ー神有の章79- やつら
どういことなのかしら?九州で起きた一連の出来事の黒幕は、邇邇芸さんではなく、他にいるってことになるわよ?
「どういうことだクマー!俺様と合一を果たした大神である金剛力士・阿形は邇邇芸さまの手下ではないと言いたいのだ?クマー!」
「ということは、我と合一を果たした金剛力士・吽形もまた、邇邇芸さまの意思ではないということで候?」
「それはそうでゴザルヨ。そもそも、あなたたちが合一を果たした大神はひのもとの国のイニシエの大神ではないでゴザル。あとからやってきて、我らと同質となったモノなのでゴザル」
「ふむ。そうじゃな。そこは邇邇芸の言う通りじゃ。そこがわらわにとっても、不思議だったのじゃ。金剛力士・阿形、吽形共に、外来の大神なのじゃ。それが、ひのもとの国ではあとの世で、わらわたちと同じ大神となっただけじゃ」
「ん?吉祥。俺、よくわからないから、解説を頼む」
「万福丸?神仏習合と言う言葉を知らないのかしら?イニシエの大神たちは外来の大神である仏さまと同じであると、そうニンゲンたちの間では認識されるようになったのよ?」
「本来なら、金剛力士・阿形、吽形は我らとは違う大神なのでゴザル。だが、やつらはこのひのもとの国を手に入れるために、我らと同一視するように、ひのもとの国の民たちをたばかったのでゴザル」
やつら?やつらって誰のことなの?と吉祥は想う。
「やつらは【理の外】の存在でゴザル。【理の外】より干渉するために天部の大神であるモノたちを使役しているのでゴザル」
「なるほど。九州3大勢力の会合を一番、邪魔だと想っているのは、やつらなのかじゃ。それで、邇邇芸、おぬしは、やつらと闘うために、草薙剣と八咫鏡を手に入れようとしたのじゃな?」
「正しくは違うのでゴザル。それがしは、この九州の地、いや、ひのもとの国にやってくる災いに対処するために神力を高める必要があるのでゴザル。おばば様はこの地に足を踏み入れてから、ざわざわと感じるモノがないのでゴザルカ?」
「ざわざわと感じるモノ?確かに、胸騒ぎと言うか、そう言った予感めいたモノを感じることはあるのじゃ」
「その感じ、どこで味わったモノか覚えてないのでゴザルカ?それが、それがしが神力と神器を求める理由なのでゴザルヨ」
「先ほどから不思議なのだけど、邇邇芸さんは、何故、それを言うことをはばかっているのかしら?まるで、口にすれば、まさにそれが起きるとでも言いたげな感じを受けるわ?」
「そうでゴザルナ。まさにそれが起きるかも知れぬゆえに口にできないのでゴザルヨ。おばば様や、それがしほどの最高位の神格の大神が口にすること。すなわち、言霊が発動するのでゴザル」
「吉祥。言霊ってあれだろ?言ったことが本当になるってやつだよな?天照さまや、邇邇芸さんだと、言葉にするだけで、その災いってのが具現化しちまうってことなのか?」
「充分にあり得る話なのですわ。帝や朝廷の貴族、そして、ひのもとの国の民は災いを口にするのは、滅多にしないの。逆に言祝ぎをすることで、国や家族の繁栄が叶う。それを信じている風土があるのよ?」
「じゃあ、俺が吉祥と結婚するぞ、するぞ!って言いまくれば、言霊となって、それが叶うって認識で良いのかな?」
「まあ、言っている内容がどうかとは想うけど、言霊に関してはそういう認識で間違いないわね。でも、邇邇芸さん。あなたほどの神力の持主が恐れるほどの災いって、いったい、何が起きるの?この九州の地に」
「それを言えたら、どれほど、それがしが楽かをわかってほしいところなのでゴザル。吉祥さん。ちなみに、おばば様。応えがわかっても、決して、口にしないでほしいでゴザル」
「ふむっ。なんとなくじゃが、邇邇芸が恐れる災いの正体がわかったのじゃ。この胸のざわつきがヒントだと言われてじゃ」
「その災いとはいったい、何なのだクマー?それに、九州3大勢力を仲たがいさせるのは邇邇芸さまじゃなかったということも謎なんだクマー!俺様の頭から知恵熱が出そうなんだクマー!」
「隆信ちゃん、落ち着いてほしいので候。わからぬのなら、わからぬで放って置くのもひとつの手で候。少しづつでも、邇邇芸さまから情報を引き出すことを先決することを優先するので候」
鍋島直茂が主君である龍造寺隆信を宥めるのであった。隆信は、ううん、ううんと唸り、ついには、ばたんきゅうと倒れることとなる。
「あっ。隆信ちゃんがオーバーヒートしたので候。邇邇芸さま。ちょっと、隆信ちゃんが再起動するまで、待ってほしいので候」
「わかったのでゴザル。しかし、思兼と合一を果たした吉祥さんがそちら側に居ながら、何故に、あなたたちは何も知らないのでゴザル?そっちのほうが不思議でたまらないのでゴザル」
「思兼はどうも、事の真相を吉祥に教えたがるそぶりを見せないようなのじゃ。特にここ数年の出来事に関しては【理の歴史書】には詳細に記載されていないようなのじゃ。まるで、自分の役目ではないかのようになのじゃ」
「なるほどでゴザル。あの【理の歴史書】に思兼自身が記載しないと言うことは、吉祥さんに、それをやれと言っている。そして、やつらに一泡吹かせようと。そういうことでゴザルカ」
「さっきから、やつら、やつらって言っているけど、誰のことを指しているの?それに【理の外】の存在って。まるで、僕に謎かけをしているみたいよ?邇邇芸さんも天照さまも」
「そう。これは謎かけであり、謎解きなのじゃ、吉祥。おぬしは、思兼に謎解きをしろと言われているのじゃ。【理の歴史書】を読めぬのではないのじゃ。思兼は、おぬしに、おぬしの手で【理の歴史書】を綴れと言っているのじゃ」
「僕が、僕の手で【理の歴史書】の続きを書けってことなのかしら?僕が知りえた知識や知恵が、【理の歴史書】に記載されていく。そういうことなの?」
「そうでゴザル。元々、思兼が仕入れた知識や知恵がその書物に記載されているのでゴザル。だから、その思兼と合一を果たした吉祥さんが、それをやらねばならぬということでゴザル」
「でも、僕の目的は【理の歴史書】を綴ることではないわ?【理の外】のさらに外の【真実】を手に入れることが僕の目的であり、最終地点なのよ?」
「ならば、吉祥。おぬしはその【理の外】のさらに外である【真実】を綴るのじゃ。思兼はそれこそを望んでいるのかも知れぬということじゃ」