ー神有の章74- 龍造寺家 来訪
天照、立花道雪、大友宗麟、そして万福丸と吉祥たちがあれやこれやと話をしている時に、立花山城へまたしても客が来訪するのである。
「おおおおい。龍造寺家が主の龍造寺隆信がやってきたのだクマー。さっさと中に通せだクマー!」
「隆信ちゃん。そんなに門番のモノを睨みつけてはいけないので候。ああ、すみませんで候。うちの熊が大声をあげてしまってで候。我は隆信ちゃんの右腕の鍋島直茂と言うモノで候。3勢力会談のためにここにやってきたので候」
鍋島直茂の丁寧な挨拶に門番のモノは、ぺこりと頭を下げる。そして、城の中へ門番は入って行き、城主である道雪の了承をもらってきて戻ってくる。そして、ゴゴゴゴゴと城門は開かれ、隆信とそのお供のご一行は、立花山城の大屋敷へと案内される運びとなったのだ。
「うおおおおおお!すっげえ美人がいるのでクマー!お、俺様、美人にはめっぽう弱いんだクマー!是非とも、お名前を教えてほしいのでクマー!」
「隆信ちゃん、ダメですで候。みだりに婦女子の名前を聞くのは。古来よりひのもとの国では女性の名前は聞くのは求婚の証となるので候よ?」
「直茂ちゃん。俺様、そんなつもりで聞くわけではないのだクマー。ただ、お近づきになりたいと想って、名前を聞くのだクマー!」
隆信と鍋島は天照の目の前でやんややんやと言い出すのである。天照はふうううとひとつため息をつき
「まったく、九州の男どもは女性に名を聞く前に、自分の名前を教えると言う風習がないのかじゃ?」
「こ、これは失礼したのだクマー!俺様は龍造寺家の主、龍造寺隆信だクマー!今年で35歳、妻はひとり、子供は2人だクマー!」
「わ、我は隆信ちゃんの右腕の鍋島直茂で候。今年で34歳、妻はひとり、子供は3人で候!」
「ふむ。自己紹介ありがとうなのじゃ。でも、妻と子供の人数まで言う必要はないのじゃ。さて、名乗ってもらった以上、わらわも自己紹介と行くのじゃ」
天照は一度、ごほんと咳払いをし、神気を発し、神力へと変換し、自分の【理】を口にする。
【照らす】
彼女のふくよかな唇が動き、その奥から力ある言葉が発せられると同時に、皆が集まる部屋が太陽の光で照らされるのである。
「わらわはひのもとの国の帝を兼ねる、天照なのじゃ!貴様ら、頭が高い。控えろなのじゃ!」
煌々とその身を光らせる天照が胸を張り、そう言いのける。隆信と鍋島はその神々しさに涙を流し、想わず、彼女に向かって平伏するのであった。
天照はその2人の平伏姿に満足したのか、ふむっと息をつき、身体から出る光を抑えるのであった。
「なあ、吉祥。今の自己紹介でわざわざ神気を神力に変換する必要なんてあったのか?」
「万福丸?ラスボスって言うのは古来より無駄に光ったりするものなの?天照さまはひのもとの国の最高位たる帝なのよ?ラスボスとしての権威は充分だわ?だから、あえて、光るのよ」
なるほどなあと万福丸はそう想う。
「あれ?ラスボスって何?初めて聞く言葉なんだけど?」
「【理の歴史書】に載っていたのですわ。西洋の遊戯では、物語の最後にはボスと言われる強敵が登場すると。それを【ラスボス】と表記しているのよ?」
「へー。西洋の遊戯かあ。ひのもとの国で言えば、双六みたいなもん?」
「まあ、それに近しい遊びみたいなのですわ?サイコロを振って遊ぶという点では同じみたいね。でも、あんまり僕もどういった遊戯なのか、よくわかってないわね」
「ふーーーん。今度、その西洋の遊戯ってので遊んでみたいなあ。でも、西洋のかあ。やっぱり値が張るのかなあ?」
「そうねえ。この前、お休みを取って、博多の地で遊んできたじゃない?あの時、南蛮の品を扱っているお店に寄ったわよね?あそこにその遊戯が置いてあったけど、とてもじゃないけど、僕らの収入では手が出せない値段だったわよ?」
「そうかあ。やっぱり、高いのかあ。残念だなあ」
「僕たちでも手が出そうなのは、トランプと言われる、西洋の花札だったわね。でも、あれはあんまりおもしろくないのよね」
「ん?トランプ?確か、吉祥のお父さんも持っていたやつだったよな?なんか、色々と手品を見せてもらった記憶があるぜ?」
「まあ、僕のお父さんは手品用に使っていたわね。でも、本来は、花札と同じく、引いた手札で役を作って、それで相手と競いあうモノなのよね。色々と遊び方があるみたいだけど、やっぱり花札のほうがやっていて面白いわよ?」
「ふーーーん。花札って役を覚えるまでは大変だけど、覚えたら、めっちゃ楽しいもんなあ」
「吉祥に万福丸や。花札は地方ごとに違うゆえに、その【理】も多少違ってくるのじゃ」
「えっ?そうなの?天照さま」
「そうじゃ。京の都ではかるたや百人一首が最も遊ばれているのじゃが、その他の地方では、それの変形したものが花札となったわけなのじゃ」
「天照さまの言う通りなのでしゅ。僕ちん、博多を治めているから、ひのもとの国の各地と商売をやっている関係上、地方の花札や、京の都のかるたや百人一首も集めているのでしゅ。今度、収集物を見せるので、府内館にくるでしゅ?トランプもあるでしゅよ?」
そう言うのは大友宗麟である。彼には収集癖があり、博多の利も手伝って、その収集物は多岐に広がっていたのであった。
「ううむ。道雪さまは収集癖だけでなく、遊びも好きなのが困りモノなの鳴り。放って置くと仕事もせずに、家臣たちと飲めや歌えや遊べとなってしまい、困りモノなの鳴り」
「道雪さんも大変ね。でも、全国津々浦々の花札には興味があるわね。万福丸?邇邇芸さまの件が片付いたら、府内館に遊びに行ってみる?」
「ああ、俺は構わないぜ?でも、邇邇芸さまの件って、いつ終わるんだ?草薙剣は天照さまが直々に持って来てくれたけどさあ?」
「ふむっ。そうじゃな。宗麟、それに隆信よ。お前たち、わらわから草薙剣を借りたあとは、どのように考えているのじゃ?」
「ううむ。そう言われると困るのだクマー。深くは考えてないのだクマー。龍造寺家は考えるのは直茂ちゃんに任せているんだクマー」
「隆信ちゃん。我の話を聞き流していたので候?草薙剣を手に入れれば、その噂を聞きつけて、雉の鳴女がこちらに接触してくるはずだろうから、あいつをとっ捕まえると計画を練っていたはずで候」
「ああ。直茂ちゃん。そうだったクマーね。すっかり忘れていたんだクマー!」
「隆信ちゃんは相変わらず、脳みそが筋肉で出来ているのでしゅ。そんな大事なことを忘れていては困るでしゅよ?」