ー神有の章58- 草薙剣バージョン2
「お、お腹の感触がないのでしゅ。まるでえぐられたような痛みなのでしゅ」
「なあ?俺が殴っといてなんだけど、お腹の感触がないのに、えぐられたような痛みって何なの?吉祥」
「そんなの僕に聞かれてもわからないわよ。それよりも、宗麟さん、さっさと席に座って?【議論】が進まないでしょ?」
「わ、わかったのでしゅ。ここでごねたら、もう一発喰らいそうなのでしゅ。それで、どこまで話したのでしゅたか?あまりの腹の痛みに記憶がすっとんだのでしゅ」
「邇邇芸さまが怪しいといったところなので、ここはひとつ、こちらが罠をしかけてみないかと言うことでごわす。だが、問題は草薙剣も、八咫鏡も回収不可能に近いと言ったところでごわす」
よっしーがそう大友宗麟に説明する。
「まあ、そうでしゅね。八咫鏡は、はっきりとした所在がわからぬ以上、まだ、壇ノ浦に沈んでいる草薙剣を探したほうがマシでしゅ。でも、どうやって海底にしずんだモノを探すのでしゅ?」
「そこが問題鳴りな。身体能力の向上を行っても、水中で活動できるのは10分くらいが精々鳴り。まあ、溺れたからと言って、死ぬ身ではない鳴りが、しばらく活動不可能になるの鳴り」
「その間に鮫に喰われたらどうなるのでしゅ?道雪?」
「まあ、喰われはしない鳴り。その代り、甘噛みされながら、浜まで運んでもらえる鳴り。実際に去年、海水浴をした時に試したから間違いない鳴り」
「道雪ちゃん。相変わらずやってることがむちゃくちゃなのだクマー。しかし、死なぬとなれば、皆でマウストーマウスで息を相手に吹きこんだらいいんじゃないのクマー?」
「あの?隆信ちゃん?この面々の顔ぶれを見てから、それを言ってほしいので候。絵面が最悪で候。なぜ、おっさんたちが好き好んでマウストーマウスで息継ぎしなければならないので候?」
鍋島がじと目で隆信を睨むのであった。
「うーん。良い案だと想ったが、ダメだったかクマー。なら、最初に考えていた案を試すか?クマー」
「隆信ちゃん。一体、どんな案なのでごわす?おいどんたちにも手伝えることがあるのでごわす?」
よっしーがそう隆信に問う。問われた側の隆信は、ふむっと息をつき
「俺様と鍋ちゃんの神力は特殊なのだクマー。俺様の神力は物体や神力を吸い込むことができるのだクマー。その吸い込んだ分を鍋ちゃんが吐き出すことができるのだクマー」
「それで、壇ノ浦の海の水を隆信ちゃんが吸い込んで、我が阿蘇山の河口にその海の水を吐きだして、海を涸らそうと考えているので候」
「ちょっと、何、馬鹿なことを言っているのごわす!そんなことして、阿蘇山が噴火したらどうするのでごわす!阿蘇山が大爆発をすれば困るのは、島津家だけじゃなくて、大友家、龍造寺家も同じでごわすよ!?」
「やっぱりダメだったかクマー。良い案だと想っていただけに残念なのだクマー」
「あのう?言ってはあれなのだけれど、壇ノ浦の水を全部吸い上げるってことは、この世界の海の水を全て吸い上げないとダメなのよ?」
吉祥がそう隆信に言うのである。
「えええ?吉祥ちゃん、それは本当なのかクマー?日本海が干上がるくらいで収まると想っていたのだクマー!」
「ええ、残念ながら、この世界の海は西は、よーろっぱと言われているところまで繋がっているわ。だから、残念ながら阿蘇山の火口に吐き出しても、阿蘇山だけではとてもじゃないけれど、器としては足りなわいわ?」
「そうなのかクマー。結局、草薙剣を手に入れることは不可能だと言うことかクマー。それなら、こんな戦を起こしたこと自体が無駄になってしまったのだクマー。宗麟ちゃん、道雪ちゃん、大変すまないことをしてしまったのだクマー」
「別に良いのでしゅよ。神は言われたのでしゅ。あなたの左頬をぶたれたのなら、相手の右頬をぶち抜きなさいとでしゅ。そう言うわけなので、【見届け神】の万福丸くん。隆信くんに腹パンをお願いするのでしゅ」
「って、宗麟さんが言っているけど、こういう場合は【罰】を与えていいのか?吉祥?」
「うーーーん。難しいところよねえ。それは【議論】が終わったあとに隆信さんを腹パンしましょうか。僕たちはあくまでも【議論】の仲裁役だからね?」
「そっか。宗麟さん。すまねえ。【議論】が終わったあとに、隆信さんに腹パンしておくからな?だから、今は我慢してほしい」
「そうでしゅか。それなら仕方ないでしゅ。でも、どうしたら良いんでしゅかね?邇邇芸さまに問い合わせたところでシラを切られるのはわかりきっていることでしゅし」
「僕にひとつ良い案があるのだけれど、発言を許可してもらえるかしら?」
吉祥がそう皆に言いだすのであった。
「ん?なんでごわす?きっちゃん。良い案とは?きっちゃんには海の中で自由自在に動けるのでごわすか?」
「いいえ?そう言ったことではないのだけれど、天照さまの所持している草薙剣は言っては悪いけど、オリジナルではないわ?でも、その草薙剣バージョン2は太陽を伊弉冉から取り戻すほどの神力を発揮したと言われているのよ。だから、天照さまからお借りしたらどうかしら?と想ったわけなのよ」
「なるほどなのでごわす。バージョン2と言えども、神器には変わらないのでごわす。早速、天照さまに事情を話して、借り受けるのでごわす!」
「でも、嫌だと言い出したらどうする鳴り?草薙剣は帝が帝たる証なの鳴りよ?そんな気軽に貸してもらえるとは思えない鳴り」
「うーーーん。でも、邇邇芸さまは天照さまの孫である以上、天照さまも邇邇芸さまの動向には注視せざるおえないはずだわ?事情を説明すれば、もしかするとだし、可能性がある以上は試してみる価値は想うのよ?」
「なるほど鳴り。なら、ダメ元で天照さまに書状を送ってみる鳴り。とりあえず、戦は終わりで良い鳴りよね?」
「そうクマーね。では、兵を一旦、退かせてもらうのだクマー。損害はそれぞれ出ている以上は、痛み分けと言うことで、良いクマーね?」
「隆信ちゃん。それはさすがに虫が良すぎると想わないのか?鳴り。こちらとしては理由もなく殴られたようなもの鳴りよ?」
「そんなこと言われても、こちらとしても、使者が行方不明になっているだクマー。それは充分な戦の大義になるのだクマー」
「まあまあ、落ち着くでごわす。互いに行き違いはあったでごわすが、こうして、また3勢力が手を取り合う運びになったのでごわす。それが、1番の報酬になるはずでごわす」
「それもそう鳴りね。ここでこうやって、いがみ合うことこそ、邇邇芸さまの思惑に乗ることになりかねない鳴り。隆信ちゃん。ここは痛み分けと言うことで終わっておこう鳴り」
「ありがたい話だクマー。まあ、肥前の特産品でも良ければ、今度、会合を開く時にもってくるのだクマー」