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三度目の核攻撃

「いやいや、それが突撃してきてるわけだからね。しかも、明らかに攻撃の意思を持ってを持って」


「そうなの?」


「うん。その星は、どう見ても地球と衝突するつもりでいたんだ。それで…たとえば、ビスケットに向かって鉄球投げるとどうなると思う?」


「ビスケット‥」


 僕の頭に、茶色い板みたいなおやつが浮かぶ。板チョコと混ざりそうになったけど、ビスケットはもっとざくざくしてるやつだ。多分。

 それに、鉄球がぶつかる。


「……食べられなくなる」


「なんでかな」


「粉々になるから。……あ、じゃあつまり、ビスケットが地球で鉄球がその星ってこと」


「そう、そのとおりだ」


「ビスケットは叩いたら増えるから、地球も増えたりするんじゃないの」


「多分それは童謡かな。あれもポケットの中のビスケットが割れてるだけで、増えてるんじゃないんだよ」


 なんだ、と僕は落胆した。もうちょっとサンドイッチを食べたかったから、ポケットに入れてバシバシ叩いてやろうかと思ってたのに。そんな僕のおなかすいたを察したのか、銀杏さんは笑顔で食べかけの漬物サンドを差し出してきた。それはいりませんと丁寧に断って、尋ねる。


「それで、その星は結局どうしたの。突っ込んできたの」


「ああ、きたよ。それが五十年前の話なんだ」


「あらら。地球、どうなったの。あ、でも俺がこうして地球にいるってことは、意外と大丈夫だったの?」


「ううん……その聞き方をされると難しいね」


 銀杏さんは腕を組んで、真っ白い髪をがりがりかいた。


「大丈夫、といえるような状況じゃない。でも、最悪のケースには至らなかった。……半殺しにされたってくらいかなあ」


「はんごろし……」


 銀杏さんは見た目が結構綺麗な人だから、そういう言葉を使うとなんだか余計に重い。


「半殺しって、具体的に言うと?」


「大量の隕石が落ちてきた、って想像してもらえると、まあ近いね。津波も地震も発生するし……人口は三割近く一気に消えた。日本だと、北海道と茨木、京都、愛媛……あとは福岡か。そのあたりに落ちたんだったかな。経済活動も、相当落ち込んだよ」


「それで半殺しなの」


「小さな島国だし、国家として形が残ってるだけで幸運だったんだけどね。もしかしたら、島ごと破壊されてる可能性もあったんだから。まあ、人類の抵抗も多少は効いたってことかな」


 僕は、三つの目をぱちくりとまばたきさせた。


「あ、抵抗したの」


「勿論したよ! しなきゃ木っ端微塵だからね。


その星の存在に気付いてから、地球に直撃するまでの間には、約三年の期間があった。それまでになんとか、最低限の用意を整えたんだ」


 三年あって、用意しても半殺し。本当にとんでもない災厄がきたんだな、と思う。


「まあ三年は、地球を守るには短いかな」


「短いさ。昔はスポーツの祭典――オリンピック、とかいうやつがあって、それですら四年は間があいてたらしいんだから、もうちょっと待っていただきたいところだったね」


「ふうん。まあでも、来たものは仕方ないんじゃない」


「そうなんだよねえ」


 お互いに「ねー」なんて言い合う。


「でも、どうやって抵抗したの? 拳で?」


「無理だよ、星相手なんだから」


「それもそうか。じゃあどうしたの」


「未曾有の危機において、どうしたらいいか解らなくなった人類が取る手段は、大抵決まってるんだ」


 なんだろう。僕は、与えられた知識で考えてみる。僕が知ってる武器は、拳銃とか、スタンガンとか、そういうのだ。星に対抗できるとは思えないけど。


「ピストルじゃないでしょ?」


「違うねえ」


「じゃあ…あ、手榴弾とか」


「傷一つつかないよ」


「ま、まさかポテトガン…?」


「はは、それで解決すれば完璧だった!」


 銀杏さんは手を叩いて笑った。そんなに笑わなくてもいいのに、とむっとすると、ごめんごめんと宥められる。そして、簡単なことさ、なんて探偵みたいに気取った口調で言った。


「核だよ。核爆弾だ」


「…核爆弾」


 名前を言われると、確かに出てくるものがある。といっても、僕の脳に定着してるのは、日本に二回落とされたやつ、ってことだけだけど。でも、すごい威力があるのは想像でも十分だ。


「日本は核に関しては所持しないことを宣言してたけど、今回に限ってはそれが破られた。〝こちらに向かってくる星に向かって、とにかく大量の核爆弾を撃つ〟――それしか打開の方法はなかったからね。いや、それでも足りないくらいだったんだよ。

だから、国民の反対運動なんかもあったけど……最終的には日本も核攻撃に参加した。〝核総攻撃〟って呼ばれてるよ」


「すごいことしてたんだ。俺が洞窟で寝てる間に」


「五十年前の話だから、この時期はまだ君は生まれてないね」


「あ、そうか」


 いや、でもどっちにしてもすごいことには変わりない。


「じゃあ、その〝核総攻撃〟でなんとか半殺しで済んだってことか」


「そうだね。半殺しでおさまったのは本当に、本当に奇跡だったよ。核攻撃がまったく通じない可能性もあったんだ。核は、星を破壊するほど強い武器じゃない。傷一つつけられないケースも想定されてたからね」


「ええ、そうなの」


「だってこの国には二発落ちてるけど、地球そのものが割れたりなんてしてないだろ? 襲ってきた星に関しては、生命体に寄生されてるっていう特殊な状態だったから、なんとか通じたけど」


「そっか。でも、皆そんな不安定な作戦よく参加したな。僕ならもう地球捨ててる」


「直撃までにもっと時間があれば皆そうしたと思うよ。実際、そういう計画を選んだ国も結構あったみたいだし。ただ、急ピッチで作るロケットに乗ることになるわけだからねえ。いや、ひとつやふたつであれば三年でも十分だろうけど、皆が逃げることを考えれば、三年じゃ足りない。それに、人間の暮らしに適してる星が、そう簡単に見つかるかどうかもわからないからなあ。


僕の予想では、無事に大気圏を突破したとしても、居住する星を見つける前にロケットが燃料切れを起こすんじゃないかと思うよ」

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