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先読みしていた姪(仮題)  作者:
ジェラルド視点
4/13

4.

『ご都合主義』君が力をますます発揮しております。

報告会から戻り、一息ついたところでアリアンナが執務室に姿を現した。


執務室のドアの前に立ったままでいるアリアンナ。

「どうした?こちらに来なさい」

応接セットのソファに促すと俯きながら私の言葉に従うアリアンナ。


いつもと違う義娘に戸惑いが隠せない。

こういう時、マリアがいてくれるとグイグイいってくれるから助かるのだがあいにく今日は夫人同士の集まりとかで不在である。

ローズは友人宅へ泊りがけで遊びに出かけるための準備に追われている。

先程からメイドたちがあちこち走り回っているので少々騒がしい。



「いったい何があったのだ?」

後継者変更はほぼ決まっていたこと、それを公表の直前で待ったを掛けたのだ。


「実は……」

アリアンナが話した内容は確かに驚いたが、それと後継者変更に待ったを掛けたことが結びつかない。

こういう時、本当にマリアがいてくれたらと思う。


「話をまとめると、ウェス国で共同研究している人から求婚されたということだな?」

小さく頷くアリアンナの表情を求婚された女性の顔ではなくムスッとしていた。

「アリアンナはあまり乗り気じゃないようだね。その人のことは嫌いなのかい?」

「どちらかと言えば嫌いな分類になりますね」

「……は?」

「私がヴォルタ家の後継者から降りるという話を聞いたから求婚したと言ってきたのです」

「アリアンナが後継者から降りればウェス国に嫁に行けるから求婚してきたってこと?」

私の言葉にアリアンナは小さく頷いた。

「じゃあ、後継者を変更せずアリアンナがヴォルタ家を継ぐなら求婚してこなかったと?」

再び頷くアリアンナに私はフツフツと怒りが込み上げてきた。

つまりウェス国の自分の家にアリアンナが嫁入りするのはいいが、自分自身がヴォルタ家に婿入りする気はないという事だな。

アリアンナの話ではその求婚してきた者は嫡男ではなく伯爵家の三男だというではないか。

アリアンナに心底惚れているなら『婿養子でも構わない!』くらいの気持ちを示してほしいものだ。

「うん、そのお話は絶対にお断りだね。あとで正式に断り文を送っておくよ」

腹の中は煮えたぎっているがにっこりと笑みを浮かべるとアリアンナが驚いたような表情を浮かべる。

「お義父さま?」

「後継者変更の話もしばらく保留にしようか。いや、ローズには私がいくつか継承した爵位の内の一つ、伯爵位を譲って分家を立ち上げればいい。うん、そうしよう」

そうだった。

私には侯爵位の他に伯爵位と子爵位も親から継承されていたのだった。

ここ何代もずっと分家を立ち上げる事もなく侯爵位しか名乗っていなかったから忘れていたわ。

これならローズも爵位と領地持ち。

侯爵位に拘らないのなら伯爵位でも子爵位でも好きな方を選ばせればいい。


「誰か、ローズを呼んできてくれないか」

隣りの控えの間にいた者にローズを呼びに行かせた。

ローズが友人宅に出発するのはティータイムの後だからまだ時間はあるはず。

「お義父様?伯爵位ってどういうこと?」

首を傾げるアリアンナに私自身忘れていた爵位の話をするとムスッとしていたアリアンナの表情がいつもの生き生きとした表情に変わっていった。



「じゃあ、お姉様が侯爵位を継いで、私は女伯爵か女子爵になればいいのね?」

ローズを交えての話し合いは何の滞りもなく次々と決まっていった。

途中でマリアも帰宅し話し合いに交じるとそのスピードは驚くほどの速さで進んでいった。

「……で、アリアンナ。求婚を断った本当の理由は?」

「……………………」

マリアの言葉に口を紡ぐアリアンナ。

マリアの瞳は笑っているようでその奥では何かを探っている。

「この度の求婚騒動。我が家の後継者問題だけではないわね」

え?そうなのか?

アリアンナの立ち位置で求婚の有無を決めた男への対処法を話し合っていたはずだが……?

私が気づかない何かがあるのか?

私、マリア、ローズがじっとアリアンナを見つめると、小さくため息をついた後、部屋に防音術を施した。

しかも三重に掛けて……

「防音術?なぜ……」

私のつぶやきはアリアンナには届かなかったようで、スッと立ち上がったアリアンナは腹の底から絞り出したような声で叫んだ。


マリアはアリアンナが立ち上がった瞬間に耳を塞いでいたのか、叫び終え肩で息をしているアリアンナににっこりと微笑みかけていた。

私とローズはあまりの音量に鼓膜が痺れ、しばらくの間周囲の音が聞き取れずにいた。


~・~・~


「はあ、はあ、はあ」

「まあまあ、いろいろ鬱憤が溜まっていたみたいね。あれだけの罵詈雑言は久しぶりに聞いたわ~。最後に聞いたのは義兄が『わしこそが次期当主』とほざいてヴォルタ家を没落への道に導こうとしていた時以来かしら~」

「はぁ、はぁ……まだ言い足りないけど……8割ほどは鬱憤を吐き出せたかと……」

「あら、まだ2割もあるの?ヴォルタ家の領地にあるあの山奥でさらに発散させる?ついでだから魔物退治もしてくる?」

「いえ、残り2割はシンディと共同であの男に直接……」

「シンディ?」

「ウェス国で知り合った友人であり、今回求婚していた男の婚約者です」

アリアンナの言葉に室内の温度が急激に下がった。

うん、揶揄ではなく、確実に下がっている。

その証拠に暖かい紅茶の表面に薄らと氷が……


「まあ、婚約者がいながらアリアンナに求婚を?」

満面の笑みを浮かべているけど腹の中はぐつぐつと煮だっているのがよーくわかる。

私も同じだからね。

でもね、部屋が氷漬けになる前に暴れている魔力だけは押さえて欲しいんだけどな。

ちらりとローズの方を伺うと首を横に振っている。

うん、無理だね。

マリアは怒りの沸点に到達するとしばらく魔力が暴走するからな。

対処法はいくらかあるけど、その反動が怖いというかその後の生活に支障が出るから怒りが収まるまで待つのが一番なんだよな。

マリアの怒りはそう長続きしないから、私たちが我慢すればいいだけの話だし……

マリアが感情を隠さないのは私たちの前だけだからね。


昔、怒り心頭に発していたマリアを抑えようとして負けたこともあるし……

現役の騎士が貴族令嬢にコテンパンにやられたという話は未だに語り継がれているからな~

騎士団内で密やかに……

もちろん、名前は伏せられているけど当時の状況を知る者がまだ現役でいるから隠せていないのが現状だけどな!


「ウェス国では婚約者がありながら別の異性に求婚するのが流行なのかしら」

「そんな流行はありません。前国王も現国王も一途な方ですから。婚約者がありながら別の異性に求婚したなどと社交界の話題に上がったら出世の道は断絶するほどですわ」

「そう、なら簡単ね」

にっこりほほ笑むマリアにアリアンナは小さく頷いている。

「その件に関してはすでにシンディに頼んで軽く噂話を流してくれています。シンディだって好きであの男の婚約者をやっているわけではないですからね。これ幸いと婚約破棄に向けてばく進していますよ」

「……ということは求婚されたのはつい最近ではないという事ね」

「…………王妃様の生誕祭の1週間後です」

「後継者交代の話題をそれとなく出し始めた頃ね」

「ええ、ローズには早めに次の相手を見つけて欲しかったから友人たちに頼んで『あくまでも、もしもの場合はなんだけど……』というテイストで広げて貰ったらあっという間にウェス国にまで伝わっていました」

「で、事実確認をせずその男は求婚してきたと?」

「ええ、何度もそんな話はないと突っぱねたのですが、あの男、いろんな伝を……特に女性との親密的な友好関係が広いので……」

「ますますお断り物件ね」

怒りを治め、飽きれた表情を浮かべるマリア。


「ねえ、お姉様」

「ん?」

「お姉様は国外に嫁ぐことは不可能よ」

「え?」

「だって、画期的な魔具を次々と生み出しているのよ?外交にも一役買って我が国に利益をもたらしているのよ?それを陛下が……国がそう簡単に手放すと思う?」

ローズの言葉に思わずポンと手を叩いてしまった。

そういえば、後継者変更の話の時にアリアンナが侯爵位を継がないなら新たな爵位を与えるって陛下が拳を握り締めて言っていたな。

重鎮たちも異論がないらしく、むしろ積極的に新しい家(魔術に特化した血筋?)を興すべきだと言っていたな。

まあ、重鎮たちの思惑はあわよくば自分の親族の男をアリアンナの婿に……ってことだろうけど。

国王からの信頼は篤いし、他国との伝も広いからな。

「ちなみにお姉様の婿候補のリストを王妃様が懸命に作っていらっしゃったわ」

「は?」

「でも、これと言っていい人がいないって頭を悩ませていらっしゃったわ」

メイドに新たに入れ直してもらったお茶を飲んでほっと息をついているローズ。

「王妃様がね、お姉様にはあの両親の呪縛から解放されたのだから幸せになってほしいと」


両親の呪縛……ねえ。

確かに実の親に放置され、時には罵声を浴びていたよな。

よくひねくれなかったと思うよ。本当に。

それに加えて周囲のアリアンナを見る目がな……

あの両親の子だからって目で見られていた時期が長かったからな。

学園の予備科に通うようになってやっと『親は親、子は子』だと周りが認識し始めたが……

親世代の話題が子供達にまで伝わって兄夫婦が亡くなるまで常に侮蔑の視線を受け、監視されていたようなものだったからな。

最年少で宮廷魔術師の試験に合格したことを知った途端、手のひらを返したようににすり寄ってきた輩もいたよな。


ああ、そういえば第一王子がその筆頭だったな。

兄夫婦が生きている時はありとあらゆる罵声を公の場で喚き散らしていたよな。

陛下や王妃様がそのたびに咎めていたが右から左に流していった。

だからアリアンナは王子の妃選びの時にあんなに嫌がった(反対した)のか。

婚約者候補を辞退した後も、毎日のようにアリアンナに『婚約者になれ』と言ってきた第一王子の行動と言動にブチ切れたマリアから王妃様に話が行き、盛大な雷が第一王子に落ちたんだろうな。


昔、陛下がくらったような雷が……

婚約候補に王妃様の名前を見つけて浮かれまくってやらかしていたからなあの時は……


って過去の話はどうでもいい。

今はアリアンナとローズのことだ。


アリアンナに侯爵位、ローズに伯爵位を与えるということで親戚一同も同意してくれた。

そういえば、何気にうちの親族ってアリアンナとローズに甘いところあるんだよな。

特にアリアンナに関しては生まれた時から兄夫婦とクリスに見つからない程度に可愛がっていたんだよな。

普通は距離を置くと思ったんだが……

まあ、私もなんだかんだと言いながら兄夫妻よりもアリアンナに可愛がっていたからいいんだけどね。


いや、あの兄夫婦に育てられなかったからいい方向に成長してくれたと思った方がすっきりするな。

兄夫婦のもとで育っていたら……想像しただけでも恐ろしいわ!


アリアンナはもちろん、ローズも伯爵位を与えるから婿養子を取ってくれるといいんだけどな~

と親族会議の後、酒に酔った勢いでポロリと言ったら次の日から見合いの絵姿が大量に届いてマリアの機嫌が一気に下がったのは余談である。


「アリアンナもローズも政略結婚はさせません!」とマリアに正座をさせられ説教された。

私とマリアが恋愛結婚であったのだから娘達にも恋愛結婚を進めるのだとものすごい勢いで説教されたのだった。


ちなみに当事者のアリアンナとローズは送られてきた絵姿を見て『実物との差異』を笑いながら見つけては点数を付けていた。

何の点数かは私はわからなかったが、マリアはそんな二人を見て大きなため息をついていた。






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