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先読みしていた姪(仮題)  作者:
ジェラルド視点
6/13

6.

第二王子がウェス国に留学して1年。


月一で送られてくるアリアンナの報告書は多くの人のため息を誘った。


まず第二王子。

ウェス国の学園(アリアンナが留学していた王立魔術学院とは別の学校)でやりたい放題やっているという。

お目付け役のアリアンナの忠告を悉く無視しているとか。

しかも、アリアンナの情報網(人脈)を知らないらしく、アリアンナの事を自分付の侍女だと言っているそうだ。


アリアンナはあえて訂正せず静かに微笑んでいるとか……


そして……またしても『運命の人』と出会ったと豪語しているらしい。

新しい恋のお相手は平民のユリア嬢。


ちなみにこのことはチョッチョ男爵(本当は準男爵だけど面倒なので男爵と呼んでいる)令嬢には伝わらないように厳重に箝口令を敷いている。

王妃様命令で!

といってもこのことを知っているのは留学組の家(王家を含む)の者とヴォルタ家だけであるので口を滑らせるという事はないだろう……多分。


相手の女性は第二王子が侯爵令嬢に冤罪を被せ婚約破棄され、新たに男爵令嬢と婚約していることを知っており、全力で避けているという事だ。

休日はアリアンナが防波堤になっているのだが、アリアンナは学園の生徒ではないので平日学園内では防ぐことが出来ないらしい。

そこで、アリアンナの友人の(学園に通っている)兄弟姉妹に協力してもらい彼女に第二王子が接触できない状況を作り上げているそうだ。

完全に防ぎきれてはいないが、そのおかげか、かなりの結束力が培われているという。

今まで敵対関係にあった家の者達もこのことをきっかけに歩み寄っており、政にも影響が出始めているという。


裏でアリアンアが新たな魔具や魔術の提供で釣ったという噂もあるが……まあ、想定内の出来事だろう。


政のことについてはウェス国の宰相殿から感謝の手紙が届き発覚したのである。

今まで敵対していた派閥が子供たちの影響を受けて歩み寄りを始めたことで今までギスギスしていた会議もスムーズに進めることが出来るようになり、次々と停滞していた案件が決まり国が上手く回って助かったというのである。


第二王子の状況を聞いた王妃様は陛下に「一体、誰に似たのかしら?」と微笑まれたとか。

その微笑みに陛下は口元をひきつらせていたというのはその場にたまたま居合わせたマリア情報である。

今でこそ、王妃様を溺愛されている陛下だが、王妃様に出会うまでは蝶のようにあちこちと飛び回っていたことは有名な話である。

その有名な話があったから義姉に目を付けられたと言っても過言ではないだろう。


ちなみに陛下と王妃様は学生時代に同じ学園で過ごされたことはない。

王妃様の入学と入れ違いに陛下は卒業されている。

王妃様と兄夫婦とマリアは同学年だった。

何かと理由を付けては王妃様に会いに学園に来ていた陛下にアタックしていたのが義姉だったと聞いている。


ん?そうだよ、うちは姉さん女房だよ!

悪いか!


……ってうちの事はどうでもいい。

第二王子は周囲の制止を聞く耳を持たないらしい。

そして、徐々に他の者達にも影響が出始めた。


第二王子の護衛として付けた騎士団長の三男バルトは第二王子の影響をもろに受けているらしい。

王子とは別行動の時はここぞとばかりに彼女にアプローチをしようとしているとか。

表向きは第二王子との繋ぎと言っているが、それが建前であることは誰の目にも明らかであるという。

まあ、彼には婚約者はいない(破棄された)から彼女が好意を寄せるのならば問題はないだろう。

だが、第二王子の護衛騎士という事で近寄ると逃げられているという。


第二王子の側近として付けられた副宰相の次男コンラートは人の目がないところで彼女にアプローチをしているらしい。

第二王子には男爵令嬢(こんやくしゃ)がいるのだからと咎めてはいるが、彼自身にも婚約者はいる。

一度は破棄されそうだった所を土下座して許してもらった婚約者が。

留学前に『チョッチョ男爵令嬢との様な()()()()()()()で即刻破棄します』と宣言されている。

きっと今頃婚約破棄手続きに着手している頃ではないだろうか。

もちろん、コンラートの耳に入らないよう水面下で行われているであろう。


同じく側近の一人である魔術師団長の甥であるルッツは希望していた王立魔術学院に入れなかったことがショックだったらしく寮の部屋に籠りがちだという。

アリアンナが無理やり引っ張り出しては講義を受けさせているという。

ユリア嬢には興味の欠片もないそうだ。


以上がアリアンナからの報告で、ほぼ毎週内容は同じであった。

ユリア嬢の状況は異なっているが基本周囲の友人たちの協力の元、第二王子達から逃げ切っているという。



学園の成績は……落第スレスレとか。

もっとも、アリアンナの報告によればウェス国の学力がずば抜けて高いので致し方ないという事だが、魔術学院で卒業時にはトップクラスに入っていたアリアンアを基準で見ていた私達にとって第二王子達の成績はある意味ショックであった。

我が国に当てはめるとトップクラスに当たるというからどれだけうちの国が教育面で遅れているのかを再確認する出来事でもあった。


かといって早急にレベルを上げるのは無理なので他国の教師を招いたりして徐々にレベルを上げていく方向で現在検討されている。


実力主義の国と言いながら学力のレベルが低いことに上層部が頭を抱えたのだった。



***


「さて、陛下」

静まり返っている国王の執務室に低い声が響く。

声の主は宰相殿。

「アリアンナ嬢とは別の諜報員からの報告書も同じような内容ですが如何なさいますか?」

「……まだ1年だ。あと1年あるではないか」

宰相殿の言葉に反論するがその勢いは弱い。


「チョッチョ男爵令嬢も妃教育をサボりがち。このままでは当初の予定通り第二王子殿下は男爵家へ婿入り後、【事故】に遭う羽目になりますよ」

「……………………」

宰相殿の言葉の意味は暗殺予告であることはこの場にいる者全員が理解している。

男爵家に婿入り後、子を作る間もなく事故に見せかけた暗殺が行われることを示唆している。

別に驚くことではない。

無能な王族は離宮に生涯監禁か事故死が通例である。

余計な火種は早急に消すのが一番である。


このことは上位貴族でも普通に行われている事であることは教育課程で教えている。

だから皆、必死に勉強し、己の力を証明していくのである。


アリアンナが魔術・魔具に特化した理由はこのことが関わっているのは少なからずある。

本人から直接聞いたわけではないが、教育の過程で自ら気付き『生きる道』を見つけたのに過ぎない。


「他国に出れば多少はまともになるかと思ったのですが……」

深い深い宰相殿のため息に執務室に重い空気が流れ始めた。

「反省の色が見えないどころか……どんどん悪い方向に進むのはなぜでしょう?」

にこやかな笑顔だが声が冷たい。

幼い頃からの付き合いだが宰相殿がここまで機嫌が悪いのは珍しい。

いつもは笑みの下で腹黒いことを策略しては涼しい顔をしてそれを行っているのに……


「ジル、何かあったのか?」

「……先ほど届いた報告書に見過ごせない一文を見つけたのですよ」

抱えていた報告書を国王の執務机の上に置き、ある一文を指した。


『学園内で起こった騒動に巻き込まれたヴォルタ侯爵令嬢アリアンナ嬢が怪我を負った』


チョットマテ。

そんな報告、受けていないぞ。

驚いて宰相殿を振り返ると小さく頷いている。


「ここに来る直前に届いた報告書です。幸い、アリアンナ嬢の怪我はすぐに治療され傷も後遺症もないそうです」


宰相殿はいち早くアリアンナの能力に目を付けていた一人である。

アリアンナの成長を陰日向となり見守ってくれていた人でもある。

第一王子に苛められている時もとっさに間に入り、アリアンナを守ってくれた人だ。

アリアンナを実の娘のように可愛がるときがあった。

冗談半分に「ジルのとこの息子をアリアンナにくれないか?」と言ったら本気で息子たちを説得していた時はちょっと引いたけどな。


そういえば、ジルのとこの次男(騎士団所属)がアリアンナと親しかったな。

アリアンナは友情以上恋人未満だと訳の分からないことを言っていたが……次男の方はそうでもなさそうな雰囲気なんだよな。

今回のお目付け役にも一緒について行っているし……


まあ、帰国してから聞けばいいか。

今は第二王子達に対しての今後の方針だ。


「アリアンナ嬢に例の計画を進めるよう指示を出します」

宰相殿の言葉に陛下は一瞬驚きの表情を浮かべたが、小さくため息をついた後頷いていた。

「そうだな。そろそろ潮時だな」

「では早急に手配いたします」

「……ああ」


陛下と宰相殿の言葉の意味が私達には理解できないでいた。

私だけではない。

副宰相も騎士団長も魔術師団長も首を傾げている。

私達は互いに視線をやり合いながら言葉の意味を探ったがさっぱりわからない。


「第二王子達の留学を切り上げる」

宰相殿の言葉に私達は再び顔を見合わせた。


驚いている私達に宰相殿はにこやかな笑みを浮かべた。

「これ以上、醜聞を広げるのは我が国にとっても利点など何もありませんからね。早急に撤退するのみです。第二王子の実力も立証されましたので、殿下には臣下に降りて頂くことが決定。貴方たちの子については各家の当主の判断に委ねます。そうですね、諸々の手続きがありますので留学期間が半年ほど期間が短くなるだけですよ」

にっこり笑顔の宰相殿に私達はただ静かに頷いた。

何だろう、妙に陛下よりも威圧感が強い。

あの笑顔には要注意だな。


しかし、計画とは一体……


「あの、宰相殿。例の計画とは……」

「今はお教えできません。情報が漏れては大変ですから」

ちらりと留学生組の親に視線を向けた宰相殿に彼らは首を横に振ってそんなことはしないとアピールしている。

もちろん私も漏らすつもりはないが……


「第二王子殿下達が無事に帰国した際にはお教えいたします」

笑顔の宰相殿にこの話は終わりだと宣言されてしまったのでこれ以上聞き出すのは無理だろう。


その後、殿下達の帰国に向けての準備が始まった。

といっても動いているのは陛下と宰相殿のみだが……


***


半年後

第二王子達は無事に帰国された。


そこで、私は初めて知る。


すべてはこの時の為だったのかと……






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