9.
ここから視点が変わります。
数話は説明回になります(たぶん)
私の名前はコンラート=リナルド=ヴォルタ。
ヴォルタ侯爵家の男だ。
10年前、従弟のジェラルドの策に嵌った振りをして表舞台から消えていた。
これは先代国王、現国王もご存じだ。
ジェラルドの内縁の妻のマリアは『闇の魔女』の生き残り。
『闇の魔女』とは違法な魔術や魔具を使って闇の仕事を請け負っていた犯罪集団だ。
私が学園に通っている時、貴族令嬢が誘拐され他国に奴隷として売られるという事件が相次いだ。
私の最愛の婚約者であったヒルダも誘拐されてしまった。
私は父に頼み込んで捜索隊に加えてもらった。
本来ならまだ学生の身分である私が参加できるはずもなかったのだが、時々騎士団の訓練に参加しており、その実力が認められたための特別処置だった。
マリアは学園に入学(潜入)し、身分問わずに友人(獲物)を作っていった。
私のヒルダもマリアの獲物の一人にされたと気づいたのは、ヒルダが学園から帰宅する途中で誘拐された時だった。
当時、ヒルダは生家の伯爵家ではなく叔父の男爵家から学園に通っていた。(学園は必ずしも全寮制ではない。ただ希望者が多いので勘違いしている人が多いだけだ)
ただ単に伯爵家のタウンハウスを改築中だったために近所に住んでいる叔父が手を差し伸べただけだが、なぜか社交界でヒルダは男爵家の養女になったという噂が流れた。
噂を流したのはマリアたち『闇の魔女』であることはのちにわかったことだが……
まあ、その噂は即座にヒルダのご両親が満面の笑みを浮かべて否定したけどな。
正直、あの時のご両親は怖かった。
うちの両親なんて足元にも及ばないほどの恐怖を私に植え付けてくれた。
通称『闇の魔女事件』は父が発明した魔具のおかけで早急に終息した。
囮の女性に魔具を持たせ、犯人のアジトを特定し、囮の女性または犯人が魔具を破壊することで大勢の騎士を転移させるという何とも言えない方法で解決した。
正直成功するとは誰も思っていなかった作戦だった。
『闇の魔女』の関係者は悉く捕縛したのだが、すべてを捕えることはできなかった。
リーダー格の者と資金を提供していた者は裁判後、処刑が実行された。
捕縛を逃れた者たちは監視されていることを知らずに普通に生活していた。
多くの者はいつ捕縛されるのかびくつきながら生活し5年もたつと精神を蝕まれ自ら命を絶って行ったが。
そんな中、次期リーダーとして活動していたマリアは養子先(平民の商家)から男爵家に戻っていた。
男爵家は必死にマリアの罪を握りつぶしていったが取りこぼしはあった。
マリアの両親は『闇の魔女』に子供を殺された者たちによって事故死に見せかけて殺されたが、これについては不審な点は一切ないため、ただの事故死として処理された。
また、マリアの兄弟たちは国外に逃げ、その先で戦に巻き込まれ全員死亡が確認された。
男爵家は取り潰しとなった。
唯一残ったマリアは母親の姉の嫁ぎ先である伯爵家に引き取られた。
なお、養子縁組はしていないが、教育費として男爵家の財産(隠し財産含む)はすべて伯爵家に贈与されたという。
いわば、迷惑料みたいなものだな。
最後の最後までかなり一族でもめていたから。
マリアたち『闇の魔女』の残党は地道に資金をため、再び表舞台に出る機会をうかがっていた。
なぜ、私がそのことを知っているかというと、酒に酔ったマリアが城下町の飲み屋(『闇の魔女』の仲間が経営している)で話しているのをたまたま聞いたからだ。
国王にその旨を報告すると、しばし泳がせることになった。
『闇の魔女』の所業や顛末は国民全員が知っている。
早急に再び動くことはないだろうという判断だった。
その判断は半分あたり、半分外れた。
確かに『闇の魔女』という組織は動いていない。
だが、個々では動いていたのだ。
資金集めのために。
まあ、祖母が開発し、父が作り上げた防犯魔具のおかげで大きな事件は一件も起きていないけど、小さな事件は起きていた。
祖母と父が作り上げた魔具は『犯罪者ホイホイ』といわれるような防犯魔具だった。
個別に動いているため連携が取れず、私たちが張っていた罠に次々と捕まっていったんだよな。
きっと祖母が生きていたら犯罪者たちを指さして笑っていただろうな。
祖母が開発したと言われる拷問魔具はすさまじかった。
どこから発想を得たのか、一見しただけではさほど恐ろしくない道具なのだが拷問が始まると……言葉では表せないほどの地獄だった。
決して口を割らない犯罪者の口を簡単に開かせるほどに凄まじかった。
拷問の魔具を付けられ、笑いながら死ぬってどういう状況だ!?と初めてその拷問風景を見た者全員が叫んだのは事実である。
ちなみにいちばん囚人にやさしい拷問である。
それ以外はかなりグロイので説明は避けよう。
さて、私が10年間隠れていたのはマリアが私の娘に近づいたことが原因だ。
マリアが『闇の魔女』のアジトの隠れ蓑として『クローチェ商会』を立ち上げていたことを突き止めたのはアリアンナが史上最年少で魔術師の資格を取得したころだった。
それまでは決して尻尾を出さなかったが、長い間泳がせていたからか油断したのだろう。
娘が魔術師の資格を取得するとそれまで必要以上に近づいて来なかったのがうそのように娘の周りをうろちょろするようになった。
娘は突然付きまとい始めたマリアに嫌悪感を抱いていたが、マリアの前では猫を被っていた。
それも最大級にでっかい猫を。
初めて娘とマリアのやり取りを見た時は、私もヒルダも即座に反応ができず無表情になっていただろう。
だが、かえってそれがよかったのかもしれない。
マリアは娘は私たちに可愛がられていないと嘘を周囲にばらまき始めた。
もっともその噂を信じているのはマリアの周りだけだが……
マリアはジェラルドをヴォルタ家の当主に据え『闇の魔女』を復活させることに奔走し始めた。
たびたび送られてくる刺客に少々辟易し始めていた私たちは一計を案じた。
それが『アリアンナ以外が馬車事故で死亡』というものだ。
娘のアリアンナがジェラルドとマリア……主にマリアを焚き付けてくれたおかげだ。
まあ、多少の誤差は出たが私とヒルダ、息子のクリスの死を演出できた。
娘のアリアンナにはつらい思いをさせてしまうと悔いていたが
「大丈夫!私は基本、学園の寮で生活しているんだもの!せいぜい月一で顔を見せる程度で誤魔化せるわ!」
とものすごい笑顔で言われた時は正直悲しかった。
もうちょっとこう、嫌がってほしかったというのが本音である。
誰が好き好んで可愛い娘を魔女のもとに残さなければいけないんだと最後までごねたのは私だが……
私たちの事故後、しばらくは大人しくしていたマリアだが、王子たちの婚約者選びをきっかけに徐々に『闇の魔女』の活動を再開し始めた。
そのターゲットは国内ではなく国外だった。
ローズを第二王子の婚約者候補に立て、徐々にその活動の場を広げていった。
そういえば、アリアンナが第一王子の婚約者候補に選ばれた時は思わず呪いを掛けるところだったよ。
え?誰にって?
もちろん、国王と第一王子にだよ。
第一王子はまだ私が現役の騎士だった時に、ヒルダと一緒に差し入れを持ってきてくれていたアリアンナを見つけてはいじめてくれていたからね。
まあ、それが好きな子の気を引きたいという男の心理だとわかっていても許せなかったね。
毎回、涙を浮かべながら私に抱き付いてくる娘はとっても可愛かったけど……
だから釘を刺しておいたんだけど、さらりとそれを忘れていた陛下を呪わずにいられなかったよ。
話がずれた……
マリアたちの行動はアスマン公爵に事前に情報は漏れていたらしく、クラリーチェ嬢がうまく対処してくれたおかげで国際問題に発展することはなかった。
クラリーチェ嬢と第一王子の名声は上がったけどな。
まあ、これも国王の計画のうちにすぎないけどな。
第二王子と側近候補たちの抵抗も国王の計画の一部にすぎないと気づいたときは醜聞が広がりすぎてしまっていた。
その収拾をあのようなねつ造映像で推し進めるとは思わなかったけどな。
まったく。
多くの人たちは気づいていたがジェラルドやマリアと親しい者たちは全然気づいていなかったな。
あの違和感しかない映像について。
アリアンナ曰く『身に付けている間、周囲の状況をつぶさに記録する装置』とは魔具から見える光景を映し出すもの。
だから男女が睦みあっている状況を第三者視点で映し出してあったあの映像は偽物。
身に着けた状態で睦みあっているのなら相手の姿しか映し出されない。
魔具を付けた人物まで映し出されることはないのである。
第二王子の横領などもすべてねつ造。
あの映像の中で真実など一つもないっていうからすごいよな
それにしても、第二王子とその側近候補たちは演技がうまいな。
自分たちの道をつかむためとはいえ、あのような道化を自ら演じるとは……
まあ、そのおかげともいえるが各々が家の柵から解き放たれ進みたい道に進めるのはよかったのだろう。
側近候補たちの親や婚約者たちも積極的に協力していたとはいやはや……
なら最初っから後継者に指名しなければいいものの……
なんとも回りくどい方法をとったのだろうね。
まあ、どの家も『名門』と呼ばれる家だから理由がわからないでもないが……
今回のやり方のほうが傷が深いとわかっているだろうに……
なにか思惑でもあるのだろうか。
そこは追々調べるとするか。
そういえば、ガーネット嬢の演技も素晴らしい。
特にローズ暗殺依頼の場面は鳥肌が立ったよ。
さすが別大陸にまで名声を轟かせている大女優の娘さんだ。
ヒルダとアリアンナが熱を上げている女優さんの娘さんだと知った時の二人のテンションの高さは若干引いたけどな。
後日話をする機会があったのだが、カメラが回っていることを知っていたので思わず『女優魂』に火がついてしまったんですと話していたな。
第二王子たちのウェス国への留学は予想外だった。
その監視役にアリアンナが就いたのはきっと国王の差し金だろう。
アリアンナはウェス国に太いタイプを持っている。
情報操作もアリアンナがちょっとお願いすればかなう程度のものだったのだろう。
こう考えると、国王の掌の上で踊らされているようだ。
まあ、ヴォルタ家の名は底辺にあるので私は逆らえないから踊り続けるしかないんだけど。
『クローチェ商会』と『闇の魔女』の確かな証拠が出そろったことで大掛かりな『魔女狩り』を行うことを国王は決めた。
その舞台を第二王子の成人祝いのパーティーにしたのはきっと第二王子をすんなりと王家から引き離すためだろう。
魔石研究は今、急速に進めている案件でもあるしな。
それにしてもあの第二王子も成人か……
しょっちゅう城を抜け出してはアリアンナのもとに駆け込んでいたあの甘えっ子がね~
さて、昔話はこれくらいにしようか。
引きこもりで妄想癖が激しい従弟殿には早々に表舞台から退場してもらおうか。
彼が信じている『世界』は幻だとはっきり告げなければな。
まあ、夢見ていた『ヴォルタ家の当主』を少しでも体験させたんだ。
いい夢は見れただろう。
すべては裁きの場で国王が決めてくれるだろう。
『生』という地獄か、『死』という楽園かを……
ここまでの話との差異というか矛盾点が出てきますが、視点変更のせいですヾ(- -;)オイオイ
今回から主役の座を奪ったコンラートさんはわが作品の今までパパさん同様の性格をしています。
ウザったいほどに妻と子供に甘いけど、やるときはやる人です……多分
しばらくコンラートさんの暴走におつきあいください。
次回も説明回……になりそうです。
あ、アリアンナのお相手決定しました。
その話もちょこちょこ混ぜていく予定です