ー神有の章73- 草薙剣の力
「ふむっ。なるほどなのじゃ。宗麟、道雪。わらわに説明、ありがとうなのじゃ」
天照が立花山城に来訪してから、三日後、宗麟は慌てて、豊後の府内館からここ、博多の立花山城にやってきたのである。そこで、これまでのいきさつを天照に説明したのであった。
「しかし、邇邇芸は草薙剣と八咫鏡を手に入れてどうする気じゃ?」
「本当に八咫鏡は阿蘇山付近に眠っているのでしゅ?僕ちん、信じられないのでしゅ」
「まあ、八咫鏡の試作品は大昔、造っていたのじゃ。その廃棄品のいくつかは阿蘇山付近に眠っているかも知れぬのじゃ。しかし、そんな廃棄品で代用しようとは、どういうことなのじゃ?」
「廃棄品と言えども、それなりの神力を兼ね備えたモノがあると言うことではない鳴りか?」
「そりゃあ、試作品ゆえ、神力は安定しないモノもあれば、想定以上の神力を発揮するモノまであるのじゃ。だが、しょせんは試作品じゃ。あぶなかっしくて使えないシロモノばかりじゃ」
「なんで、そんな危険な試作品を邇邇芸さまは欲するのかしら?何か裏があると考えて間違いないわね?」
そう言うのは吉祥である。吉祥は神力で具現化した赤縁眼鏡をかけながら、そう、皆に言うのである。
「まあ、吉祥の言う通り、裏があるのじゃろうな。三種の神器のふたつを手に入れようとしているのじゃ。さらに八尺瓊勾玉も狙っていると想って、間違いないのじゃ」
「なあ。三種の神器ってさあ。具体的にどんな神力を具現化できるんだ?」
そう言うのは万福丸である。彼は日中の力仕事を終えて、家路につこうとしたところを道雪からの使者に立花山城へと招かれたのであった。
「万福丸?草薙剣を使って、伊弉諾さまが炎迦具土さまを斬り伏せたって話はさすがに知っているわよね?」
「ああ、それは知っているぜ?伊弉冉から産まれたときに、炎迦具土が伊弉冉を火傷させて、伊弉諾が怒って、炎迦具土を斬り伏せたってやつだろ?」
「そうよ。さらに最近のことと言えば、天照さまが伊弉冉から太陽を取り戻すために闇を斬り伏せたわ」
「すげえなあ。炎だけじゃなくて闇まで斬り伏せる神力をもってんのかよ、草薙剣ってのは」
「まあ、いろいろと便利なのじゃ。この草薙剣は。草刈りには特に重宝するのじゃ。御所の草刈りなど、ひと振りするだけで、すべての雑草が刈り取られて、すがすがしい気分になるのじゃ」
「ううむ。神器の無駄遣いを聞いた気がする鳴り。しかし、稲刈りとかにもつかえそうで便利そう鳴り」
「稲刈りにも使えぬことはないのじゃが、使い方を誤ると、ひのもとの国全ての稲を刈り尽くしてしまうのじゃ」
「えっ!?それマジなの?じゃあ、ひのもとの国の農家、全員が大助かりじゃん!」
「何を言っているのよ、万福丸。ひのもとの国は地域によって、気候がかなり違うのよ?だから、同じ日に一斉に稲刈りを行うわけではないのよ?それこそ、まだ実り切ってない稲まで刈ることになるじゃないの」
「あっ。そうか。うーん、農家のひとが大助かりかと想えばそうじゃないのか。残念だなあ」
「まあ、貴族たちの稲刈りくらいには使ってはいるのじゃがな。貴族連中は働くのが嫌いなのじゃ。だから、わらわに面倒なことをやらせるのじゃ。まったく、穀潰し極まりない奴らじゃ」
「じゃあさ。畑とか田んぼの雑草取りには使えないのか?そっちなら、刈り尽くしても大丈夫な気がするんだけど?」
「そんなことをしたら、田んぼどころか、そのへんの草原まで全部、丸裸になるじゃないの。大体、楽しようなんて考え自体がまちがっているわよ?」
「万福丸よ。そもそも、雑草と稲をどう切り分けろと言うのじゃ。そんな器用なことできるやつが居たら視てみたいものじゃ」
「だめかあ。せっかくいいアイデアだと想ったんだけどなあ。まあ、良いか。楽しようなんてばっかり想ってたら、稲の神様に罰を与えられそうだし」
「さて、話が脱線してしまったのじゃ。どこまで話を進めておったのじゃったか?」
「三種の神器にはどのような神力が備わっているのかという話でしゅ。草薙剣は何でも斬れる便利なものと言う認識で良いのでしゅ?」
宗麟がそう天照に尋ねる。対して、天照は、うーーーむと唸り
「なんでもと言うわけではないのじゃ。草薙剣を振るうモノが何かでがらりと斬れるモノが変わってくるのじゃ」
「それはどういうことかしら?いまいちよくわからないわ?」
吉祥がそう天照に尋ねる。
「ふむ。伊弉諾や、わらわほどの、最高位の神気を持つものなら望むモノを斬ることは可能となるのじゃが、ニンゲンが振るえば、それこそススキを斬るだけが精一杯というところじゃな」
「それは日本武が火攻めにあった事件のことね?」
「なんだっけ?吉祥。焼津のことだっけ?」
「そう、それで合ってるわよ?万福丸。焼津がまさに日本武が火攻めをされたときに、ススキを草薙剣で刈り取って、難を逃れた場所よ」
「そもそも、火も斬れるほどの神器なのじゃ、草薙剣は。だが、ニンゲンが使えば、ススキを刈り取ることくらいにしか神力を発揮できぬのじゃ」
「じゃあ、もしも、道雪さん辺りが草薙剣を振るえばどうなるの?」
「我輩の場合は鳴りか?ううむ。神鳴りを斬り伏せてみたいと想う鳴りが、それは可能なのか?鳴り」
「神鳴りはそなたでは無理じゃな。神鳴りとは神成じゃ。神そのものじゃ。神そのものを斬ろうと言うのであれば、やはり、伊弉諾ほどの神気がなければできぬことじゃな」
「うぐぐっ。我輩、愛刀を雷斬りと名付けているのに無念鳴り」
「残念でしゅたね。道雪。今度から、雷斬りではなく、雷斬れないにでも改名しておくといいのでしゅ」
「くっ!こいつ、殴ってやりたい鳴り。我が主君でなければ、確実に10発は殴っていた鳴り!」
「まあまあ、道雪さん。宗麟さんの言い方はむかつくけど、別に雷斬れないに改名しなくても良いと想うぜ?やっぱり、武器にはロマンを感じさせるような命名をしたいものじゃん?」
「そう言えば、刀にはそう言った逸話付きのモノが多いわね。童子切安綱とかは確か、鬼を斬り伏せたモノだったわよね?」
「そう鳴りね。あと鬼丸国綱も、鬼を斬るためのモノと言われている鳴り。あの二振りは将軍家が持っている言われている鳴り」
「ああ、あの二振りなら、今、第六天魔王が所持しているのじゃ。なんでも、神器をコレクションにしたかったんですよねえ!って喜んでおったのじゃ。あいつ、神器の意味をわかっているのかじゃ?」
「うーーーん。信長さまって名物収集が趣味って聞いたことがあるけど、まさか、神器までその趣味の一環として集めているとは想ってもいなかったわ」
吉祥は信長がうひょおおお!と言いながら、神器を集めている姿を想像してしまい、なんだか、頭痛がしそうになるのであった。