為に自分が選ばれたと、それを瞬時に理解してしまった。

そうして選ばれた子供はまず生きては戻ってこない。



「何で、俺に?」

「神の導きですね。 何か、不満でも?」

「あのっ、次は絶対に魔獣をたくさん討伐してきます! もう、怯んだりしません!だからっ」

「大丈夫。覚醒は出来なくとも一定の魔力を注げば浄化の力は発動します。さ、聖剣を受け取りなさい」




笑みを浮かべているだけで話を聞く気のない大司教に縋り付く。

泣いてしまうアレクの頭を撫でる手は優しいが、愛情などこもってはいない。

大司教らしい行動を取っているに過ぎなかった。


そんなパブリッツ大司教が、静かに呟く。




「それともアレク、貴方は自分以外に誰か相応しい人材を知っているのですか?」




死にたく無いと、アレクの心が叫んだ。

関はとうに切られた。


大司教の続く言葉が頭で繰り返し流れる。




「ーーそう、例えばどこかで逃げてしまった子を見かけたとか」




大司教は笑みを浮かべる。

柔和な笑みのその裏側に隠された悪意に幼いアレクが気付く筈なく、無口な彼の舌はその時滑らかに動き出す。


心の中で謝りながら…



「………俺、心当たり、あります…」



大司教の笑みが濃くなる。

震える声でアレクは名を呟く。



何度も、何度も、謝りながら。

読んでくださりありがとうございました!

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