ー神有の章59- 議論の終わり
「じゃあ、聞きたいことや相談したいことはこれで終わりかしら?それなら、そろそろ【議論】も終わりでいいかしら?」
【見届け神】たる吉祥がそう皆に聞くのである。
「最後に、次の3勢力会談の場所と日時を決めておくのだクマー。また使者が行方不明になったり、追い返されたりしたら、面倒なことになるんだクマー」
龍造寺隆信がそう切り出すのであった。
「そう鳴りね。邇邇芸さまが何かを企んでいるのであれば、使者をどうにかするはず鳴り。ならば、先に、場所と日時を指定しておいたほうが良い鳴りな。では、場所はここ、博多の地で良い鳴りか?」
「おいどんは異論はないでごわす。しかし、博多の地と言われても、広いでごわすよ?豊後の府内館のように目立つ建物でもあれば良いでごわすが」
よっしーがそう道雪に言うのである。道雪はふーむと唸り
「では、我輩の娘婿も住んでいる、我輩の居城、立花山城にしようか鳴り。ほら、ここからも視える、あの山の上の城鳴りよ」
「わかったでごわす。でも、そこで3勢力会談なんか開いていいのでごわすか?道雪ちゃんの娘って、あの誾千代ちゃんでごわすよね?あの鬼怖い娘さんと結婚するような男が現れるとは想わなかったでごわす」
「ひどい言いぐさ鳴り。そりゃあ、おっぱいはほっとんどない鳴りけど、立派に娘婿を一端の将に育て上げようと、日夜、教鞭を振るっている鳴り。宗茂ちゃんは、昼間も、夜の寝室でもアヒンアヒン!言わされているの鳴り」
「うっわ。俺、なんかすごい話を聞いた気がするんだけど?吉祥。もし結婚しても、俺を鞭で打つのは勘弁な?」
「何を言っているのかしら?万福丸は。道雪さんのアレは例え話よ。本当に鞭で身体を打っているわけではないわよ?」
「そうなのかなあ?俺、何か嫌な予感がするんだけどなあ?その誾千代さんが宗茂さんって言う旦那さんを四つん這いにして、その上に乗っかって、尻を鞭で叩いてる気がするんだよなあ?」
何を想像しているのかしら?万福丸は。教鞭を振るうって言うのは、厳しく教え込むってことよ?物理的に鞭でしばいてるわけがないじゃないのよと想う吉祥であったが、その後、その予想が大きく外れることに、彼女は驚愕するのであった。
「場所は決まったので候。次は日時で候。一度、兵を本国に戻す必要がある以上、帰りで2週間、戻りで2週間と行ったところで候。なら、速くて4週間後と言うことになるので候」
「そうでしゅね。鍋島くんの言う通りなのでしゅ。では、4週間後の7月10日当たり。うーーーん、もう少し、余裕を持たせて、7月15日にするでしゅよ。それなら、何かトラブルがあったとしても遅れることはないはずでしゅ」
「わかったで候。では、宗麟ちゃんの言う通り、来月7月15日、場所は福岡の地、道雪ちゃんの居城・立花山城に集まるので候。皆、異論はないで候?」
鍋島がそう皆に問う。皆は首を縦に振り、それを合図に合意となるのであった。
「では、それで話をしめ括りましょうか。では、これにて【議論】は終了ですわ。皆さま、【円満解決】をしてくださり、ありがとうなのですわ。【見届け神】がしかと見届けさせていただきましたわ。では、この【話し合い】の空間を解除させていただきますわ」
吉祥はそう宣言すると同時に会談の場に集まっていた皆を包んでいた桃色に光り輝く円筒が解除されていく。
「しっかし、なんであんな気色の悪い空間で【話し合い】をしなければならないのだクマー?あの空間を設定した大神は頭の中まで桃色に染まっているのか?クマー」
あ、やっぱり、隆信さんもアレは嫌だったのねと想う吉祥である。
「まあ、薄暗くて、気分が落ち込みそうな色の空間に閉じ込められるよりはマシじゃない鳴りか?わざと桃色にすることで、皆の戦闘意識を和らげる効果があるかも知れない鳴り」
「道雪ちゃん、それは考えすぎのような気もするのでごわす。まあ、無事、【円満解決】できたから、あの桃色の空間にはこれ以上、文句は言わないのでごわす。さて、おいどんが1番遠いから、先に一旦、薩摩に帰らせてもらうでごわす」
「よっしー。気をつけてな?俺と吉祥はここに残るから。なあ?吉祥」
「ん?なんでなのかしら?僕たちはよっしーさんの連れなんだから、よっしーさんと一度、薩摩のほうに戻ったほうが良い気がするのだけれど?」
「そんなこと言っていいのか?また、島津の強行軍につきあわされることになるんだぞ?吉祥は、1週間でへばってたじゃないか」
「それもそうね。女性の足では、薩摩に行って戻ってなんかしてたら、今度こそ倒れて寝込むことになりそうだわ。万福丸にしては気が利くはね?」
「まあ、吉祥をおぶれるのは嬉しいけど、吉祥がしんどい想いをするのは、俺は嫌だからな。吉祥は強がりだから、限界ギリギリまで、自分の足で歩こうとするし」
「それもそうね。なら、どうしようかしら?博多の地で日銭稼ぎの仕事でも探しながら、4週間後まで待つ?」
「うーーーん。そうだなあ。それが妥当だろうなあ。なあ、道雪さん。俺と吉祥ができそうな仕事って、博多の地にあるかな?俺は力仕事が専門で、吉祥は、写本とか傘張りとか、造花とかさ?」
「うん?そんな心配する必要は無い鳴りよ?よっしーの戦友ならば、我輩の戦友でもある鳴り。それなら、客人として、我輩の居城・立花山城に寝泊まりしてもらって良い鳴りよ?」
「その申し出はありがたいのですわ。だけど、ただめし喰らいは気がひけるわね?やはり、お断りさせてもらうわ。万福丸共々、城下町の長屋でも、貸して欲しいのですわ?万福丸はその城下町で仕事を見つけて、働いてね?」
「おう、わかったぜ。俺は吉祥との結婚資金を稼がないとダメだからな!」
「いやいや。そんなことを客人にさせては、立花家の名折れ鳴りよ。万福丸共々も一緒にゆっくり過ごしてくれれば良い鳴りよ?」
「それは有りがたい話だけど、寝泊まりする場所だけもらえれば、俺はそれで充分だから。吉祥は俺が働いて喰わせていくって決めてんだ。いくら客人として招かれたとしても、それは譲れないところだぜ!」
「はーははっ!道雪ちゃん。ぷっくーは自分の女のために汗水かいて、金を稼いでくると言っているのでごわす。無理強いしては逆に男としての誇りに傷をつけてしまうのでごわすよ?」
「そう鳴りか。まあ、そう鳴りよね。わかったのだ鳴り。力仕事へのあっせんは任せてほしいの鳴り。割りの良い仕事にあてがってもらえるよう口利きをしておく鳴り。それと、吉祥ちゃんのほうは、城の屋敷で、花嫁修業をしてもらうことにする鳴りよ」
「ああ。道雪さん。ありがとうな。まあ、吉祥は炊事・洗濯は大丈夫だけど、花とか茶の道には疎いからさあ。そっちの方の面倒を見てほしいかなあ?」
「うるさいのですわ。僕が花とか茶の道に詳しくなってどうするの。でも、興味はあるのよね。うーーーん。この際だから、道雪さんから教わろうかしら?」