ー神有の章71- 下着
天照と吉祥の2柱は、身体を洗ったあと、もう一度、湯船の中に入る。
「昼風呂は贅沢の極みなのデスワ。毎日、昼風呂を味わえる身分になりたいのデスワ」
「朝風呂もなかなかに格別ぞえ?夜にかいた汗を流すのは気持ちいいのじゃ」
朝から風呂に入れるなんて、さすがは帝の身分なだけあるのデスワと想う吉祥である。
「風呂からあがれば昼メシの時間なのじゃ。さて、どんな料理が待っているか楽しみなのじゃ」
「天照さまが羨ましいのデスワ。僕は炊事場で配膳のお手伝いをしつつ、そこでお昼ご飯なのですわ」
「なんじゃ。てっきり、わらわと一緒に昼メシを食べるとばかり想っていたのに、残念なのじゃ」
「出来ることなら、ご相伴にあずかりたいところデスワ。でも、僕は居候の身なのデスワ。ご馳走をいただいては失礼なのデスワ」
「そうなのかえ。まあ、仕方ないのじゃ。わらわだけ、博多の海の幸でも堪能させてもらうのじゃ」
そこは無理にでも誘ってくれるのが筋ってもんじゃないの?デスワと想う吉祥であるが、口を慎むことにするのであった。
「さて、すっかり長湯をしてしまったのじゃ。少し、湯を焚き直してから出ることにするのじゃ」
「えっ!?ちょっと待ってほしいのデスワ!?焚き直すって、もしかして、天照さま!?」
吉祥は天照を止めるべく声をかけるが、時すでに遅し。天照は神気を発し、その身に宿る力で湯を熱くさせていく。
「あつっ!熱いのデスワ!ちょっと、手加減ってものを知らないのデスワ!?」
「あっ。そう言えば、吉祥が一緒に入っていることを忘れていたのじゃ。すまんことをしたのじゃ」
天照は太陽神である。それ故、自分の身を熱し、風呂の湯まで熱したのである。
「ちょっと、熱くしすぎたのではないの?デスワ。これ、人間が入ったら、火傷してしまうのデスワ?」
「ふむっ。そうなのかじゃ?わらわにとってはぬるま湯程度にしか想えないのじゃが?まあ、あとで入るモノが水でも足せば良いのじゃ」
天照はそう言うと、湯船からあがり、すたすたと歩いて脱衣所に向かうのであった。吉祥はどうしたものかと想い、水桶場から、水を桶ですくい、それを湯船に3度入れ、まあ、こんなものだろうと想い、自分も脱衣所に向かって歩き出す。
「ふむ。困ったのじゃ。替えの下着のことをすっかり忘れていたのじゃ。まあ、良いのじゃ。上だけ羽織っておれば良いのじゃ」
「うーーーん。まあ、風呂上りだからそれで良いのかも知れないけれど、何かがいけないような気もするのデスワ?」
「気にしても仕方ないのじゃ。さっさと着替えねば湯冷めをしてしまうのじゃ」
天照はそう言うと、用意されていた赤と藍色の模様がついた小袖を着るのであった。吉祥は元から着ていた黄色が基調の小袖を着る。
「なんか、下着をつけていないとスースーするのじゃ。何か、はしたない気分なのじゃ」
「僕もお風呂に入ったのに、新しい下着じゃないと嫌な気分になるから、履かずに出てきたけど、やっぱり履いておくべきだったのかもデスワ」
「よう、天照さま。と、あれ?吉祥。お前も風呂に入ってたのか?」
「あれ?万福丸。こんなところにどうしたの?デスワ。この時間はまだ、仕事中のはずなのにデスワ?」
「ああ。その仕事場で、天照さまに捕まってさ。んで、俺がこの立花山城まで案内したってこと。で、なんと、案内しただけで300文(=3万円)もくれたんだぞ?天照さまは!」
「えええ!?案内だけで300文も、天照さまからもらえたの?デスワ。じゃあ、今日の夕飯は豪勢にするのデスワ!」
「なんじゃ、おぬしら。たかだか300文でなんでそんなに色めき立っておるのじゃ。おぬしら、大神じゃろうが。1日300文くらい、その辺の神社で神気でも発しておれば、賽銭だけでそれくらい儲けれるじゃろうが」
「いや、だって、俺、【呪い】が色の大神だからさ?神社でそんなことしたら、賽銭どころか石を投げられそうでさ?」
「【呪い】転じて【祝い】と為すじゃ。菅原道真も元は【呪い】の色だったのじゃ。だから、そんなに心配する必要はないはずじゃ」
「そ、そうなの?うーーーん。じゃあ、今度から俺、神社で拝められてみようかな?」
「でも、万福丸を受け入れてくれる神社ってあるのかしら?デスワ。犬神信仰の強いところならまだしも、九州だと、高天原の大神にまつわる神社が多いのデスワ」
「ふむっ。吉祥の言う通りじゃな。万福丸、九州ではやめておくのじゃ。多分、犬神を喜んで受け入れてくれる神社はそうそうないのじゃ」
「なんだよ。持ち上げといて、結局、落とすのかよ!期待して損しちまったぜ!で?吉祥、その手に持っているモノ、なんなの?なにかの布みたいに視えるけど?」
「ああ。これは下着デスワ。お風呂をいただいたは良いけど、替えの下着を用意していなかったから、履かずに出てきたってわけデスワ」
「なるほどなあ。その気持ちはわかるぜ。やっぱり風呂からあがったら、洗い立ての下着に着替えたいもんなあ。俺、ひとっぱしり行ってきて、長屋から吉祥の下着を持ってこようか?」
「それはいくらなんでも、万福丸に悪いのデスワ。それに、お風呂上りに下着をつけないのも気持ちいいモノデスワ」
「ふーーーん。そっか。まあ、必要なら言ってくれよ?俺、いつでも、ひとっぱしり行ってくるからな?」
天照は吉祥と万福丸とのやりとりを横目に視つつ、仲良くやっているようで良いことじゃとひとり想うのであった。
「ところで万福丸はお昼はもう食べたの?デスワ」
「んや、まだ。さっきまで道場で伸びてたからさあ。天照さまにしつけを教えこまれた後、起き上がれずにくたばってたってわけ」
ああ、そう言えば、しつけのなってない犬っころをシバキ倒したとお風呂の中で天照さまが言ってたのデスワ。まさか、万福丸のことだったとはと想う吉祥である。
「じゃあ、炊事場のところに一緒に行くのデスワ。配膳のお手伝いのあとになるけど、僕と一緒にお昼ご飯を食べれるのデスワ。もしかすると、おかずも何品かもらえるかもデスワ?」
「おっ、マジで?じゃあ、俺も炊事場に行って、配膳の手伝いをするぜ。いやあ、昼に吉祥とご飯を一緒に食べるなんて、久しくなかったような気がするなあ?」
「あら?そうだったかしら?デスワ。うーーーん。今度、お休みを取って、博多の街で買い物でもする?デスワ。天照さまの案内で想わぬ収入もあったのデスワ」
「良いのか?せっかくなんだし、将来のためにも貯金しておいたほうが良いと想うんだけど?」
「あぶく銭は使ってしまったほうが良いのデスワ?それに、お金は天下の回りモノとも言うのデスワ。貯めてばかりでは、運気も滞ると最新号の博多女アヌアヌにも書いてあったのデスワ?」
「ああ。吉祥が家で読んでるあの女性誌かあ。俺、アレの宇佐神宮の干支占いのコーナーが好きなんだよなあ」
「お勧め甘味処情報も載っているのデスワ。博多女アヌアヌで紹介されているお店に今度、行ってみるのデスワ?」