ー神有の章57- それぞれの大神
万福丸の言っていることもなかなかに良い考えね。でも、所在が大体、判明している草薙剣と言えども、壇ノ浦の海の底なのよね。どう考えても、回収は不可能だし。あら?でも、よっしーさんなら可能なのかしら?
「ねえ。よっしーさん。闇淤加美の神力を使えば、海の底に潜れたりしないのかしら?」
「ん?きっちゃん?それは無理でごわす。闇淤加美は渓流の大神なのでごわす。要は川の水は自由自在に操れても、海の水は無理でごわす」
「そうなのね。じゃあ、海に関するイニシエの大神の神力を借りないと、草薙剣の回収は無理ってことになるわね。あれ?そうなると、隆信さんたちはどうやって、草薙剣を手に入れようとしていたわけなの?」
そう吉祥が龍造寺隆信に質問するのである。隆信と鍋島はそれぞれに腕組をし
「そこを聞かれると応えに詰まってしまうのだクマー。俺様と鍋ちゃんが力を合わせれば、もしかしたら可能かも知れないということで、とりあえず、博多の地を手に入れようとしてみたのだクマー」
「ん?隆信ちゃんと鍋ちゃんは海の水を操れるイニシエの大神と合一を果たしたのでごわすか?」
「いや、そうではないのだクマー。まあ、話してしまっても構わないだクマー?鍋ちゃん」
「まあ、いいではないのかで候。どちらしにろ、自分たちでダメなら、宗麟ちゃん、道雪ちゃん、よっしーちゃんに神力を借りる予定だったので候」
「そうかクマー。なら、俺様たちと合一を果たした大神の名を教えるんだクマー。そのかわり、皆が合一を果たした大神の名を教えてほしいんだクマー」
隆信がそう皆に願い出る。皆はそれに了承し、隆信は話を続ける。
「まず、俺様は金剛力士・阿形と合一を果たしたのだクマー。そして、鍋ちゃんは金剛力士・吽形とだクマー」
「仁王門の大神とは、まさに2人にぴったり鳴りな」
「んっ?どういうこと?道雪さん。隆信さんと鍋島さんが仁王門と関係が深いのか?」
そう道雪に問うのは万福丸である。
「ああ。2人は龍造寺家の仁王門と呼ばれているのだ鳴り。こいつらはひとりひとりはたいしたことは無い鳴りが、2人セットになると手ごわくなるの鳴り。それで昔、大友家が痛い眼を見せられたのだ鳴り。沖田での戦、大友家にとっては悪夢を視ていた気分だった鳴り」
「まあ、勝利が決まる前に酒宴を開いていたほうが悪いんだクマー。しかし、あれはこちらもギリギリの戦いだったのクマー。追い返せたと言っても、攻め込むほどの力はこちらにはなかったんだクマー」
「まったく、あの時は隆信ちゃんがぐずっていたから、対処に困ったので候。隆信ちゃんの母上さまが、隆信ちゃんの尻をひっぱ叩かなかったら、どうなっていたやらで候」
「な、鍋ちゃん!それは言ってはいけないのだクマー!」
「はーははっ!隆信ちゃんの母上は恐ろしいとは噂で聞いたことがある鳴りが、そこまでとは想わなかった鳴り。これは愉快な話を聞けたの鳴り!」
「う、うるさいのだクマー。ところで、道雪ちゃんと宗麟ちゃんはなんの大神と合一を果たしたのだクマー?」
「ふむ。我輩は、建御雷と合一を果たした鳴り。だから、この語尾はその大神のせいなんだ鳴り」
「はははっ!雷に打たれたことがあるからと言って、まさか、建御雷とか。どうせなら、雷神様と名高い、菅原道真さまと合一を果たせば良かったんだクマー!」
「どうも、道真さまは他の誰かと合一をすでに果たしているようなのだ鳴り。太宰府天満宮からは道真さまの神気を感じられないのだ鳴り」
「それも不思議な話で候。土地柄的にも道真さまと道雪ちゃんは合一を果たせそうな気がするので候」
「なあ、吉祥。菅原道真って、九州送りにされた後、京の都で雷を落としまくった大神であってたっけ?」
「ええ、そうね。万福丸。その落雷で、菅原道真さまと敵対していた藤原なんとかさんの娘さんが死んだそうよ?それで、帝や朝廷が慌てて、道真さまを大神として奉ったって話なのよね。でも、不思議だわ。九州の地と縁が深い道真さまが道雪さんを選ばずに、他のひとと合一を果たしたかも知れないって話なのよね。一体、誰となのかしら?」
「そこはわからない鳴り。ただひとつわかっていることは、太宰府天満宮に道真さまの神気を感じなくなってしまったと言うこと鳴り」
「それで、道雪ちゃんは建御雷と合一を果たしたと言うことは、雷を自在に操られるんだクマー?」
「ああ、色々とは出来るようにはなってきたのだが、氷は使いこなせない鳴りなのよね。建御雷の話では、氷も操ることが出来るとは聞いているのだが、如何せん。神蝕率を90パーセントまであげてみろと言っている鳴り」
「それは厄介なことを言いだす大神だクマー。きっと、肉体を乗っ取る気満々くさいクマー。気を付けておくんだクマー?」
「わかっている鳴りよ。あと、宗麟さまはラファエルとか言う、西洋の天使と合一を果たしたようなのだ鳴り」
「ラファエル?なんだそれはで候。しかも天使は大神ではないで候。なんで、そんな神の使いっぱしりとなんかと合一を果たせるので候?」
「鍋島くん、失礼なことを言うなでしゅ!これでも、デウスの教えでは四大天使のひとりなのでしゅ!四大天使とはミカエル、ウリエル、ガブリエル、ラファエルのことを指すのでしゅ!その四大天使のひとり、ラファエルと僕ちんは合一を果たしたのでしゅ!」
「ああ、わかった、わかったで候。そんなにいきりたつなで候。熱くなっていると【見届け神】から【罰】を受けるので候よ?」
「おっ?久しぶりの俺の出番か?いやあ。なんか、満月が近いのか、身体から神力があふれ出てきちゃってさあ?よっし、宗麟さん。腹をこっちに向けてくれ。俺がきついのを一発入れてやるからな?」
「あれは放っておいていいのか?クマー。宗麟ちゃんが喰らったら、下手したら、存在を【否定】されてしまうんじゃないのか?クマー」
「宗麟さんはラファエルの神力で身体の傷を癒せるみたいなの。だから、少しくらい、お腹の肉が削れても、きっと再生可能だと想うわ?」
「なら、安心だクマー。万福丸ちゃん。一発、どぎついのを入れてやれだクマー。道雪ちゃんも日頃、苦労しているから、止めはしないのだクマー」
「すまないな。宗麟さん。俺、【見届け神】だから、しっかり仕事をこなさないとダメなんだ。恨むなら、俺を【見届け神】に選んだ自分の選択を恨んでくれよ?」