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人殺しは、僕が思ってたより悪いことらしいと後で知った

「これは私の想像だが、お前は今、ここにいる人間達に解剖されようとしている。銀杏はお前を保護するつもりだったようだが、まあ、ここにいる連中も一枚岩じゃない。お前を解剖して、より多くの情報を引き出す気なんだろうよ。恐らく、コイツらの独断だ。どうせ後でバレることだが、お前を解剖して手に入れた情報と引き換えて許されるつもりなんだろうな。もしくは単純に、解剖してしまえばこっちのものだとでも思っているか」


 子供の割に、えらく不遜な喋り方だ。鈴を転がすような可憐な声と、まったくもって合わない。というか、いつからいたんだろ? 全然気付かなかった。


「……あなた、誰?」


 一気に色々喋られても、ただでさえ混乱してるのに頭がついていかない。僕が尋ねると、ハリネズミが訝るようにこちらを見た。


「……誰に向かって喋ってる?」


「気をつけろよ、お前以外に私の姿は見えない。私は…そうだな、お前に解りやすい説明をするなら、おばけだ」


 おばけ、と危うく声に出しそうになって慌てて飲み込む。ハリネズミは、僕の「独り言」を気にしないことにしたらしい。


「気になるか? 気になるだろう。おばけ、なんて君には馴染みのない言葉だ。だが、それよりまずはお前のことを解決するのが先だ。お前、死にたくないだろう?」


 死にたくない。そう答えようとまた口を開きかけた。けど、すぐに「答えなくても解ってる」と一方的に遮られる。


「お前の態度を見ていれば当然のことだ。だからまずはこの状況を打開するぞ。……どうやって、という顔だな。シンプルなことだ。


――お前、その額の瞳がただのオマケだと思っているのか?」


 オマケだとは思ってない。かっこよさに溢れた素敵な目だと思っている。だけど――この子が言いたいのは、そういうことじゃなさそうだ。

 彼女はいかにもおばけだと主張するかのように、ふわりと空中に飛び上がった。腕組みをして僕を見下ろす。


「お前のその目はな」


 その威圧感に、僕の喉が鳴った。彼女は言い放った。


「――ビームが出るんだよ」


「……ビーム……?」


 何それ。


 そんな――そんなのあまりにも、かっこよすぎる!


「お前は知らなかったようだがな。私が知っている理由は、今度説明してやる。とにかく今は、そのビームを撃て。撃ち方は単純だ。ただ念じろ、それだけでいい」


 僕は興奮して尋ねた。


「この二人に!? 壁に!?」


「どっちでも構わん」


 いきなり大声を出した僕に、ハリネズミが近付いてくる。僕の顔を覗き込む。


「なんなんだテメエ、さっきから」


 いや、これはちょうどいい。完全な的だ。この人は明らかに僕に危害を加えようとしてきたわけで、ちょっとくらい痛い目にあわせても構わないはずだ。というわけで、僕は念じた。


「額に宿りし聖なる第三の瞳――ブラッドシャイニングアイよ」


「詠唱は要らんぞ」


「この僕が命じる! 混沌と秩序と宵闇のもとに、光線で世界を照らすがいい!」


「要らんって」


 横から女の子がいちいち口を挟むけど、ノッてるんだから黙っててほしい。思いつつ、僕は思い切り額に意識を集中させた。ハリネズミが眉を寄せた、その次の瞬間だった。

 

 僕の目の前で、爆発的な光が起きた。本当に網膜が焦げそうなくらいの眩しさに、僕は固く目を閉じる。続いて轟音が響いて、建物全体が大きく揺れた。


「な、な、な、何」


「目を開けろ。お前が壊した天井が落ちてくるぞ」


「天井!?」


 おばけの子に言われるがまま薄目をあけると、目前に瓦礫があった。あ、と思う間もなく顔面に直撃して、ベッドから転げ落ちる。痛みにのたうちまわる。


「痛い! 痛い! 死ぬ!」


「今のはクリーンヒットだったな。鼻の骨折れたんじゃないか?」


 僕は涙目になりつつも、天井を見上げた。穴が空いている。僕が空けたらしい。崩れるほどの穴じゃなさそうだけと、それでもまあまあ大きい。悲鳴も聞こえる。

 僕は鼻血を拭おうとして、手が縛られていることを思い出して慌てた。


「どっちにしろ、このままじゃ逃げられない。解かないと。ねえおばけ、君は僕の縄ほどけないの?」


「おばけだぞ? そっちの世界のものには触れない」


「もー!」


「怒られても困るな」


 僕はとりあえず、さっきビームを撃ってやったハリネズミにほどかせることにした。言うことを聞かなかったらまたビームでドカンとやればいいのだ。これは脅しじゃない。交渉ってやつだ、うん。

 あたりを見回すと、さっきのハリネズミの足が見えた。床に倒れているらしい。僕はそこに這いずっていく。


「あの、僕のロープを――ひえっ」


 喉の奥から裏返った声が出た。転がっていたのは、無残な死体だったからだ。その死体に頭はなかった。ただ、踏み潰された果実みたいにぐちゃぐちゃした赤黒いものが、頭があっただろう場所に散らばっていた。ところどころピンク色だったり白かったりするのが、なんとも――なんとも。


「うげえええ、気持ち悪い!」


 もう見るのやめとこ。僕はすぐさま転がって、その死体のそばから離れた。というか、これは僕が殺したことになるんだろうか。殺すつもりはなかったんだけど。いや、でも向こうも僕を解剖する気満々だったわけで。……イーブンかな? いっても6対4くらいじゃない?


 とりあえず、縄は女のひとの方に頼むしかない。


「ねえ、ねえ!」


 僕は、部屋の片隅で尻餅をついている女の人に這いずり寄った。目を大きく見開いた女の人は、びくりと肩を揺らした。綺麗な茶色い髪が揺れる。


「僕の縄解いてくれる?」


 女の人はまだぽかんと口を半開きにしていたけど、ふいにハッと、まるで電源でも入ったみたいに焦点をあわせて僕を見た。ガッと腕が伸びてきて、僕の体を掴む。


「うわっ」


 僕は暴れようとした。と、さっきの女の子が僕の周りをふよふよしながら、「落ち着け」と言う。


「いざという時は目のビームがあるだろう? 彼女が危害を加えてきたら、撃ってしまえばいい」


 それはそうだけど、乱発したら完全に人間が敵になりそうだ。そしたら僕はきっと逃亡生活になる。サンドイッチとも、ふかふかベッドともおさらばだ。でも今ならまだなんとなく許されたりしそうな感じある。一人しか殺してないし。ワンチャン、てやつだ。だから僕は、とりあえずビームは使わないままこの人から逃げたい。


 頑張ってじたばたする。と、女の人に頭を叩かれた。僕は動くのをやめる。


 だってその叩き方が、まるで撫でるみたいに弱いものだったからだ。


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