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(「宵闇から忍び寄る者」属、みたいなのが良かったな……)

「君は確かに人間にすごく近い見た目をしているし、記憶を定着させれば人間とほぼ変わらない活動も出来る。ただ、実際は人間ではないんだよ」


「そうなの。じゃあ俺は何?」


 ウサギは耳が長いやつだから違う。猿はもうちょっと小さいし、毛も多い。当てはまる動物の名前を、僕は知らなかった。

 銀杏さんは答えた。


「君の種類は、ケイブだ」


「頸部?」


「君が言ってるのは、多分首まわりのことだね。サンドイッチは知らないのに、頸部は解るのか。僕の言ってるケイブはそのまま、英語でとらえるといいよ」


「英語はアップルしか浮かばない」


「ああ、英語に弱いのか。ケイブは洞窟を意味する言葉なんだよ。僕らはヒト科ヒト属だけど、君はヒト科のケイブ属となるわけだね」


「俺がケイブなのは、洞窟に住んでる生き物だから?」


「うん、そうだよ」


「そのまますぎる。つけた人、真剣に考えてくれた?」


「いやあ、ごめんね。星に名前つける時も、芸能人とか食べ物とかの名前をつけちゃう生き物だからさ、ヒト属は」


 僕は結構不満だったけど、つけられてしまったものは仕方がない。日本語でドウクツ属じゃなかっただけマシだと思うことにする。まあ、僕が違う国さんで拾われてたら、また違う風に思うんだろうけど。

 銀杏さんは言った。


「まずは今、人類がどのような状態に置かれているのか説明しようか。それが君についての説明にも繋がるからね」


「そうなの」


 僕の中にある人類のイメージは、個体の強さより社会性で地球を支配してる存在って感じだ。生態系の頂点にいるけど、それは個体が強いからじゃない。むしろ弱い。人類は、他の個体とネットワークを作って互いを守ることで、数を増やしていく力で、生態系の一番上に立ったんだろう。あと、道具を開発する知恵もあるみたいだ。


「君に定着させた人類に関する知識は、五十年くらい前のことだよ。近年で、人類を取り巻く環境は大きく変わった。これを定着させずに口頭で説明するのは、出来る限り誤解がないようにしたいからだね。だから、これに関しては解らないことがあったらなんでも聞いてくれ。

ま、僕も五十年前の現場を見たわけじゃなくて、後から学んだだけだから、答えられないこともあるかもしれないけど」


「わかった」


 銀杏さんは満足そうに微笑んで、語り始めた。


「……五十年前までは、人類は君に定着させた知識の通りの生活をしていた。大陸をわけて、国という名の集団をいくつも作った。彼らはそれぞれ協力したり、対立したりしながらも、生活を維持していた。

――そんな中、アメリカと呼ばれる国が、宇宙上にあるものを見つけたんだ」


 アメリカ。世界のなかでもすごく大きな力を持っている国、らしい。日本はアメリカと色々縁があって、一応協力関係にあった――少なくとも敵対はしていなかったようだ。出典は、僕の脳に定着させた知識(僕ペディア)だ。


「アメリカ君は何を見つけたの」


「国に君はいらないよ」


「ええ、じゃあ他の呼び方…あ、知ってる。アメコウ、っていうのがある」


「そ、それはまずいからやめてね。ううん…ほんと、定着する記憶間違えてないかなあ…」


 銀杏さんは、なんだか知らないけど不安そうだ。僕が悪いんだろうか。まあ僕は、サンドイッチが美味しければなんでもいいけど。


「ええと、とにかく続きを話そうか。

アメリカが見つけたのは、地球に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる星だった。それがごく普通の彗星だったり、小さな流星だったらよかったんだけど…その星は、明らかに明確な意思を持った動きをしていたんだ。こちらへの接近中に、宇宙上のチリみたいな、接触しても問題ないものは避けないけど、大きな星は避けたりする。そして、確実に地球に近付いてくる。そんな星は、今まで観測されたことがなかったんだよ」


「へえ。なんか生きてるみたい」


「その通りだ」


「え。生きてるの」


「というよりも、その星そのものが何らかの生命体に寄生されているみたいな状態だった。元々は、地球とそう変わらない星だったんじゃないかって仮説は立ってるけどね」


 星が寄生。星って寄生されるのか。正直地球だって、人間が寄生してるみたいなものだけど。


「人間とは全然違うよ。人間はあくまで、大部分が地球の表面で暮らすだけだけだからね。


その生命体……こっちで観測した分には、小さくて、タンポポの綿毛みたいな形の生き物だったんだけどね。それに寄生された星は、生命体と同じように内部を作り替えられてしまうんだ。大地は内臓に変わり、流れる水脈は血液のように循環する。心臓部も徐々に作り上げられて、しばらくすれば立派な〝命〟の出来上がりだ。


勿論、ごく普通の生命体と同じ作りかといわれるとそんなことはない。生命活動に必要なエネルギーは、僕らとまったく異なる。たとえば、酸素なんかは必要ないしね。それに、脳に当たる部分は、その寄生してる生命体が支配してるみたいだから」


「……ううん」


 僕は唸る。なんだか途方もない話だ。洞窟で生きてきた僕には、あまり想像が出来ない。混乱してきた僕を見かねたか、銀杏さんはざっくり言った。


「まあ、わかんなければいいよ」


「いいの?」


「うん。シンプルに、〝寄生生物が星をのっとって地球に突撃かましてきた〟ってことで」


「……なるほど」


 それは確かにこの上なくシンプルだ。僕にも解りやすくて助かる。


「僕達人間は大慌てだ。なんせ、その星の一部分をなんとか採取して確認してみたら、非常にしなやかで、かつ硬度があるっていう、地球では見ない物質で構成されてたからね」


「硬いとまずいの?」


「硬くて、かつしなやかというのが厄介だ。

本来なら、硬さとしなやかさは相反するものでね。硬いだけなら衝撃に弱い。硬いと丈夫なイメージがあるかもしれないけど、実際ダイヤモンドとかはあっさり砕けたりするからね。ただ、そこにしなやかさ、柔軟性が加わると衝撃に耐性を持つ。簡単に言うと、とてつもなく丈夫ってことだよ」


「固くて柔らかい物質ってこと?」


「そうそう」


「無茶苦茶じゃん」


「無茶苦茶なんだよ」


 銀杏さんは真顔だった。固くて柔らかいってどういうことなんだろうか。普段は硬いけど、一定以上の衝撃で柔らかくなるとか、そういう話かな。


「でも、その星が丈夫だとなんでまずいの? 丈夫って良いことじゃないの?」


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