ー神有の章61- 吉祥の1日
「ですから、華をいけるのに大切なのは心ですわよ!あなたは心がなっていませんの!わかりますか?」
「ううう。おかしいのデスワ。僕の心は純粋そのものなのデスワ。何故、僕の芸術がわかってくれないの?デスワ」
万福丸が日中、力仕事に汗を流している中、一方、吉祥は、立花山城の屋敷に招かれて、立花道雪の娘、誾千代に華道と茶道をみっちりと仕込まれていたのである。
「貴女は基本すら知らずに応用へと走ろうとするのがダメなのです。まずは基本からですわ。姿勢を正し、心を落ち着けて、華のひとつひとつに心をこめなければいけませんわ?」
「むむむ。難しいのデスワ。これは僕には合わないのデスワ。これなら、野を駆けまわって、ウサギを追い回して、晩ごはんのおかずを1品増やすほうが性にあっているのデスワ」
「文句を言わないで、まずは姿勢と心をまっすぐにしなさい。できないと言うのであれば、この鞭で身体に教えこみますわよ?」
「ひいいい!それはやめてほしいのデスワ!誾千代さんの言うことは冗談に聞こえないのデスワ!」
吉祥は、ひいひい言いながら、誾千代から華道をみっちり教え込まれるのであった。
「ふううう。やっと解放されたのデスワ。もう少しで鞭を入れられるところでしたのデスワ。教鞭を振るうってのは例えじゃなくて、物理だったとは想わなかったのデスワ」
昼になったと言うことで、午前の授業は終わり、吉祥は誾千代から解放されたのであった。吉祥は炊事場のすぐ隣の部屋でお昼ご飯をパクパクと食べていたのである。
「あんたさん、どこから来たんねー。しっかし、誾千代さまに指導を願い出るとは怖いモノしらずやねー」
「んだんだ。誾千代さまの教育は怖いさかいなー。私もこの城で働くことになった最初は、誾千代さま自らの指導を喰らって、泣きそうになったもんなー」
「でも、誾千代さまは、あたしらには厳しいようでいて、あれで優しいひとやもんねー。あたしらが、将来、旦那さんをもらった時に、粗相がないようにと教えてくれているもんねー」
「せやなー。だから、誰も誾千代さまには恨み事は言わないんやなー。誾千代さんのは誾千代さんとしての優しさが込められているもんなー」
「それは僕もありがたいと想っているのデスワ。でも、本当にあの手に持った鞭でしばかれるんじゃないかとビクビクしてしまうのデスワ」
「そこは大丈夫やねー。心配せんでも、アレは旦那さまの宗茂さまを叩く専用なんやねー」
「せやせや。誾千代さまが女性に暴力を働くことはないんやんなー。だから、安心して良いんやなー?」
なんか、今、とんでもないことを聞いた気がする吉祥である。これは深く聞いておくべきなのかもと想うのだが、聞くのも怖い気がするのであった。
「あ、あの?その宗茂さんを叩く専用ってどういうことデスワ?」
「あらあら。まだ若いのに、そんなことに興味があるんかいねー?あれは、夫婦のイチャイチャの発展系なんやねー?」
「吉祥ちゃんは確か、16歳やったんやなー。やっぱり、気になってしまう年頃なんやなー?」
えっ?鞭を夫婦のイチャイチャに使うって何なのデスワ?一体、どんなイチャイチャなのデスワ?
「吉祥ちゃんは、お昼からは15時には帰ってしまうからわからへんやんねー。でも、この城は、夕飯が終わったあとからが本番なんやねー」
「そうやなー。宗茂さまの悲鳴が今夜は何回、聞けるか女中連中で賭けが始まるやんなー。吉祥ちゃんも今度、城に泊まってみるといいやんなー?そしたら、誾千代さまと宗茂さまの大人のイチャイチャを視ることができるやんなー?」
「あ、あの。すっごく危険なお誘いのような気がするのデスワ。それよりも、旦那さまや奥方さまのイチャイチャを間近で視て良いモノなの?デスワ」
「ああ、吉祥ちゃんは知らへんのかねー。大名や良いとこの武家では、寝室でもしものことがあったら大変やんねー?だから、奥方さまと親しい女中は、寝室で何かあっても良いようにと、同じ部屋に滞在せなあかんやんねー」
「せやなー。誾千代さまが昂って、宗茂さまに大怪我させてもうたらあかんからなー。だから、女中連中で止めに入らなあかんねんなー」
「なんだかすごい世界なのデスワ。僕、ただの信長さまの一兵士のお父さんが親で良かったのデスワ」
「吉祥ちゃんは、器量が良いから、もしかしたら宗麟さまのお眼にかなうかもしれないんやねー。だから、そういう立場になることも可能かも知れへんねー」
「それはお断りなのデスワ。僕は宗麟さんは気持ち悪くて仕方ないのデスワ。もし、ここが道雪さんの屋敷じゃなくて、宗麟さんのだったら、絶対に来てないのデスワ」
「ありまー。宗麟さまも可愛そうなんやなー。別に人妻が好きなだけなんやけどなー。まあ、そこがダメなんやけどなー」
「ほんまにねー。あの性格は道雪さまの雷でも直らないもんねー。ほんまに堪忍してほしいとこやんねー」
大神の雷ですら直らない性格って、どれほどなのデスワと想う吉祥である。雷と言えば、それを使いこなせる大神はそれほど多くない。雷は神成、もしくは神鳴りと書く。雷は神そのものと言っても良い神力であるのだ。
その神力を持ってしても、宗麟さんの人妻好きが直らないと言うことは、宗麟さんと合一を果たした大神、いえ、天使・ラファエルは道雪さんの神力を超えていると言う証にもなるわけデスワ。
うーーーん。とても、そんな神気や神力を宗麟さん自身から感じないのデスワ。わざとその力を見せないように宗麟さんが道化を演じている可能性があるのデスワ。
「宗麟さんって本当はすごい人物なのかしら?デスワ」
「そんなこと無いと想うんねー。道雪さまが居なかったら、とっくの昔に大友家は滅びている気がするんねー」
「ほんまにそうやんなー。道雪さまあっての大友家やんなー。道雪さまももうお歳なんやなー。これから、大友家はどうなっていくんやろなー?」
「あれ?道雪さまは大神と合一を果たしているのデスワ。ですから、寿命は大神とほぼ同じと言っても過言ではないのデスワ?」
「そうなんかいねー。なら、大友家はこれからも安泰と言うことなんかいねー。それは良い話を聞いたんねー」
「はあああ。安心したんやんなー。龍造寺家が攻めてきたと聞いたときは、もはやこれまでかと想ってしまったやんなー。でも、道雪さまがこれからも大友家で頑張ってくださるなら、安心やんなー」
どれだけ宗麟さんは信頼されてないのデスワ?と想う吉祥である。まあ、自分のことを僕ちんなんて言ってる領主さまでは、庶民の者としても安心できないのでしょうデスワと吉祥は想うのであった。
「ふううう。ご馳走さまでしたデスワ。美味しいご飯をありがとうなのデスワ。これで、午後からの茶道の授業もなんとか乗り越えれそうなのデスワ」
「そんなに褒めんでいいんやねー?でも、興味があるようなら、一度、この城に一泊することをお勧めするんやねー。きっと、彼氏さんとのイチャイチャに広がりができるんやんねー?」