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【4】現世の出来事

教会の事はよく分かってないのでおかしな点がいくつか有ると思いますが、流して読んじゃってください(>_<)




意識が浮上する。

体に魂が入り、浸透した。




「…………、ちぇっ、時間切れかー」



少しダルさの残る体を祭壇から起こして、固まった関節をほぐす。

死んでから約12時間寝かされていた体は思う様に動かなかった。

教会のステンドグラスから漏れる光に目を細める。


あぁ、現世に帰ってきてしまったのか。

アレクは言い様のない僅かな悲しみが心に溜まっていくのを感じた。



リサが始まりの勇者エリザベスだと発き追い詰めた矢先、アレクの魂は強制的に蘇生のゲートを潜らされた。

あの冥府で姿も見せずにそんな芸当が出来るのは一人しか思い浮かばない。



「まさかハデスが介入してくるとは……」



冥王ハデス。

その名の通り冥府を取り仕切る神様で、謂わばカロンの直属の上司である。

そんな支配者に邪魔されたら魂だけのアレクは手も足も出ない。今回は失敗だと言わざる終えない。

会話は途中で途切れ、結局聖剣の覚醒方法は聞けずじまい。

警戒されると厄介な相手な為、アレクは今回で目的を達成したかったが、空振りで終わってしまった。

残念な気持ちもあるが、これでまたリサに会いに行く口実が出来たと口が緩む。


体の異常はないか一通り確認して、アレクは祭壇を下りた。

側で控えていた初老の司祭から新しい服を受け取る。前来ていた服と同じデザインの着慣れた支給品だ。

周りを見渡し、あれが無い事に気付く。



「聖剣は?」



別段慌てず淡々と言う。

その口調には聖剣を扱っていると言う誉れは全く含んでいない。

ただ、私物がそれもたいして執着してない物が無くなった時のテンションである。


司祭は片膝を付き、勇者アレクに跪く。



「アレク様、聖剣でしたらパブリッツ大司教様がお持ちでございます」

「はぁ!?あの爺さんまた勝手に…。 あんたも止めてよねー」

「申し訳ありません。しかし大司教様は未だ輝かぬ聖剣に不安をお持ちです」

「あー、はいはい。 すみませんねぇ、覚醒出来なくて」



こう言う時の話は長くなるのを身をもって知っているアレクは簡単に服を羽織ると片手を上げ司祭を遇らう。

司祭も慣れているのか、それ以上は口を開かず一礼をして下がった。



礼拝堂を出て、大司教が居る大聖堂へ向かった。

無駄に大きい敷地に建てられていて、一般公開もしているこの場所には多くの人が足を運ぶ。

少し移動するだけでも何人かとすれ違う。アレクの顔を見ては全員が頭を下げ、中には祈りを捧げる者も居た。

この空気がアレクは大嫌いだった。

自身は神ではないし、ましてや聖剣を覚醒させた本物の勇者でもない。

信仰深い者を騙している。気付いたらそんな立場に居た。自覚が無くともリサを利用した奴らと似た様なことをしている、それが我慢ならなかった。


例え、世界を救うためだとしてもだ。

アレクの中でそれは免罪符に成り得ない。



礼をする者に応える事なく、大聖堂に入る。

目当ての大司教は神の彫刻を前に祈りを捧げていた。

何者も侵し難い雰囲気を漂わせる中、アレクはいとも簡単にその空気を壊した。

態と大きく立てた扉の開閉音が響く。



「パブリッツ大司教。 それ、返してもらえます?」



祈りを捧げていた大司教は、ゆっくりと振り返る。

笑みを浮かべた顔に深く皺がきざまれていて、老人と言っても差し支えない年齢だった。

その手には、聖剣は握られている。



「おや、目覚めたのですねアレク。 体に異常はありませんか?」

「無い無い、いつも通りの俺の体です。 で、早く返してくれ」

「それはよかった。輪切りで運ばれてきた時は正直驚きましたよ。 肉体再生も上手くいったようですね」

「…大司教」



怒気をはらむ声に大司教は肩を竦めた。



「会話ぐらい楽しんだ方がいい。 いつ喋れなくなるかも分からないご時世なんですから」

「はっ、よく言うよ。こんなご時世にしたのはあんた達だろ?」

「またそんな異教徒の言う戯言を信じて…。 滅多な事を言うものではありません。 神は聞いておられるのですから」

「それじゃあこれまでの事を見てきた神様にでもお伺いを立てるとしますかー。 一体どちらが正しいのか」

「………。 貴方が寝ている間に、四天王の三人目まで倒すことが叶いました」

「どれだけ犠牲にしたんだか…」



吐き捨てる様に言ったアレクの言葉に、笑みを浮かべていた大司教の眉がヒクついた。


歩みを進め、大司教はアレクの前に立つ。

笑みは消えている。どこか威圧的だ。

聖剣を渡し、アレクの手に渡っても何の変化も見られない事に溜め息をつく。



「聖剣の覚醒も出来ない者が、何を言っても仕方のない事です。 方法は、聞き出せたのですか?」

「まだですよ。 ちょっとばかし邪魔されたんで」

「エリザベスには会えたのでしょう? さっさと吐かせてしまいなさい」

「あんたがその名を呼ぶなよ」



聖剣の切っ先を大司教の喉元に突き付ける。

少しでも動けば皮膚が切れる距離だ。


そんな状態でも大司教は慌てる必要は無かった。

彼もまた、蘇生の優先を国から指定されている人物だからだ。

死んだところで、また目覚めるなら恐怖など感じない。それがパブリッツの考えであり、その教えを幼い頃から洗脳教育されたのがアレクであった。


生きる為に従順にしていたと彼は言うが、染み付いたものは落としきれはしない。

無意識にもその思念を持っているアレクは周りから異端者の烙印を押されている。

どれだけ肉体が拷問並みの苦痛を味合わされても治れば何事も無かった様に過ごせる彼は痛みにも、死にも恐怖しないネジの外れた者だと。



大司教は素手で聖剣の刃を摘み、下げさせた。



「教会が魔王と関わっているなど二度と口にしないように。 魔王は新たに誕生しかけている、それが真実。異教徒の戯言を信じるなら、貴方はもう勇者ではありませんよ。いいのですか?」



聖職者たれと言わんばかりの笑顔に吐き気がした。


それだけ追求しても、エリザベスを殺した過去を話そうとせず、遂にはその考えは異教徒の教えだと言い張り始めた。

禁書を世間にばら撒けば意見はひっくり返るが、その保管室には易々と入れない。

前に一度侵入した事で、アレクの信用は落ち警戒されているのだ。


このまま大司教の首を落とせたら少しは晴れるのか、アレクは試したくなる手の力を抜いた。

切っ先が首から離れ、大司教は扉に向かい歩く。



「少し祈ってはどうでしょう。 貴方には信奉の気持ちが足りなさそうだ」

「…えぇ、そうしますよ」



立ち尽くすアレクを置いて、大司教は扉を潜った。

アレクが入ってきた様な音はせず、静寂だけが大聖堂に残る。


聖剣を鞘に納め、アレクは神の彫刻を見上げた。



彼に、祈る神などとうに居ない。


もし祈るのであれば……




「リサちゃん、早く会いたいなー」




アレクは静かに目を閉じた。


再び、扉が開く。

入ってきたのはアレクと似た年齢の男女。

皆腰や肩にそれぞれの武器を携え、服はアレクと同じ支給品をそれぞれ着崩していた。

その中で唯一教会側の、キャソックを着た青年が一歩前に出る。



「やあ、アレク。 大司教様の教えは身に染みたかい?」

「エイブラム…、もぉ変な事聞かないでよねー」

「ごめんごめん。 大司教様が不機嫌な顔で出てきたからさ。 改めて、お帰りアレク」

「ただいま。 でも悪い、情報はまだ得られてないんだよ」

「いいさ別に。 急がなきゃいけないのは確かだけど、こればかりはね…どうしようもない」



エイブラムは首から掛けているロザリオを触った。

神に祈っても仕方のない事をこの青年達は分かっていたが、それでも縋らずにはいられず神父になった彼を責める者はいない。

むしろ禁書の在り処をアレクに流したのはエイブラムだ。



「明日またここを発つよ。 残りのチャンスは一回しかない」



死ぬ方法は幾らでもあれど、自殺などで教会が蘇生をしてくれるわけがない。

あくまでも討伐中に死ななければ勇者を代替えされるのがオチだ。

まだ教会が自分を勇者だと扱ってる内に何としても聖剣を覚醒させなければならない。


でなければ、魔王を倒せない。

また代わりの勇者が立てられ、命を無駄にするだけだ。



それではリサの憂いを晴らす事が出来ない。



アレクはあの悲しげに目を伏せ続けるカロンに笑って欲しかった。


それは彼の唯一の執着だった。

読んでくださりありがとうございます!

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