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【1】お喋りな勇者

ガバガバ設定の冥府です^^;

あまり考えず読んでもらえると嬉しいです!

暗闇でもなお映えるブロンドを後何回見ればいいのだろう。


冥府の入り口に潜み魂を船に乗せ運ぶ。

それらは全員カロンと呼ばれていた。

長いローブを身に付けフードを冠る一人のカロンは小さく溜め息をついた。

目深に冠ったフードで表情は見えないが、おそらく呆れている。

向こうもこちらに気付いてそのブロンドの頭を掻きながらはにかむ。



「また来たのですね。 これで何回目ですか?」

「いやぁ、………いっぱい?」

「合計15回目です。アレクさんは歴代に名を残しそうなぐらい弱々勇者ですね」

「最近また魔物が強くなってきてね、困っちゃうよー」



若干焦げた臭いをさせるアレクに今回は焼死か、とカロンは納得した。

最初こそ旅に出たての頃はしょっちゅう此処、冥府に来ていたが最近はピタリと記録が途絶えていてようやく一人前に成ったのかと思った矢先の出来事だ。

この勇者は成長しないのかと疑ってしまう。


現世では今まさに魔王討伐に向けて人類一丸となって戦っている。

噂によれば天壌の使いも参加しているらしい。

戦力差は魔王軍に軍配が上がるが、士気は人類軍の方が高く戦況もそろそろ人間側に傾くだろう。

冥府に来る戦場を駆けた者達は口々に言っている。


その人類軍を率いているのがこの勇者のはずだが、弱いのか才能が無いのか、彼は度々死んでいる。

教会に死体を持って行き蘇生の呪文を大司教か10以上の神官を集めかけてもらえば1日と経たずに蘇れるがこうも死んでは勇者としての信頼を無くしそうなものだが、本人曰く大丈夫だそうだ。



「んじゃ、カロンちゃん、今回もお願いします!」



明るく元気に握手をする様に伸ばされた手をカロンは取る。



「後ろでこちらを睨んでる女性はお知り合いですか?」

「ん? あぁあの子はほっといていいよー。どうせ蘇生はされないしね!」



そうですか。と納得しアレクを引っ張る。

女性は何か言いたげだが、ゆっくり聞いてる暇は多忙なカロンには無いのだ。

それこそアレクを運んだらすぐに船に乗り魂の運搬をしなければならないのだから。


普段は船に乗せて一度の多くの魂を冥府の主人、ハデスの元へ連れて行き並ばせその魂の采配を任せるが、とどのつまり勇者や英雄などの蘇りを強く望まれると思わしき魂は采配を待たずに蘇りのゲートに直行出来る優先権を持っていた。

並ばせて采配を待ってる間に世界が滅んだらそれこそ今でもギリギリな運営なのに冥府がパンクしてしまう。

それを恐れたハデスはこの時短システムを導入した。

結果カロンの仕事が増えただけな気もするが、カロン達もそう大量に来られても困る為文句は言わない。


短縮して蘇りのゲートまで行くには迷いの霧を通っていかなくてはならない。それは冥府に来た魂がハデスの采配を恐れて逃げて行かない様に作られていて、カロンの案内無しではその霧を抜ける事が出来ず一人で入った魂は永遠に彷徨い続ける。

その為、優先権を持つ魂を一人一人丁寧に運んで行かなくてはならないのだ。

仮に勇者の手を離し彷徨わせてしまったら、累計何億個の魂の中から勇者の魂を探すはめになる。


想像しただけで気が遠くなる惨状にカロンは身震いした。

決して離さない様に強く勇者の手を握る。

アレクに至っては慣れたものだ。足取りが軽い。



「ねぇねぇカロンちゃん、もう15回も俺達会ってるんだからさ、そろそろ名前教えてくれてもいい頃じゃない?」

「…呼んでいるじゃないですか」

「カロンは役職でしょー。 違くて、ほら本名の方だよ」

「教える義理は無いです。そもそも冥府の者の名前を知って貴方に何の得があるのですか?」

「んー、カロンちゃんともっと仲良くなれる事!」

「尚更お断りです。気色の悪い…」

「酷いよ! 俺勇者だよ!? もっと優しくしてよー!」

「うるさい人ですね。 ほら着きました、もう蘇生の準備は済んでるみたいですよ」



ゲートの隣に有る水桶を覗き、現世の状況を確認する。

水桶には勇者の死体が運ばれた教会の内部が俯瞰で映っていた。

焦げた勇者の死体を魔法陣の中央に乗せ、数十人の神官達が囲み呪文を唱え続けている。

徐々に死体が元に戻っていくのはある意味圧巻だ。

これだけの人間がアレクの蘇生を望んでいるのに、本人は相変わらずヘラヘラしていた。



「ね、カロンちゃん! もし20回目を迎えたらさ、お祝いに名前教えてくれるってのはどう?」

「不謹慎かつ死者への冒涜はやめて欲しいです。 何回も冥府へ訪れて私に会うって事はそれだけ蘇生してもらえると言う事なのですから、もう少し死なない努力をして下さい。少しは彼等の期待に応えようとか思わないのですか?」

「え?全然。 だってあいつ等、魔王を倒せれる可能性がある奴なら結局誰でもいいんだからさ、頑張ったて同じだよ」

「…どう言う意味ですか? 勇者は聖剣に選ばれし魔を撃つ唯一の使者のはずでしょう?」

「ま、現世では俺は異端なんだよね。 だから冥府にいる時だけが落ち着くんだー」



初めて見る自嘲気味な顔にカロンは戸惑った。

それでも、そこまで世界に望まれる彼がいつもお気楽そうに居るのが納得いかなかった。


アレクはすぐにいつもの表情に戻ると、優しく笑う。



「あ、死ぬ事態とじゃないんだけど。若干カロンちゃんに会いたいなーって気持ちも有るんだよね!」



だからすぐ死んじゃうのかも! と、緊張感無い笑顔で言われいよいよ苛立ちを隠せなくなった。



「………リサです」

「え…?」

「名前、知りたがっていたじゃないですか」

「えーっと、もしかして怒っちゃった…とか?」

「よく分かってるじゃないですか。 私は、死を恐れない愚か者は嫌いですので…」



ゲートまでアレクを強く押し出した。

よろける程度だったが十分だ。後は現世で唱えられてる呪文がアレクの魂を呼び寄せてくれる。

ゲートに吸い込まれていくアレクは何か言っているがもう声はリサに届いていない。

アレクもそれを理解したのか、最後は口を閉じ悲しそうな表情を浮かべる。



「さよならアレク。 もう会う理由も無いのでこれっきりなのを祈っていますね」



完全にアレクの魂が現世に戻り、水桶には勇者復活を喜ぶ神官と微笑み涙ぐむパーティの面々。


ただ呆然としている無表情のアレクだけが、その場で確かに異端だった。

読んでくださりありがとうございます!

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