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僕の新しい住処

「サンドイッチをくれてありがとう」


「いやいや、気にしないでいいよ。僕らだって、食べられたくないからっていう理由があってやってるわけだしね」


「それもそうか。じゃあサンドイッチおかわり」


「漬物サンドしかないってば」


 何回聞いても答えは同じらしい。物足りないが、やっぱり人間を食べる気にはなれず――そもそも銀杏さんは痩せていて、食べたところで食料としては微妙な感じだ――仕方なく諦める。


「とにかく、君の生まれた洞窟は、僕達にとっては厄介な生き物の巣ってわけだ」


「人の実家に向かってひどい言い草だ」


「ごめん、傷ついた?」


「それは別に」


「なら良かった。それでね、僕らはその星の洞窟の対処を可及的速やかに行わなきゃいけないんだよ。なんせ人を食べる生物の巣だし、そうじゃなかったとしても邪魔だ」


「かきゅうてきすみやか、って何」


「大急ぎ」


「なるほど。難しい言葉つかうのやめて」


「ごめんごめん」


 それで、と僕は続きを促した。


「その洞窟の対処っていうのは、どうやってるの」


「シンプルだよ。洞窟の中に入って、成長の核となっている中心部を破壊するんだ。そうしたら洞窟の成長は止まるし、生命体が新たに生まれることもない。その後は、重機か何かで壊しちゃえばいいから。


君が洞窟で出会った人間も、そういう作業のために君の家をうろついてたんだよ。それで君と接触して、生け捕りにしたわけだね」


「なんで殺さなかったの。僕は人間にとって、人間のことを食べるやつでしょ。殺した方が安全じゃない?」


「それを君が言うんだねえ」 


 銀杏さんはおかしそうに口元を緩めた。


「まあ実際、君の言うような対応が原則とされてるよ。洞窟内でケイブに出会ったら速やか――大急ぎで殺すっていうね。危険だからさ。

ただ、君は他のケイブと明らかに違った」


「え、そうなの?」


「うん。君の見た目は、あまりにも人間に寄りすぎていたんだ。違いといえば、額にある三つ目の瞳だけ」


「第三の聖なる瞳のこと?」


「そ、そんな名前にしたの?」


「うん。かっこよくない?」


「……うん、まあ、その聖なる瞳しか違いがなかったんだよ。いや、厳密には……これセクハラになるかもしれないけど、君には性器がないっていうのも違いではあるけど。君は洞窟にとって、繁殖する必要がないんだろうね」


「えっ、僕男じゃないの!?」


「そうだよ。君がそう思ってるのは、定着させた記憶が、男性のものだったからだろうね」


 僕は着ていた服をまくりあげた。そこにあると思っていたものが、ない。なんというか、つるりとしている。


「……ない……」


「いや最初からないよ、早くしまってくれるかな。僕が子供に悪い子とさせてるみたいだから」


 銀杏さんが苦笑いするけど、僕にとっては大分衝撃的だ。僕は男じゃなかったのか。いや、でも女でもないみたいだけど。無性? っていうの? 男がよかった。

 うろたえていると、銀杏さんが僕の服を引っ張って強引に隠した。


「とにかく君は、他のケイブは全然違うんだよ。他のケイブは、二足歩行してたらマシなほうだ。伝承みたいに巨大な蛇の見た目をしているのもいたし、馬と羊を一緒にして軽く混ぜ合わせてみました、みたいなやつもいた。映像で見ただけだけど、あれは不気味だったなあ」


「……完全にバケモノじゃん」


 無性はいやだなあと思ったけど、まだ他のケイブよりは良かったのかもしれない。


「そうだね。ケイブはバケモノだ。でも君の見た目は、非常に人間に近い。瞳が赤くなければ、洞窟に取り込まれた人間と区別がつかないところだった。……君はそんな姿だし、身構えるばかりで攻撃する様子もない。だから君と対峙した人も、殺すのを躊躇ったんだろう。そして、生け捕りを選んだわけだね。


実際悪い選択じゃない。僕らにはなにせ、ケイブや寄生宿主に対する情報が足りないからさ」


 僕は思いついた。


「ああ。じゃあもしかして、僕の体を調べさせてほしい的な話になるわけですか」


「察しがいいね。その通りだ」


 銀杏さんは大きく首肯して、姿勢を正した。今まで口元に浮いていたどことなく軽い笑みが消えて、真剣な顔になる。


「それだけじゃない。調べるだけではなくて――君には、人間の味方をしてほしいと思っている」


「人間の味方」


「正直、ここまで意思の疎通が出来たケイブは初めてなんだ。まずケイブを生け捕りに出来ることも滅多にないし、出来たとしても、そのケイブは人の形をしていない。脳の作りも違うから、記憶を定着させようとしても出来なかった。となると、相手の脳は化物のそれだ。


目をさましたケイブは、こちらを食料としてしか見てくれない。何度も拘束出来るほど、弱い相手でもない。そうなればもう殺すしかない――なんてパターンばかりだった」


 でも君は初めて、僕の目を見てくれたケイブだ。そう言った銀杏さんは、たいそう嬉しそうだ。そんなに喜ぶことなんだろうか。まあ、嬉しいなら見てあげようと僕は銀杏さんの目を見返す。


「ケイブの調査についての協力。あとは、本調子が出てきたら、星の洞窟の破壊。その他諸々の救助活動。――君には、そういうものを手伝ってほしいんだ。

僕が、何故君を拘束しないまま寝かせておいたのか。――その意味を汲んでほしい」


「銀杏さんはまた難しい言い方する。汲めないから説明して」


「ああ、ごめんね。……君を拘束しなかったのは、君と対等な話が出来ると期待したからだよ。今回は特に期待値が高かった。本来ならケイブと会話を試みる時は、相手を拘束した状態で会話するルールかあるんだ。でも、拘束してくる相手に協力しようなんて思わないだろ?」


「それは確かに」


「君は人間ではないけど、君が協力してくれるなら、君を尊重した扱いをすると約束しよう。きちんと食事や寝床も提供するよ」


「……んー……」


 僕は言われた話を、頭の中でなんとか噛み砕く。難しいことを色々言われたけれど、早い話が、僕は洞窟にいたところを捕まって、ここにいて、今後人間への協力を求められている。そういうことだろう。


 あれ、これって実質拒否しようがないのでは。だって僕が断ったら、「もう殺すしかない」になるわけでしょ。もう一回戦ったって勝てるわけもないし、万一勝ったとしてどこ行くのって話だし。考えれば考えれるほど拒否権なしな感じで、そこで僕は気付く。


「ははーん。銀杏さん、僕は読めた」


「え」


「お願いのふりをした、決定事項ってやつだな? まったく銀杏さんはこすい」


「こ、こすいって…」


 銀杏さんは頬をひきつらせた。そんな銀杏さんを安心させてあげようと、僕は肩をなでなでしてあげる。


「まあ、協力してほしいなら僕は協力する」


「えっ、ほんと?」


「うん。ていうか、僕だっていいことばっかりだし。ご飯貰えるし、寝るところも前よりはよくなるんでしょ?」

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