ー神有の章72- 3人寄れば
「あんらー。あんたさんが吉祥ちゃんの彼氏さんかいなー?めんこい男の子やんなー?」
「ほんにのー。うちらの旦那と交換してほしいんのー。吉祥ちゃんは大事にせな、あかんのー?」
「ちょ、ちょっと。2人とも、ひやかすのはやめてほしいのデスワ!確かに、付き合ってないかと言われると疑問だけど、そんな深い仲ではないのデスワ!」
「あんらー。照れちゃって、吉祥ちゃんは可愛いんやなー。彼氏さんも、吉祥ちゃんを大事にせな、あかんやなー?」
「あ、ああ。俺は吉祥を大事にしてるぜ?そこんところ、心配しなくても良いぜ?」
吉祥と万福丸は、天照と別れたあと、立花山城の屋敷の炊事場に向かい、そこで配膳の手伝いをした後、昼食にありついていたのだった。そこで、吉祥が仲良くしている女中たちにからまれることとなったのである。
「ところで万福丸ちゃんは、昼間、どうしているんかいなー?」
「あ、俺?んっと、昼間は力仕事をしながら、吉祥との結婚資金と日銭を稼いでいるんだよ。今は長屋の基礎作りをしているところかな?」
「あららー。それなら、うちの旦那も同じ現場で働いているかも知れんなー?もしかして、八兵衛ってひとが一緒にいないんかなー?」
「ああ、八兵衛さんなら、仲良く一緒に仕事をしてるぜ?いやあ、奇遇だなあ。奥さんとこんなところで出会えるなんて想わなかったぜ」
「ほんじゃ、もしかして六兵衛も一緒にいるんかのー?あの、馬鹿、仕事もせずに女の尻をおっかけていないんかのー?」
「六兵衛さんなら、いつも下ネタばかり言ってるぜ?」
「あんらー。うちの馬鹿旦那が迷惑をかけてすまへんのー。今夜、叱っておくからのー?」
「い、いや。六兵衛さんは、仕事の場を明るい雰囲気にしようと想って、言ってるだけだから、そんなにきつく言わないように頼むぜ?」
「万福丸ちゃんは優しいひとやのー。ほんに、わたしの旦那と変えてほしいところやのー?」
「ちょ、ちょっと!2人とも、あんまり俺にくっつかないでくれよ!メシが喰いずらいだろ!」
万福丸が女中連中に人気なのが少々、気にくわない吉祥は
「ふんっ!万福丸。鼻の下が伸びていますのデスワ。そんなに女性陣に囲まれるのが嬉しいの?デスワ!」
「き、吉祥。俺は吉祥一筋だってー。そんなに怒らないでくれよーーー!」
「怒ってなんかないのデスワ!」
吉祥がぷいっとそっぽを向くのである。だが、女中連中はそれが面白いのか、ますます、万福丸に絡んでいくのである。
「だ、だから、皆、そんなにひっつくなって!吉祥、俺を信じてくれよーーー!俺は本当に吉祥一筋なんだってー!」
「あらあら、吉祥ちゃんは焼きもち焼きなんやなー?これは面白いことがわかったんやなー?」
「や、焼きもち焼きって何デスワ!僕が万福丸のことで焼きもちなんて焼くわけがないのデスワ!」
吉祥の抗議に女中連中はニヤニヤとする。
「万福丸ちゃん。今夜は大変なことになるんやなー。焼きもち焼きの女は、昼に寂しかった分を夜のイチャイチャで取り戻そうとするもんやなー?」
「ほんまにのー。これは、明日、吉祥ちゃんがつやつやの肌になっているんやのー」
「な、な、何を言っているのデスワ!僕と万福丸はそんな仲じゃないのデスワ!」
「あんらー?でも、あんたら、おんなじ長屋に住んでいるんやなー?イチャイチャしたりせえへんのー?」
「こりゃ、彼氏さんが可愛そうやのー。こんなに可愛い吉祥ちゃんに手を出せないんやのー?万福丸ちゃん、据え膳喰わぬは男の恥って言葉は知らないんやのー?」
「うーーーん。俺としては、吉祥とイチャイチャしたい気はやまやまなんだけど、吉祥はそういうのは嫌いそうだしさあ。やっぱり、2人の同意の上で、イチャイチャしたいもんじゃん?」
「何を言っているんなー。そんなん、吉祥ちゃんだって、イチャイチャしたいに決まっているやんなー。女からイチャイチャしたいなんて言うわけがあらへんやんなー」
「そうやのー。そんなのはしたない女なんて想われたら嫌やもんのー。男から誘わないとどうすんのー?」
「えっ?そういうもんなの?うーーーん。俺、頑張ってみるぜ!」
「が、が、頑張らなくても良いのデスワ!それよりも、ご飯を食べるのデスワ!」
吉祥は話をごまかすためにも、モグモグと昼食を食べ続けるのであった。周りはニヤニヤと笑いながら、おかずに箸をつけて口に運ぶ。
万福丸はうーーーんと唸りながら、吉祥が握ったおにぎりを食べるのであった。
「じゃあ、俺、先に長屋のほうに帰ってるからな?吉祥、あんまり暗くならない内に帰ってこいよ?」
「わかったのデスワ。はあああ。この後、誾千代さんに茶の湯を叩きこまれると想うと気が滅入るのデスワ。誾千代さん、鞭を片手に指導してくるから、恐ろしいのデスワ」
「愛の鞭って、普通、物理的なモノを指したっけ?まあ、実際、鞭で打たれたわけじゃないんだし、そんなにびくつかなくてもいいんじゃねえの?」
「床をピシッ!ピシッ!と叩かれるだけでも充分、恐怖なのデスワ?万福丸、今度、長屋で試してみようかしら?デスワ」
「い、いや。俺は遠慮させてもらうぜ?変な性癖に目覚めちまいそうだしさ?」
「変な性癖って何なのデスワ。万福丸はもしかして、いじめられるのが好きなの?デスワ」
「うーーーん。俺、吉祥になら、そうされても良いけど、他の女性は嫌だなあ」
「さっき、鼻の下を伸ばしてデレデレしていたくせに、何を言っているのやらデスワ」
万福丸は、うっと想わず言ってしまう。
「は、鼻の下、伸びてた?」
「嘘なのデスワ。そんなにびくつかなくてもいいのデスワ?万福丸が他の女性に眼を向けないことはわかっているのデスワ?」
「良かった。鼻の下は伸びてなかったか。でも、女性ってのはすごいパワーだよなあ。俺、本気でもみくちゃにされるのかと想ったぜ」
万福丸の言いを聞いて、吉祥はくすくすと笑みをこぼす。
「あそこで働いている女性は、結婚しているひとたちが多いのデスワ。旦那さんを持つ女性と言うものはパワフルになるみたいデスワ?」
「ふーーーん。母は強しって言うもんなあ。吉祥も俺と結婚したら、あんな感じのパワフルな女性に変わるのかなあ?」
「さあ、それはどうなのかと想うのデスワ。でも、旦那が甲斐性なしだと、その分、奥さんのほうがしっかりすると言うのデスワ。僕がパワフルになるかどうかは、万福丸次第デスワ?」
「そ、そうか。俺、もっと稼げるようにならないといけないな。よっし、明日からも頑張るぞおおお!」
「何を言っているの?デスワ。そんなに張りきりすぎたら、熱中症で倒れてしまうのデスワ。稼ぐのはそこそこで良いのデスワ。それよりも万福丸が日々、元気なほうが僕としては嬉しいのデスワ」
吉祥はそう言うと、万福丸の頬に軽く接吻をする。
「じゃあ、洗濯ものを畳むのを頼んだのですわ?未来の旦那さま?」