ー改変の章 8- 神気と神力
天手力男神は宙に舞う。それも高速の横回転をしながらだ。そして、滞空時間が約10秒過ぎたかな?と言ったところで、地面にドスウウウウンと着地する。もちろん、頭からだ。
「おーーーい。起きてください?今から、先生が何をして、あなたの全力を凌ぎ切ったのか説明するんですからね?」
(ううむ。貴様、本当に神蝕を受けていないのか?である。天手力男神の全神力を受けて、さらにかの大神を宙に舞わせているのであるぞ?)
「まあ、どれほどすごいのか、いまいちピンときませんけど、本当にこのひと、いえ、この大神は相撲を司る天手力男神なんですか?」
(間違いないはずなのである。この筋肉だるまを見る限り、こいつは天手力男神なのである)
信長は、ふーーーんと想いながら、波旬の言葉を聞くのである。どうしたものかなあとさらに想っているところに、天手力男神が失神から目覚めたのか、ぐぬぬと唸りながら身を起こすのである。
「ぐぬぬぬぬぬっ。我輩がこんな合一したばかりの大神に、ここまでコテンパンにされたのは産まれて初めてなのでもうす」
「まだ安静にしておいたほうがいいんじゃないですか?ほら、右腕も吹き飛んでいますし、ね?」
「要らぬ心配でもうす!神力でもって吹き飛ばされたものでもない限り、すぐに再生するのでもうす。ふんぬおらあああああ!」
天手力男神が神気をまたもや膨らませる。信長は軽く身構えたものの、彼からは攻撃の意思を感じないため、やがて、構えを解くのである。そして、信長は天手力男神の身体を見て、おおいに驚くことになる。
「ええ?ええ?えええええ!ちょっと、待ってくださいよ!なんで、粉々のばらんばらんに吹き飛んだ右腕がみるみると蘇っていくんです?うわっ!気持ち悪い!骨が、血管が、肉がまるで踊っているかのように蘇っていくんですけど!」
信長が大層、気持ち悪いものを見せられたと、げえええと顔を横にそらす。天手力男神は知ったものかと、ふんっと鼻を鳴らし、再生していく右腕に神気を送り続けるのである。
「ふいいい。やっと再生が終わったのでもうす。しかし、お前が本当に合一を果たしたばかりのニンゲンであることはこれで確認ができたでもうす」
「ん?天手力男神くん。それは一体、どういう意味ですか?」
信長の問いかけにさも天手力男神が面白くもないという顔付きになる。
「その意味すら知らないということが、お前が合一を果たしたばかりと言う、動かぬ証でもうす。大神は単純な物理攻撃では、たいしたダメージを受けないのでもうす」
「ダメージ?ああ、南蛮語ですね。確か、ひのもとの国の言葉では被害でしたっけ。で、そのダメージとやらが、物理攻撃?ではそれほどたいした影響を大神には与えないと言うことですか?」
「そういうことでもうす。大神同士の闘いにおいて大事なことは、互いの神気と神力により、相手の存在自体を無に帰すことなのでもうす。我輩がやろうとしたことは、神気を神力に変換し【はっけい】によって、お前の身体、いや存在を無に帰そうとしたのでもうす」
「こわっ!ちょっと、波旬くん、聞きました?天手力男神くん、さっきは、先生の存在自体を消そうとしてたんですよ?」
(お前が無闇やたらにこいつを挑発するからである!少しは自重すると言うことを知らないのかである!)
挑発なんてしましたっけ?先生。うーーーん。神は誇り高いと言いますからねえ?もしかして、先生のしゃべり方が気に入らなかったのでしょうか?と想う、信長である。
「まあ、先生の言い方がしゃくに障ったのなら、謝ります。遺憾の意ですけど!」
(それのどこが謝っているのである!お前は、今度こそ、この世界から消え去りたいのであるか!)
「えええ?先生、存在を無に帰されそうになったんですよ?それなのに、謝れってどういうことです?なーーーんか、納得いかないんですよ!」
(馬鹿か!貴様は馬鹿か!神気を神力に変えられぬ貴様が逆立ちをしても、天手力男神には勝てないのである!今は、平謝りして、神界に帰ってもらうのである!)
「いやです。絶対、いやです。大体、謝るのは向こうのほうでしょ?」
信長の減らず口に、想わず波旬は、ぐっ!と唸る。しかし、はあああと深いため息をつき
(身体を少しだけ借りるのである。貴様にこれ以上、会話させていては、本当にどうなるのかわからないのである)
「ちょっ、ちょっと!あああ、先生の意識ががが!」
「すまないのである。我と合一したニンゲンは向こう見ずすぎるのである。こうして、奴に代わり、我が出てきたのである」
「オウオウオウ。波旬、久しぶりでもうす。いやあ、そのニンゲンをどこで見つけてきたのでもうす?我輩、500年振りに、びっくり仰天してしまったのでもうすよ!」
「ふんっ。あれからもう500年も経つのであるか。貴様が喧嘩相手がほしいと言って、我の第六天へとやってきたのは。貴様はあれから少しは大人しくなったものと想えば、全然そうじゃなかったのである」
「いやあ。【はっけい】の神力を感じたから、いてもいられなくなったのでもうす。あれは、お前が我輩に会いたくて、【はっけい】の真似事をしたのかと想って、神界から飛んできたのでもうす!」
「い、いや。あれはだな。決して驚くなである。我と合一を果たしたニンゲンが使ったのである」
波旬はそう言うが、天手力男神は、はああああああああああ?と大きな疑問の声をあげるのである。
「おいおいおい。どういうことでもうす!ニンゲンの分際で、我輩の【はっけい】を使いこなすとでも言うのでもうすか?そいつは本当に、元々はニンゲンだったのでもうすか?」
「我の魂の一部が現世に逃げ出したものが元になったとは言え、一応は正真正銘のニンゲンである。だが、どこをどう間違えたかは知らぬが、こいつは我と出会う前から【はっけい】を使えていたみたいなのである」
波旬は困ったなあと言う顔付きでそう天手力男神に説明するのである。天手力男神は眼を剥き出し、まるで信じられないと言った顔付きである。
「たかだかニンゲンが神域に達するのは不可能に近いのでもうす。だが、お前の魂の一部が原因であるなら、そう想うしかないのでもうすかなあ?」
「我にも、こいつは理解不能なのである。大体、貴様の全神力をその身に受けていながら、神蝕率が0.1パーセントにも満たしてないのである」
「はあああああああああああ?さすがにそれは嘘でもうすよな?我輩の全神力を受けきれるのは、全世界において、限られた大神だけでもうすぞ?それなのに、お前との神蝕率が0.1パーセントの状態で防ぎ切ったのでもうすか?」
「これが証なのである。こいつの肉体は我の神蝕を左手の小指のさらに爪先だけで止めているのである」
「うっわ。本当でもうす!こいつ、気持ち悪いでもうす!おい、波旬。そんな奴との合一なんて、やめてしまうでもうすよ!」