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【2】蘇れない人

結構早めに展開進みます(´-`)

そして変な奴が出ます。




「えへっ、来ちゃった」

「……………、今世紀最大に心が萎えました」



性懲りも無くまた冥府の入り口にやってきたアレクにリサは軽蔑の眼差しを向ける。

舌を出し可愛く小首を傾げようともそれをやっているのがアレクの場合リズはどの仕草も受け付けないだろう。

顔は良いのに勿体無いやつ。それがリサのアレクに対する評価だ。

さっさとゲートに運ぼうと無言でアレクの襟首を掴み引っ張る。

引きづろうとするとアレクにしては珍しく狼狽えた声を出した。



「まっ待ってリサちゃん! 今日は紹介したい奴がいるんだよー」



アレクがそう言って手招きすると、列の中から魔石の埋め込まれた杖を持つ柔和な笑みを浮かべる男が出てきた。

男はあまり若そうには見えなかったが、勇者アレクのパーティの魔術師をしていて此度はアレクを庇い死んでしまい、仲良くリサの元を訪れている。

アレクが死んでいるので、この魔術師のした事は無駄に終わっているにも関わらず笑みを絶やさない姿に胡散臭さを覚えた。

アレクも大概笑っているがそれとは違う少し面倒な臭いがしている。

この仕事をしていて自然と身に付いたスキルだ。



「いやはや、こんな所で可愛らしいお嬢さんに会えるとはわたくしの運気も捨てたものではないですねぇ!」

「………、カロンです。お嬢さんは止めていただきたい」

「これはこれは失礼致しました」



仰々しくお辞儀をする姿はどこか演技めいている。

この男は自分に酔うタイプらしい。

リサは湧き上がる嫌悪感を隠す事なく眉間に皺を寄せた。



「この度わたくし、アレク君を庇い死んでしまいましてねぇ。それはそれは恐ろしい魔物でしたが、勇者を死なせてはいけないと言う秘めた気持ちが溢れてしまったのですっ!」

「はぁ、勇者死んでますけどね」



ついつい言ってしまい、男がピタリと動きを止めた。

笑いを堪えていたアレクが噴き出す。

笑う暇があるならこの酔い痴れた男を何とかしろと睨むがそれはスルーされた。

アレクは腕を組み、傍観する気満々である。

リサは仕事だからと言い聞かせて、奥歯を噛みしめた。


動きを再開した男は顔を両手で覆った。



「えぇそれはもう! わたくし今強い後悔の中に居るのです!」



男は遂に手振りを付け始めた。

三文芝居を見せつけられ、今世紀最大に萎えた瞬間が早くも更新された。



「アレク君を庇いきれなかったこの身を嘆いております! 弱いわたくしを神はお許しになるのでしょうか!?」

「いや、知りません。そもそも私ただのカロンですので…」

「では麗しきカロンさん、わたくしは貴女の前で誓いましょう。 現世に戻った暁には!次こそは!この人族の希望アレク君を守りきるとねぇ!! さぁわたくしを蘇りのゲートへ誘って下さい!」

「あの、貴方に次はありませんよ。列にお戻り下さい」

「………………………へ?」



リサに跪いて手を伸ばした男は、その滑稽なポーズのまま固まり、似合いの呆けた表情を浮かべている。

遂に堪え切れなくなったアレクは盛大に笑い出した。

いかんせんこの勇者は性格が悪いらしい。

溜め息をつき、面倒くさそうにリサは震えている男と目を合わせた。


その震えは怒りか羞恥か、はたまた恐怖か。



「ですから、貴方はあちらの列へお戻り下さいと言ったのですが」

「で、ですがわたくしは勇者を庇ってですね!」

「えぇ、それもう聞きました」

「でしたら可笑しいでしょう! わたくしは勇者を庇った! つまりは世界が魔王の手に堕ちるのを庇ったも同意ではないでしょうかねぇ!?」

「………、だからなんですか?」

「!!!?!」



先程よりも男の震えが酷くなる。

あぁ怒りだったかとリサは納得し、手元の資料を見た。

それは現世の動きが記載されていて、何処の誰が蘇生術をかけられているかが一目で分かるカロン御用達のアイテムだ。冥府から支給された物だけれど。

何枚か有る資料を捲るが、やはり男の蘇生が行われているとは何処にも書いていない。


こう言う勘違いは時折起こるのだ。

クレーム対応は研修を受けている。

上手いか下手かは置いといて…。



「貴方の蘇生、誰も行ってないんですよ。アレクさん、あれって死後何時間が有効でしたっけ?」

「ふふっ、確か八時間だったと思うよー」

「ではもう無理ですね。貴方がたが死んだのは昨日の事ですから。 アレクさん、貴方態とゆっくり歩いて来たでしょう」

「いやー、バレちゃったか!」



リサの質問にようやく口を開いたアレクは至極楽しそうだ。


蘇生術には有効期限がある。

死後八時間を超えた場合、蘇生術は効力を発揮せず蘇生は成されない。

それが教会が提示したレッドラインだ。

彼はそもそも男が蘇生されないのを知っていたにも関わらず、態と歩みを遅らせレッドラインを超えさせた。

もちろん冥府から現世に連絡する手段があるはずも無いのでどの道この魔術師は死ぬしかないのだが、レッドラインを超えていなければまだ希望を夢見れただろうに。



「おまっお前、 オレを騙したなっ!! 自分と居れば蘇りが出来ると言っただろうがっ!!」

「あれー、メッキが剥がれてますよ魔術師殿。いいんですか?」

「黙れ!この異端者がっ!! 」



お互いが向ける目は、仲間を見るそれでは無い。

明らかに侮蔑を孕んだ視線を送っている。


リサは何となくこの二人の間柄が読めた。

単純にアレクはこの男が嫌いなのだ。

それも、自分が死んでまでこんな嫌がらせをするくらいには。



「違うんですよカロンさん! わたくしは、わたくしは本来死ぬ筈じゃなかったのです!!」



男は膝から崩れ落ち、リサのローブの裾にしがみ付く。

呆れて物も言えなかった。

アレクの行い然り、この男然り。

何故無条件に自分が蘇生されると思ったのか。疑わず言葉を鵜呑みにするからバカを見る。

リサは苛立ちを今すぐこの男にぶつけたかったが、それより優先するのはこの今にも笑い転げそうな勇者の魂をゲートに送る事である。



「あの、そろそろいいですか? 私、アレクさんをゲートまでお連れしなきゃいけないんで…」

「!!! ならわたくしも連れて行きなさい!!それが道理なのです!!」

「それって現世での道理ですか? 」

「違う違う違う!わたくしは多才で高名で…こんな事で死ぬ筈じゃないんだっ!!」

「申し訳ないのですが…冥府ではそれをクレームと呼んでいますので」

「あぁ嫌だ嫌だ!!!死にたく無い!!! 誰か蘇生をしてっ」



もう死んでいるとは突っ込めず、リサは足で軽く地面をノックした。


すると男の座っている地面が円形に割れ男は重力に従いその円形の穴に落ちていく。

男の言葉は途中で切れ、もう姿形も無かった。

カロンが使える強制送還の術で、こうして死んでるにも関わらず駄々を捏ねる者に使う為ハデス直々に仕込まれた技だ。

リサがこの冥府で長く働いている証拠でもある。


一仕事終え、今度こそ何も言わずに爆笑しているアレク引っ張り迷いの霧を歩き始める。

いつもより乱暴に歩くリサにアレクも笑いを収めた。



「あー、笑った笑った。…面白い余興だったでしょ?」

「……………」

「無視は傷つくなー。リサちゃんの笑顔見たかっただけなのに」

「何故また来たんですか」



その言葉を機に、リサは迷いの霧の中で立ち止まる。

答えるまでは動かないと理解したアレクはあっけらかんに答えた。



「だってまだ本当の名前教えてもらってないんだもん。 リサって愛称でしょ?」



このまま手を離してしまおうかと思った。


嫌いな人間と手を繋ぐのがこんなにも不快だとリズは初めて知った。



「ねねっ、今回はさ四天王の風使いに細切れにされちゃったんだよね。 もちろん倒したけど肉体再生も同時にやってるからそっちに時間かかりそうだしさっ」



離さないとばかりにアレクは強くリサの手を握る。





「…もうちょっと込み入った話、俺としない?」




読んでくださりありがとうございます!

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