ー神有の章81- 島津義弘、到着
邇邇芸や天照、そして万福丸と吉祥たちが立花山城で【話し合い】を繰り広げている中、その立花山城に10人ばかしのお供を引き連れて、ある男が訪問するのであった。
「はあはあはあ。兄者はあの身体でひとりつっぱしっていったのでごわす。なにもおいどんを置いて行く必要などなかったのでごわす」
その男とは島津義弘であった。彼は屋敷に通され、庭のほうにやってきたのである。
「はははっ。弟よ、これはすまないことをしたのでゴザル。おばば様の神気を感じて、居てもいられなくなったのでゴザル。身体能力向上の御業を限界まで駆使して走ってしまったのでゴザル」
「やめてほしいのでごわす。兄者の身体は日々、衰えているのでごわす。いくら、邇邇芸さまと合一を果たしたモノといえども、身体がもたなくなってしまうのでごわす!」
よっしーが悲痛の色を顔に映してそう言うのである。
「なんじゃ、邇邇芸。その身体は限界に達しつつあるのか?じゃ。まったく、いくら自分の【理】に近しニンゲンと言えども、合一を果たす相手を少しは考慮すべきなのじゃ」
天照がやれやれと言った表情で島津義久ならぬ、邇邇芸にそう告げるのである。
「このモノの魂の叫びに魅かれたのでゴザル。自分の肉体が滅びようとも、この九州を護りたい。そう、叫んでいたのでゴザル」
「なあ、吉祥。邇邇芸さまの身体っていうか、よっしーさんのお兄さんの身体が死ぬなんてあるのか?大神と合一を果たした以上は、そう簡単に死ぬもんじゃないんだろ?」
「ええ。万福丸。神器により肉体を直接、損傷されない限りは死に至ることはないはずよ。その場合でも、存在自体を否定されない限りは、本当の意味で死に至ることはないわね。邇邇芸さま、何か事情があってのことなのかしら?」
吉祥がそう、邇邇芸に問いかける。邇邇芸は、ふむとひとつ息をつき
「義久くんは、それがしと合一を果たす前に、大神の攻撃により、肉体を損傷してしまったのでゴザル。ニンゲンの身では、大神による否定に抗うのは難しいのでゴザル。それにより、それがしと合一を果たす前に、瀕死の状態となっていたのでゴザル」
「なるほどね。今、義久さんが生きているのは、邇邇芸さまがその神力で生命維持を行っているからなのね?普通なら、邇邇芸さまほどの神力を持つ大神と合一を果たしたのなら、失った左腕はすぐに再生してもおかしくないはずだもの」
「はははっ。神蝕率を95パーセントまで高めてもらった状態で、なんとか飛んで走れる程度までには回復したのでゴザル。お神酒に頼っていたものの、肉体の損傷を回復するのは難しいでゴザルなあ」
「まったく、おぬしは何をしているのじゃ。そんな身体のままでアレが復活した時にはどうする気なのじゃ?片腕で闘えるような相手と想わぬことじゃ」
「まあ、左腕を再生すること自体は可能なのでゴザル。だが、それを行った場合、確実に神蝕率は100パーセントに達してしまうのでゴザル。いくら、身体を譲りたいと、この身体の持主である義久くんに想われていても、自分勝手にそれをしてしまうのはいささか不公平だと想っているのでゴザル」
「ふんっ。変に律儀な奴なのじゃ。おぬしの【理】から考えれば、譲ってもらえるモノはなんでも譲ってもらうくせになのじゃ」
「はははっ。おばば様。それがしは、それほど節操無しではゴザラヌ。欲しいモノだけ譲ってもらうだけでゴザル」
「まったく、岩長姫が可哀想なのじゃ。女は見た目だけではないのじゃ。もちろん、男も見た目だけではないのじゃ」
「耳が痛い話でゴザル。さて、よっしーくんも到着したことでゴザルし、【話し合い】を詰めていこうでゴザル。よっしーくん。これまでのいきさつを説明しておくのでゴザル」
邇邇芸はそう言うと、遅れて到着した島津義弘に、これまでの【話し合い】の流れを説明するのであった。よっしーは、八岐大蛇が復活を遂げようとしている事実におおいに驚くことになる。
「な、なんと!伝説のあの八岐大蛇でごわすか!?それを兄者が討ち果たすというのでごわすか!?」
「まあ、出来ればの話でゴザル。最悪、おばば様にも出張ってもらうことになるのでゴザル」
「何をわらわに期待しておるのじゃ。アレを討ち果たしたのは、わらわの弟の素戔嗚なのじゃぞ?素戔嗚の神力と天之尾羽張神の神力を合わせてどうにかなった相手なのじゃ。わらわでもアレに相対するのは難しいのじゃ」
「吉祥。素戔嗚ってのはわかるんだけど、天之尾羽張神って、なんの大神だっけ?」
「万福丸。天之尾羽張神さまは、自らの神力によって、自分自身を神器へと変えることができる大神よ。素戔嗚さまは天之尾羽張神を武器に八岐大蛇と闘ったわけよ」
「ふーーーん。要は大神の神力そのものと言えるような武器じゃないと、八岐大蛇の身体を傷つけるのは難しいっていう理解で良いのか?」
「そうね。実際の闘いでは、素戔嗚さまは大量のお神酒を八岐大蛇に飲ませて、やつを酔わせたあとに首級を斬り落としたみたいだけど。でも、八岐大蛇の身体は硬すぎて、天之尾羽張神の刀身は欠けてしまったくらいだと【理の歴史書】には綴られているわね」
吉祥が自分の手に持つ分厚い書物を読みながら、万福丸に解説するのである。
「まあ、素戔嗚は天手力男神と同じくらいの馬鹿力なのじゃ。無理やりに叩けば、刃が欠けるのも当然なのじゃ。素戔嗚がアレを討ち果たしたあと、わらわに報告をしにきたときは、あまりに天之尾羽張神がボロボロの姿に成り代わっていて、申し訳なく感じてしまうほどだったのじゃ」
「はははっ。素戔嗚の叔父上さまには困ったものでゴザルな。しかし、叔父上さまのおかげで、アレを討ち果たし、さらには草薙剣を手に入れることができたのは僥倖だったのでゴザル。そのおかげでアレが本当に復活することを今まで防げたのでゴザルからな」
「ん?どういうこと鳴り?邇邇芸さま。草薙剣と八岐大蛇の復活には関連がある鳴りか?」
今まで、静かに話を聞いていた立花道雪がそう邇邇芸に尋ねるのであった。
「ああ。言い忘れていたでゴザルが、アレと草薙剣は同質のモノでゴザル。草薙剣に穢れが溜まることによってアレは自分の神力を高めることができるのでゴザル。それ故、朝廷ならびに代々の帝が草薙剣の穢れを払ってきたのでゴザルよ」