ー神有の章83- ぱっかり真っ二つ
邇邇芸の言いに渋い顔をする天照である。
「ううむ。すっごく言いにくいのじゃが」
その天照の言いに邇邇芸がうん?といった表情をする。
「どうかされたのでゴザルか?おばば様。実は、体調がすぐれないとかで、アレとは闘えないのでゴザルか?」
「い、いや。体調はいつでもすこぶる良好なのじゃ。しかし、肝心の草薙剣バージョン2のほうがじゃな?」
天照の歯切れの悪い受け答えに、邇邇芸がもしや!という顔つきになる。
「おばば様。まさかでゴザルが。太陽を取り戻した時に、草薙剣バージョン2に何か異変が起きたのでゴザルか?」
「ま、まあ。邇邇芸の言う通りなのじゃ。口で説明するより、実際に視てもらったほうが早いのじゃ。おい、誰か、わらわのお供のモノに草薙剣バージョン2を持ってこいと伝えてほしいのじゃ」
天照の言いを聞き、道雪が天照と同行していた貴族たちに言付けをしに行くのであった。
それから数分後、道雪と共に現れた貴族たちが、長さ2メートル近くはあろうかという長細い桐の箱を持ってくる。
そして、それを部屋の床に置き、桐の箱の蓋を開ける。その中身を視た瞬間に、邇邇芸が文字通り、口から泡を吹いて、倒れるのであった。
「あ、兄者!しっかりするでごわす!」
「ああ、ああ、ああ。草薙剣バージョン2が綺麗にふたつに分かれているのゴザル。ブクブクブク」
地面に倒れた邇邇芸を島津義弘が抱きかかえて介抱するのであった。
「あちゃあ。こりゃ、また、見事に真っ二つだなあ。しっかも、刃の中ほどがぽっきり折れるんじゃなくて、なんで縦方向にぱっかり割れてんの?これ、わざとじゃないと無理だろ?」
「いいえ?万福丸。これ、わざとやろうにも、ここまで綺麗に縦に割れないわよ?しっかし、ほれぼれするくらいに真っ二つよね。天照さま?何が起きたら、こうなるのかしら?」
「う、うむ。太陽を取り戻す際に、どうも、伊弉冉の神力を受けすぎたみたいなのじゃ。それ故、剣自体が耐えきれなくなり、ぱっかーん!と割れたのじゃ。いやあ、さすがにわらわもこうなることは予測がつかなかったのじゃ」
「竹のように綺麗に縦に割れている鳴りな。もしかして、草薙剣バージョン2は竹製だったの鳴り?」
「そんな貧乏武士じゃあるまいし、帝が材料費をけちるわけがないんだクマー。道雪ちゃん、帝に失礼だクマー」
立花道雪に龍造寺隆信が苦言を呈す。だが、鍋島が畳みかけるように
「まあ、帝はぶっちゃけ、源平時代の頃は貧乏だったから、その可能性は捨てきれないで候。大内家の屋敷のほうが帝の屋敷じゃないのか?と言いふらしていた宣教師がいたはずで候」
「ああ、フロイス殿でしゅね。あのひと、口が悪いんでしゅ。想ったことをそのまま言えるその度胸は認めるでしゅが、帝の屋敷をボロ小屋だというのはさすがにやめてほしかったのでしゅ」
大友宗麟は困り顔でそう言うのであった。フロイスとは、かの有名なルイス=フロイスであり、大友宗麟は彼の情熱的な言いにころっといかされて、彼の勧めでデウスの教えに入信した口であったのだ。
だが、宗麟にとっては師とも言えるフロイスであったが、彼は各地で断罪宣言をしでかすので、宗麟は彼の扱いに相当困った経緯があったのである。
「弁明しておくが、草薙剣バージョン2はあの当時では最高の技術と材料を使って作られた神器じゃ。砂鉄や玉鋼を3年ほど、那智の滝で洗ったモノを使っているのじゃ」
「なあ、吉祥。玉鋼って、金属だよな?3年も水にさらしてたら、錆でボロボロになるんじゃねえの?」
「さあ?そこは神秘的な力でも働いたんじゃないかしら?那智の滝の水は美味しいらしいから、一度、飲んでみたいとは想うのよね?」
「まあ、作られた過程はとりあえず置いておいてじゃ。源頼朝が資金を提供してくれたので、なんとか草薙剣バージョン2が出来上がったのじゃ。頼朝も、平氏から絶対に取り戻すと言っていた手前、資金提供は惜しまなかったようじゃな」
天照から聞かされた草薙剣バージョン2作成の裏話を皆がへえええと言いながら聞くのである。
「さて、困ったことになったのじゃ。草薙剣バージョン2はこの通り、真っ二つなのじゃ。さらに建御雷の神器である経津主は行方不明なのじゃ。あとは、天之尾羽張神頼りになるのじゃ。邇邇芸、いい加減、こっちの世界に戻ってくるのじゃ」
「ううん。さすがにそれがしも草薙剣バージョン2がこのようなことになっているとは想っていなかったのでゴザル。で、天之尾羽張神でゴザルが、それは、それがしが所有権を持っているのでゴザル」
邇邇芸がそう天照に応えるのであった。
「所有権を持っている?変な言い回しなのじゃ。天之尾羽張神は誰と合一を果たしたのじゃ?一緒にここへ連れてきているのかじゃ?」
「確か、そろそろ、この城にやってくる頃合いだと想うのでゴザル。第六天魔王殿に直接、この地に送ってもらえるように書状を送っておいたのでゴザル」
「第六天魔王じゃと?あやつ、この事態を知っておりながら、わらわに黙っておったのかじゃ。まったく、どこまでいっても喰えぬやつなのじゃ」
「なあ、吉祥。この場合の喰えぬやつって、比喩なの?それとも物理的なことなの?」
「万福丸?もちろん、どっちの意味を込めてよ?天照さまは信長さまにご執心みたいだしね?」
なるほどおと万福丸が感心するのである。吉祥としては、適当に受け答えしただけなので、そこまで感心されても困るのだがと想うのであった。
そうこうしている内に、庭の一角に突如、輝く光に満たされた円柱状のモノがいきなり具現化するのであった。
「えっ?えっ?突然、何が起きたの?あの光る円柱状のモノは何なの?」
「何か、アレに似たモノ、どこかで視たことがなかったっけ?うーーーん?」
「きっちゃんと、ぷっくーが、内城のおいどんの前に現れた時に、アレに包まれていたでごわすよ?」
「ああ、よっしー?そうだったの?俺たち、あんな感じで現れたのかあ。そりゃあ、怪しさ満点だなあ?」
「信長さまも飛ばす場所を考えてほしいわね。あんなところに突然、こんなモノが現れて、中から男女が出てきたら、そりゃ、牢獄に入れるわね?」
「うむ。そうでごわすな。まあ、ただのニンゲンではないことはすぐにわかったのでごわすから、手荒な真似はしなかったのでごわす」
その点は、よっしーさんに感謝しないといけないわねと吉祥は想うのであった。さて、今度はどこの誰が、信長さまの手により、この九州の地に飛ばされてきたのかしら?何か、嫌な予感しかしないのよね。
光輝く円柱状の側面が襖を開くかのように、口を開いていくのである。その中にはひとりの女性が入っていたのであった。
「ふあー。信長さまも乱暴だよー。もう少し、女性の扱い方って言うものをわかってほしいものだよー」
「えっ?えっ?えええ!小子ちゃん!なんで、小子ちゃんが、ここに飛ばされてるのよ!?」