生息地:星の洞窟
「ははあ」
逃げれば助かるってわけでもないんだな。ほとんど天災じみた攻撃を前にしたら、もうなす術がないのか。命って儚いな、と思う。
「それで、その後地球はどうなったの」
「なんとか復興に向けて進んでいったみたいだね。とにかく古典的なところから始めなきゃならない。食料を作って、生活の居住を築いて……ってさ」
「ふうん。じゃあ、僕の食べたサンドイッチって貴重だったりするの?」
「そこまでではないよ。食料に関しては五十年かけて大分安定してる。それに、日本全部が崩壊したわけでもないからね」
「なるほど」
「で、そういう大きすぎる事件があって…本題はここからだ」
「まだ話続くの?」
「ここからなんだって」
「サンドイッチおかわりは?」
「漬物サンドなら」
「……いらない」
不評だなあ、と銀杏さんは不貞腐れる。
「まあ、話を元に戻すけど。……核攻撃は、襲ってくる星を破壊するに至らなかった。宇宙上で出来る限り粉々にはしたんだけど、大きな欠片が何百と降り注いだ。それらは地球のいたるところに穴をあけている。特に、太平洋の中央には、ちょうど星の心臓部が落ちた。寄生されることによって生まれてしまった心臓だけどね。でも、全身がばらばらになったにもかかわらず、心臓だけはまだ活動を続けている有様だ」
僕はぎょっとした。海に落ちてる? 心臓が?
「えっ、敵生きてるの? 普通に?」
「星自体は破壊されたから、生きてるって言っていいのか解らないけど、心臓はずーっと拍動してるね」
「また核で止めちゃいなよ。もっかい襲ってくるかもしれないし」
「残念、総攻撃のせいで、汚染が酷くてこれ以上は地球に住めなくなる。除染装置も開発されて、僕らが放射能汚染に耐える方法も編み出されて……普通にこの国で生活する分には問題なくなったけど、それでも心臓部はまだ無理だ」
「じゃあ別の爆弾撃てば?」
「ビクともしなかったね。ちゃんと壊すなら、今度は核より強い兵器を開発しないと駄目だな」
「はあ。大変ですねえ」
なんだか他人事みたいな言い方になってしまったけど、そうとしか言いようがなかった。大変なんですよ、と銀杏さんは繰り返した。
「まあでも、心臓部のことはいいんだ」
「いいの?」
「どうにかしたいけどどうにもならないしね。それより、もっと身近な問題がある。
日本にも星のかけらがたくさん落ちたって言ったよね。時間がたつにつれて、その落ちた場所に奇妙な変化が見られ始めた」
「奇妙な変化?」
「洞窟化だよ」
「……洞窟化」
なんか、明らかに僕の学名の日本語版が聞こえた気がする。
「最初に発見されたのは、名古屋だったかな。ほんの小さな星のかけらが、少しずつ大きくなり始めたんだ。厳密に言うと、星のかけらそのものじゃなくて、星のかけらに寄生している生命体が成長しているらしいけどね。
最初は子供が作る砂山程度だった星のかけらが、そのうちに小高い丘になる。どんどん大きくなって、周囲の建物まで飲み込みだす。そういう現象が至るところで多発していてね。
早いうちに調べたかったんだけど、なんせ全国各地に星のかけらが落下したばかりの時期だ。どうも手が回らなかったみたいで――結局、色んなところで洞窟が出来上がった。途中で成長をとめる洞窟もあれば、今もなお成長を続ける洞窟もある。星の洞窟、なんてロマンチックな呼び方をされてるけど、実態はとてもグロテスクだ」
「もしかして、僕の住んでたところって……」
「ご推察の通り。――君はその、星の洞窟の中にいたんだ」
ご推察してしまった事実を、僕はどう受け止めればいいのかあまり解らなかった。ただ、気分としては漬物サンドを食べてしまった時のそれに近い。つまり、決して良くはない。
「星の洞窟について、もう少し詳しく説明しよう。
星の洞窟は、星のかけらが成長することによって生まれる。そしてそのかけらは、成長する時、周囲のものを飲み込んでしまう。洞窟が飲み飲めない物はほぼない。コンクリの建物だろうが、巨大な山だろうが、アリだろうが人だろうが、なんでも飲むんだ。――特に星の洞窟が更に大きく成長するのは、人を飲んだ時だね」
「うえ。人食い洞窟だ」
「そういう呼び方をする人もいるね。星の洞窟よりは、随分的確な名前だと思うよ」
銀杏さんはあっけらかんとしていた。
「で、星の洞窟が一定の大きさになると、今度は内部が複雑に別れ始める。蟻の巣ってわかるかな?」
「わかる。部屋がいっぱいある巣だ」
「そう、それを想像してくればかなり近いね。洞窟はやがて巣になるんだ。そして、巣作りと同時に、今度は巣の中に生命体を作る。その生命体の名前がケイブだ。
ケイブが具体的にどのようにして生まれているのかは、まだ調査段階だね。成長の際取り込んだ人間を利用しているのか、それとも洞窟の一部が変質しているのか。
ただ、洞窟内で作られた生命体は、皆瞳が真っ赤という特徴があるんだ。外から取り込まれただけの生き物とは、そこが違う。
そして――ケイブは、その洞窟にとって重要な役割を果たす」
「そうなの」
「大抵の場合ケイブは、洞窟の中で成長したら、やがて洞窟の外に出て人間を襲い始めるんだ。人間に敵意があるんじゃなくて、単純に、洞窟の中の餌が尽きてしまうんだろう。
ケイブは仕留めた人間を洞窟に持ち帰り、食事をする。洞窟そのものも、人間を取り込むことで成長する。洞窟からすればケイブは、餌を持ってきてくれる重要な存在なんだ」
そういえば、洞窟の中で時々見かけた肉のある動物――僕にとってのご飯は、大分減ってきていたと思う。
「ケイブにとって食料になる生命体は、洞窟が成長する時に飲み込む動物だけだ。野生動物が多い地域に発生した洞窟ならともかく、都市部の洞窟だと飲み込む絶対量が少ない。けれどケイブは、星の洞窟内で少しずつ生み出されて数が増える。まあ、出てくるのは当たり前だよね」
「じゃあ、僕もそのうち外に出て人を食べるようになってたってことか」
「そういうこと」
サンドイッチで済んで良かった、と思う。記憶の定着を受ける前なら人間を食べるくらいへっちゃらだったのかもしれないけど、こんなふうに一緒にごはんを食べてる今は、だいぶ厳しい。抵抗感が強い。




