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先読みしていた姪(仮題)  作者:
ジェラルド視点
7/13

7.

第二王子が帰国された数日後、私とマリア、ローズが王宮に招かれた。

アリアンナは事後処理があるという事で魔法省へ出かけている。


王妃主催の茶会への参加


王子の婚約者を辞退した我が家がなぜ招かれたのかはわからないが、王家からの誘いを断ることもない。


普通、こういうお茶会に呼ばれるのは女性だけでは?と思いつつ私も参加した。


招かれたのは我が家だけだった。



「アリアンナ=ヴォルタ嬢に捕縛命令が出たの」


静かに持っていたカップをソーサーに戻しながら王妃様は告げた。

その言葉の意味を理解するのに時間が掛かった。

私もマリアもローズも。


「だからね、今朝の朝議の後、アリアンナに捕縛命令が出たのよ」


扇で口元を隠しながら再度告げる王妃様に私達は声が出なかった。


「今頃、騎士団に拘束され牢に入れられているのではなくて?」

傍に控えている護衛騎士に視線を向けると小さく頷いている。

「先程、第三騎士団に連れられて取り調べに入っているそうです」

護衛騎士はイヤーカフスに触れながら王妃様の問いに答えていく。

どうやらあのイヤーカフスで騎士団と連絡を取り合っているようだ。

「アリアンナ嬢は抵抗もなく大人しく担当騎士の指示に従っているとの事です」

「そう、ありがとう。下がっていいわ」

王妃様が扇を軽く振って騎士を下がらせた。

結構年若い騎士だが胸にある飾りで騎士団第一部隊の隊長であることがわかる。


第一部隊は近衛隊と呼ばれ主に王族の護衛をする少数精鋭部隊。

第二部隊も近衛隊の一部だが主に国賓の護衛を担当。

第三部隊以降は王城警備、城下警備、地方警備と中央から遠ざかっていく。


第一部隊と第二部隊は騎士にとって花形でありエリートの証でもある。

第一または第二に配属されるという事は婚姻に置いて優良物件と見なされる。


彼もまた、最高物件となっている事だろう。

黒い髪は珍しいが辺境地域には多い色合いだ。

彼も辺境出身なんだろう。

瞳の色は私の席からはよく見えなかったが、赤みが掛かっていたようだな。

顔のつくりも悪くない。

むしろ、眉目秀麗だ。

これは世の女性が放っておかないだろう。


「王妃様、彼は?」

ローズが先ほどの騎士について尋ねると王妃様はにっこりと笑みを浮かべた。

「あら、ローズは彼に興味があるのかしら?」

からかうような言葉にローズは瞬時に顔を赤らめた。

マリアは微笑ましい笑みを浮かべてローズを見つめていた。

ほー、ローズの好みはあのような男か……

あとで調べておくか。


「彼はフィーニ辺境伯の三男でファウスト=スカイ=フィーニ。年は……たしか22歳だったかしら?侯爵は気づいていると思うけど第一部隊の隊長よ。最年少で騎士団に入り、あっという間に隊長職に就いたの。容姿も優れているし騎士としても優秀。騎士団内で5本の指に入るほどの剣の達人。彼目当てのお嬢さんが連日訓練場に列をなしているそうよ」

先程の騎士に聞こえるように話す王妃様だが、彼は表情を変えることなく護衛に徹していた。


ローズは彼のことが気になるのかチラチラと視線を送っている。

それをマリアと王妃様はくすくす笑いながら会話を続けている。


フィーニ辺境伯か。

あそこは高質な魔石が取れることで有名な領地だったな。

アリアンナが良く魔法省の人間と一緒に訪れていたはず。

アリアンナが作る魔具に組み込まれている魔石の殆どがフィーニ領だったと記憶している。

親しくする分には損のない家だな。


「来月、第二王子の帰国及び成人の儀のパーティーを開きます。その時にフィーニ隊長にも警護としてではなくゲストとして参加するよう手配しましょう」

「本当ですか!?」

王妃様の提案に嬉しそうに声を上げるローズ。

「ええ、フィーニ隊長。そのように」

王妃様が声を掛けると彼は胸に手を当てて深々と頭を下げた。

それは『了承』を意味していた。


そのあとはマリアとローズが社交界で広まっている噂などを話してお茶会は終了した。


お茶会の帰り際、王妃様が満面の笑みを浮かべていることに私達は気づかなかった。

あの『要注意』の笑みを浮かべていることに……


***


第二王子の帰国&成人の儀のパーティーは滞りなく行われている。

ローズは王妃様の口添えでフィーニ隊長をエスコートに迎えて参加することができ上機嫌だ。

父親としては少々複雑な気持ちだが、あれから彼のことを調べ彼ならローズの相手に不足はないと判断した。

彼とローズが縁を結べば良質の魔石を安く融通してもらう事も出来るだろう。

そうすれば今よりも魔具を手ごろな価格で販売できるかもしれない。

今より魔具の使用が広がれば広がるほど我がヴォルタ家の財政は潤う。

全てはアリアンナがいろいろな魔具を開発してくれるからだ。

ヴォルタ家の収入は7割ほどがアリアンナの魔具の売り上げによる収益だ。



「さて、ここで皆に伝えたいことがある」


国王陛下が声を上げると会場は静まり返った。


「ルーカス=ディ=リーゾ、前へ」

「はい」

陛下の前に跪き頭を下げる第二王子に多くの者達がざわついた。

かくいう私も驚きを隠せない。

以前のワガママ王子の面影が全くなくなっているのである。

そこには王族としての貫録を身に付けた青年がいた。


「1年半の留学、ご苦労であった」

「いえ、陛下には感謝しかございません」

「感謝?」

「私にやり直しのチャンスを頂けたことです」

「そなたはまだ【未成年】であったからな。だが、今日からは違う」

いったん言葉を切った陛下は会場全体を見回した。

「今日からは一人の大人だ。そなたにも責任が生じる。今までは私たち親がフォローしてきた。だが今日よりそれはできない。多少のフォローはしていくがそなたの行動、言動全てに責任が生じることを肝に銘じよ」

「はい」

「では、そなたにプレゼントを渡そう」

「え?」

驚きで顔を上げた第二王子に陛下はにやりと笑うと軽く手を叩いた。


会場の扉の一つが開き、純白のドレスを身に纏ったチョッチョ男爵令嬢の姿があった。

人々の間から驚きの声が次々と上がる。

なぜなら、チョッチョ男爵令嬢をエスコートしているのが宮廷魔術師の正装をしているアリアンナだから。


「あ、アリアンナ!?」

「お、お姉様!?」

私の隣りにいたマリアとローズも驚きを隠せずにいる。


アリアンナはチョッチョ男爵令嬢の手を引きながら第二王子のもとへと進んでいた。

誰もが好奇な目で見ているのだが二人とも堂々とした足運びだ。

男爵令嬢は以前のように足音を立てて歩く事もなく静々と進んでいる。

その顔には緊張しつつも笑みをしっかり浮かべていた。

アリアンナはまっすぐと前を向き、丁寧に男爵令嬢をエスコートしている。

真っ黒な魔術師のローブのいたるところに付けられている細い鎖飾りがシャラシャラと揺れている。

鎖飾りが会場の光を反射してキラキラと輝いている。

銀色の煌めく髪は首の後ろあたりでひとくくりにし背に流しているがこれもまた光を反射し煌めいているように見える。

ざわめいていた者達が次第に口を噤んでいく。


男爵令嬢とアリアンナが第二王子の元にたどり着いた時、会場は再び静寂に包まれていた。


男爵令嬢とアリアンナは第二王子に礼をした後、国王陛下に頭を下げた。


「わしからルーカスへの帰国及び成人祝いはチョッチョ()()令嬢との婚姻の許可だ」


ん?

今、陛下は『チョッチョ子爵令嬢』と言わなかった?

男爵令嬢の間違いでは……?


「あの、陛下」

「ん?なんだ?」

「ガーネット嬢は男爵家の令嬢だと記憶しているのですが……」

遠慮がちに声を掛ける第二王子に陛下は再びにやりとした笑みを浮かべた。

「半年前に、陞爵させた。チョッチョ()()()はこの1年半で我が国に多大な利益をもたらす功績を築いたからな。異例ではあるが2段階爵位を上げた」

「その功績とは?」

「【人工魔石】の精製だ」

「【人工魔石】……ウェス国では大量生産されているが衝撃に弱いため長時間の移動に耐えられないから出荷は一切されていないという」

「そう、【人工魔石】の精製の成功によりここ近年収集が難しくなってきた【天然魔石】の代替が出来るようになった。もっとも自然から生み出される【天然魔石】に比べれば魔力は半分以下と弱いし石自体の硬度も低い。だが、魔力が少ない者が使う分には何ら問題はない。よって今は貴族または豪商のみが手に入れることが出来る魔具を平民用に開発することが可能になったというわけだ。国内全土に【人工魔石】を普及できるように今後も【人工魔石】の精製に力を入れてもらうつもりだ」

驚いたように第二王子がチョッチョ子爵令嬢に視線を向けた。

「ちなみに精製方法を確立させたのはガーネット嬢だ」

「え!?」

素で驚く第二王子にアリアンナと子爵令嬢が顔を見合わせてクスリと笑っている。

「ガーネット嬢はアリアンナ嬢がウェス国から持ち帰った書物を読んで精製方法を見つけた。アリアンナ嬢ですら解読できなかった【人工魔石精製書】をあっという間に解読してしまったんだ。もっとも、王子妃教育も3カ月でクリアした程の才女だからある意味納得だ」


陛下の言葉に会場中がざわめいた。

チョッチョ男爵……ああ、今は子爵令嬢といえば高位貴族の男に媚を売る娼婦のような娘という認識しかない。

王子妃教育も3カ月で逃げ出したというのが社交界で広まっている認識である。


「ガーネット嬢、ご苦労であった」

「ありがたきお言葉ですが、まだ終わってはおりません。始まったばかりであります。私は今後も【人工魔石】の開発に精進する所存でございます」

「わかった。精進せよ」

「ありがとうございます」

深々と頭を下げるチョッチョ子爵令嬢に陛下は優しい笑みを浮かべている。

その隣に座っている王妃様もだ。


「あ、あの……」

「ルーカス、そなたの願いでもあっただろう?王籍を離れ魔石の研究に没頭したいと……」

「!?」

「そなたの学園や留学先での行動がすべて王籍から離れる為だという事くらい気づいていたわ。もっとも、やり方は最悪の方法だったがな。醜聞の捏造とは……いや、話し合いの場を持たなかったわし達もいけなかったのだろうな。そなたを醜聞へと導いたのはわし達だ。すまん」

「ちちうえ……いえ、陛下」

「実はな、そなたとガーネット嬢を学園で引き合わせたのはわし達だ」

「え?」

陛下の言葉は第二王子だけではなく私たちをも驚愕させた。

王族とアリアンナ以外を除いて誰もが陛下に視線を集中させていた。


「アリアンナ嬢からお前のことを相談されてな。昔、アリアンナ嬢が予備科に通っていた頃、ルーカスは城を抜け出しアリアンナ嬢に会いに行っていただろ?魔術の事や魔石の事を聞きに」

「ご、ご存じだったのですか?」

「そなたが常に身に付けている指輪に発信機を付けていたからな。影の護衛も付けていたし」

右手の小指に付けているシンプルな指輪を凝視する第二王子。

そういえば、幼い頃からあの指輪だけは外さずにいたな?

ただのリングだと思っていたが……発信機だったのか。

「え?でもこれには魔石は組み込まれて……………………まさか!?」

「お、やっと気づいたか?そう、魔石を削って作った特注品だ。制作に1年以上かかったけどな。魔術士達がありとあらゆる術を組み込んでくれたおかげで毒をはじめ、暗殺からも身を護ってくれた優れものだぞ」

さらっと今すごいことを言っていなかったか!?

暗殺から身を護った!?

どうやって!?

「わしも詳しい仕組みは知らないから知りたかったら魔法省に問い合わせるといい。当時の制作資料を保管してあるからな。まあ、もっとも誰もが見れるものではないだろうけど。魔法省長官との勝負に勝てないと見せて貰えないルールにしちゃったからな」

皆の視線が一斉に王族の背後で警備に当たっていた魔法省長官に向けられたが、彼はニヤリと笑みを浮かべるだけだった。

その笑みを見ただけで『あ、これは絶対に見せて貰えない』ということがこの会場にいる全員の意見だろう。


「本来ならそなたの婚約者選びは学園に入学後、そなたの希望を聞いてから始める予定だった。その時に魔石研究者であるチョッチョ殿との接触を予定したのだが……」

笑みを消し、真剣な眼差しで会場を見回す陛下。

「だが、諸事情で婚約者選びを学園入学前に行う事となってしまった。これは第一王子も同じこと。異例尽くしの事で大臣達には迷惑を掛けた。だが、そのおかげでよい人材を発掘することが出来た。協力してくれた者達に改めて礼を言う」

頭を下げることが出来ない陛下からの言葉に王子妃教育に携わった者達が臣下の礼をしていた。

「さて、話がだいぶそれてしまったので戻すとしよう」

パンと軽く手を叩いた陛下に宰相殿が一通の書状を手渡した。


「本日をもって第二王子ルーカス=ディ=リーゾから王位継承権を剥奪。王子位は婚姻の儀まで維持。半年後の婚姻の儀までチョッチョ子爵家にて子爵から次期子爵としていろいろと教わるといい」

「はい」

陛下の言葉に第二王子……いや、ルーカス殿が片膝を付き、深々と頭を下げた。

この宣言をもってルーカス殿の子爵家への婿入りが決定したという事だ。

「チョッチョ子爵には迷惑を掛けるが、よろしく頼む」

会場の奥の方にいるのであろう子爵に向けて陛下が言葉を掛けると会場の中央に歩み出た子爵はルーカス殿と同じ体勢を取った。

陛下はそれを見て一つ頷くと二人を立たせた。


チョッチョ子爵とルーカス殿は固く握手を交わしていた。


「アリアンナ=リラ=ヴォルタ」


凛とした声が会場に響いた。

声の主は王妃様。


アリアンナはその場に両膝を付け頭を下げていた。


「そなたにも苦労を掛けました」

「ありがたきお言葉でございます」

「しかし、まだ終わりではありません。この言葉の意味は分かりますね」

「はい、すべては両陛下の……引いてはこのリーゾ国の発展のために」

「わかりました。そなたの決断、嬉しく思います」


王妃様は開いていた扇を閉じるとすっと立ち上がった。


「ジェラルド=ヴォルタ、マリア=ヴォルタ、ローズ=ヴォルタをここに」


名前を呼ばれた私たちはなぜ呼ばれたのかがわからず茫然としていた。

ローズのエスコートをしていたフィーニ殿によって私たちは両陛下の前に連れて行かれた。


周囲の者達もこれから何が行われるのかわからず困惑の声がちらほら聞こえてくる。


ルーカス殿、チョッチョ子爵及び令嬢、アリアンナ、フィーニ殿は両陛下の脇に控えるように立っていた。

アリアンナは俯いており、表情がわからない。


あちらこちらに視線を向けていると宰相殿が手を叩き、静寂を促した。


「本来ならば個別の部屋で行うべきことかもしれないが、あえて公であるこの場で行う事を許してもらおう」

「……は、はぁ」

宰相殿が何を行うのかわからずただ返事をすると宰相殿から『礼儀すら忘れたのか』という言葉が漏れた。

だがその意味が分からない。

ただ呼ばれたからこの場に立っているだけだ。

「ジルベスター宰相殿、構いません。続けなさい。さっさと終わらせましょう」

「御意」

深々と両陛下に頭を下げた後、宰相殿は私たちに笑みを向けた。

その笑みは美しく、周囲の女性たちから感嘆のため息がちらほらとこぼれている。

「ジェラルド=ヴォルタ、マリア=ヴォルタ、ローズ=ヴォルタその方ら3名に尋ねたいことがある」

宰相殿の声が会場に響き渡った。




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