ー神有の章62- 朝食
九州3勢力による【議論】から、早2週間近くが経っていた。大友家から朝廷に送った書状への返事はなく、次の3勢力会談が無為に終わってしまうのではないかと言う心配が立花道雪や大友宗麟には有ったのである。
だが、そんなことも気にしない感じで、万福丸と吉祥はのんびり、日々を過ごしていくのであった。そんな2人の朝の一幕である。
「万福丸。そこのお醤油をとってほしいのデスワ?」
「ん?豆腐に醤油をぶっかけるのか?あんまり塩分を取りすぎるなよ?顔がむくんじまうぞ?」
「うるさいのデスワ。少しくらい、顔がむくんだところで、このお醤油の味を欠かすことはできないのデスワ」
「まったく。って、あれ?醤油差しの中身が空だな。うーーーん。ちょっと、待ってくれよ?醤油が残ってないか、調べてくるわ」
万福丸はそういうと、ちゃぶ台から離れて、土間に行き、醤油の入った壺を確認するのである。
「あっれー?醤油がかなり無くなってきているなあ。吉祥、今日、仕事帰りに醤油を買い足しておくぜ?」
「あら?そうなのデスワ?うーーーん。醤油を少々、使い過ぎてしまったようなのですわ。道雪さんに言ったら、わけてくれないでしょうか?デスワ」
「おっ。マジで?なら、話をつけといてくれよ。俺が仕事が終わったら、城に行って、醤油壺を持って帰るからさあ?」
「わかったのデスワ。あそこの女中さんとは仲良くさせてもらっているのデスワ。嫌な顔はされないと想うのデスワ」
「どうせなら、砂糖もわけてほしいとこだよなあ。醤油と砂糖を使うと甘辛いタレを作れるんだよなあ。アレで煮魚を作ると、これがまた美味しいもんなあ」
「砂糖。うーーーん、さすがに砂糖は値が張るから、良い顔をされないような気がするのデスワ。塩とかなら、問題ないような気がするのデスワ」
「そうかあ。砂糖は難しいかあ。せっかく、南蛮との貿易が栄えているのに、俺たちみたいな庶民とは南蛮人は商売をしてくれないもんなあ」
「まあ、小売りなんかしてたら、向こうも面倒くさいのデスワ。それこそ、領主さま相手に大口の取引をしたほうが楽なのデスワ」
「砂糖ってどうやって栽培してんだろうな?それさえわかれば、ここの屋敷の庭で栽培してみようと想うんだけどなあ?」
「商売のタネを教えてくれるほど、南蛮人は甘くないのデスワ。昔、この国に鉄砲が持ち込まれた時に、種子島時堯さんと言う、種子島の領主が南蛮人と取引をしたのデスワ」
「ああ。俺も知っているぜ?だから、鉄砲って、種子島って呼ばれるようになったって話だろ?」
「そうデスワ。その時に、種子島時堯さんが南蛮人から2丁、鉄砲を買い取ったのデスワ。だけど、本当に驚くべきことは、その買い取った鉄砲を種子島の鍛冶屋が1年後には量産化に成功したことなのデスワ」
「ふざけた話だよな。南蛮人もびっくり仰天だろうなあ。わざわざ遥か西から海をまたいで鉄砲を売りにきたっていうのに、まさか、それを1年で同じモノを作られたらたまらないだろうなあ」
「まあ、でも、ネジ穴を作ることができなかったので、ネジの技術を手に入れるために、その鍛冶屋さんは自分の娘を南蛮人に嫁がせることになったのデスワ。ネジくらい、無料で教えてくれれば良いモノを、そこまで甘くはなかったと言う話デスワ」
「そうだよなあ。ひどい話だよなあ。俺がもし、その鍛冶屋のおっさんだったら、南蛮人をぼっこぼこにしてやるところなんだけどなあ」
「南蛮人をぼっこぼこにしてたら、今頃、ひのもとの国は火薬を手にいれることをできなかったはずデスワ。ひのもとの国の不幸はネジだけではなく、火薬を作るための材料がまったく採れないことデスワ」
「その辺も、もしかして、南蛮人が技術を隠しもってんじゃねえの?無いとか言いつつ、実は、ひのもとの国には火薬を作るための材料があるとかさあ?」
「万福丸の考えも正しいかも知れないのデスワ。でも、南蛮人が地質調査をしたと言うのが【理の歴史書】に載っているのデスワ。火薬を作るための硝石と言うものが、少なくとも、九州と中国地方では見つかっていないのデスワ」
「なるほどなあ。九州と中国地方って言えば、ひのもとの国の半分って考えても良いもんなあ。そこで見つからないなら、ひのもとの国全土で無いって考えたほうが自然なのかもなあ」
「その代り、金と銀の産出量はこのひのもとの国が世界中のどこよりも1番だと言うことはわかったらしいのデスワ。だから、南蛮人は喜んで、ひのもとの国と商売をするのデスワ」
「ん?吉祥。それってどういうこと?」
「ああ。どうも、南蛮人はひのもとの国と同じく、金や銀でお金を作るみたいなのデスワ。だから、その元となる金や銀は南蛮人にとっても貴重なモノなのデスワ」
「ああ。なるほどなあ。世界の国々って意外と似たり寄ったりなんだなあ。俺、南蛮人は物々交換でもしてるのかと想ってたわ」
「まあ、物々交換もやっていると想うのですわ。ひのもとの国も通貨が行き届いてるわけではないのデスワ。田舎と言ったら失礼だけど、そう言ったところは通貨よりも金や銀そのものと物々交換を行っているのデスワ」
吉祥の説明に万福丸がふむふむと頷くのである。
「信長さまは通貨を流通させるために色々とやってはいるのデスワ。でも、信長さまの領地から東のほうは、未だに金の塊そのものと物を交換していたりするのデスワ」
「なるほどなあ。じゃあ、九州で銭が使えるのはまだマシなほうってことかあ。これ、信長のおっさんによって、俺たちが東北のほうに飛ばされてたら、速攻、飢え死にしてた確率が高かったりして?」
「かも知れないですわ。僕たちの持っているもので交換出来るモノなんて、それこそ、身体を売るくらいしかないのデスワ。その点は信長さまに感謝するしかないのデスワ」
「うっわ。ただ単に、九州に飛ばしてくれたわけじゃないのか。信長のおっさん、何も考えてないようで、ちゃんと考えていたんだなあ」
「まあ、たまたまの可能性も否定できないのでなんとも言えないのデスワ。さて、そろそろご飯を食べ終えないと、万福丸は仕事に遅れてしまうのデスワ」
「ああ、そうだったぜ。いやあ、しっかし、最近、特に暑くてさあ。塩を練り込んだ飴を舐めていることは舐めているんだけど、汗が半端なく出ちまうからなあ。俺、熱中症で倒れるんじゃないかって、おっかなびっくりだぜ」
「塩だけじゃなくて、ちゃんと水分も取るのデスワ。水筒を少なくとも3つは持っていくのデスワ」
「熱中症くらいで死ぬわけじゃない身体だと言っても、活動停止してしまったら、大変だもんなあ。周りから視たら、見た目、死んでいるように視えるもんなあ」
「面倒くさい身体になったものなのデスワ。水と塩で1カ月は活動できると言っても、活動できるだけなのデスワ。結局、ちゃんと毎日、ご飯を食べないと神力も満足に発動できなくなってしまうのデスワ」
「身体能力の向上とかって、丸1日も使ってたら、しゃれにならないくらい腹が減るもんなあ。逆に俺たちみたいな大神と合一を果たしたモノって、食費が馬鹿にならないような気がするよなあ」
「そうなのよねデスワ。万福丸、おかかとこんぶ、そして梅入りのおにぎりを6個、作っておいたのデスワ。ちゃんとお昼に食べておくのデスワ?」