ー神有の章56- 仕掛けられた罠
よっしーさんがお腹を手で押さえて、ごろごろ転がっているわね。これは身体能力の向上のみで防ぐとか無茶なことを言わなかったほうが良かったかしら?まあ、【罰】を与えるのは【見届け神】の役目である以上、しかたないわ。と想う吉祥である。
「さて、【議論】に戻るのだクマー。よっしーちゃん、いつまでも寝っころがっているなクマー」
「た、隆信ちゃんはこの痛さをわからないから呑気なことを言えるのでごわす。隆信ちゃんも受けてみればわかるのでごわす」
「嫌だクマー。そんなの喰らいたくないのだクマー。で、草薙剣は、壇ノ浦に沈んだことは誰しもが知っていることだクマー。しかし、八咫鏡は、阿蘇山にあるのクマー?」
「おいどん、そんな話を聞いたことがないのでごわす。しかし、阿蘇山は古来より、山の神が住んでいると言われているのでごわす。だから、絶対にないとも断言もできないのでごわす」
「しかし、おかしいでしゅよ?阿蘇山は薩摩、大隈、それに日向の3か国をまたがる山でしゅよ?そこで発掘作業をしようとしたら、大友家と言えども、島津家と一触即発になるのでしゅ」
大友宗麟がそう疑問を呈すのである。
「それを言い出したら、博多の地も大友家の所有地なの鳴り。そんな地の近くにあると言われている草薙剣を、何故、龍造寺家に頼むのだ鳴り?まるで、邇邇芸さまは我輩たちを相争わせるように仕組んだのではないのかとさえ、想えてくる鳴り」
道雪もまた首をかしげて、そう言うのである。
「何かがおかしいので候。そもそも、邇邇芸さまは4年前の3勢力会談では、この九州の地に、自らを超える神力を持ったモノが現れるから、力を合わせろと言ってきたので候。だが、雉の鳴女の言うことに従えば、協力どころか仲たがいにしかならないので候」
鍋島直茂もまた、邇邇芸に対して疑問を口にする。
「これは何か裏があると考えて間違いなさそうなのですわ。邇邇芸さまには三種の神器を手に入れることと同時に、九州の三勢力に協力してほしくない事情があると考えたほうが自然なのですわ」
「まさか、邇邇芸さまに二心ありと言いたいのでごわすか?きっちゃんは!いくら【見届け神】と言えども、看過できない発言でごわす!」
よっしーがそう吉祥に対して、抗議するのである。
「まあ、落ち着け、よっしー。【見届け神】の言いは正しい推測であると、我輩も想うの鳴り。そうでなければ、こんな、協力しなければならない我輩らが、相食むようなことにはならない鳴り。もしかすると、よっしーに何も伝えられていないのは、よっしーを利用するためとも考えられる鳴り」
「ど、どういうことでごわす?道雪ちゃん?おいどんが何も知らないのはわざとだと言いたいのでごわすか?」
「そう考えた方が話としては筋が通る鳴り。こう怪しげな動きをされれば、使者の件も、もしかすると邇邇芸さまが関係しているのではないかと想えてならないの鳴り」
「まあ、そう考えるのが妥当だクマー。これはもう、邇邇芸さまが裏で糸を引いていると考えた方が良さそうなんだクマー。邇邇芸さまが九州の安寧をと言ってはいたが、その実、邇邇芸さまが、九州にとっての害になろうとしているのかも知れないのだクマー」
「【納得】がいかないのでごわす!なぜ、邇邇芸さまがそんなことをしなければならないのでごわす!使者の件も、おいどんに【お告げ】がなかったことも、ただの偶然なのでごわす!そんなの邪推なのでごわす」
「よっしーさん。落ち着いて聞いてほしいの?」
吉祥が諭すようなやや冷たい口調でよっしーに声を届ける。
「そもそも、よっしーさんが何も知らされてないと言うことが、この【議論】自体を【ご破算】させるのにうってつけなわけなのよ。何も知らされてない、よっしーさんの存在は【話しあい】において【納得】できない存在となりうるわけよ」
「ま、まさか、おいどんは邇邇芸さまに【話し合い】の妨害のために利用されていると言いたいのでごわすか?きっちゃん!」
「ええ、そうよ。【話し合い】が【ご破算】になれば、それに参加していたモノ全員が【罰】を受けるわ?最初は、それを企んでいるのは、僕は隆信さん側だと考えていたのよ。でも、隆信さんたちからはそんな雰囲気はまったく感じられないわ。むしろ、皆に協力をしてほしいと望んでいる。そうよね?隆信さん、鍋島さん」
「うむ。吉祥ちゃんの言う通りだクマー。最初に言ったとおり、使者が行方不明になったり、島津家に目通りさせてもらえなかったことを言ったんだクマー。だから、強硬手段であるが、博多の地へとやってきて、大友家と1戦、構えることになったんだクマー」
「それと補足ですが、あくまでも龍造寺側としては、大友家に出した使者が亡き者にされたゆえでの報復を大義として、此度の戦を行っているので候。使者を亡き者にされて、はいそうですかと黙っていてはいけないのは、皆さん、ご存知なはずで候」
「そう鳴りな。使者を斬ること、すなわち、絶交を意味する鳴り。そんなの許しておけるわけが無い鳴り。でも、その使者が行方不明になったことは、大友家としては預かり知らぬことで鳴り。だから、これに関しては龍造寺家側に譲歩することなど、何もない鳴り」
「道雪ちゃん。それで良いのだクマー。だが、これで、三勢力が仲良く手を結ぶことを好まない奴が居ることは明白なのだクマー。そして、【話し合い】を潰すために、よっしーちゃんに何も伝わってないことが、さらにその証となるのだクマー!」
「くっ!おいどんは、利用されていたのでごわすかっ!一体、何故、このような手の込んだことをしたのだでごわす!」
「邇邇芸さまに直接、聞いてみたらいいんじゃないでしゅ?なんで、こんなことをしたんでしゅかって。そしたら、全てがわかるんじゃないでしゅか?」
「いやいや。宗麟ちゃん。何を言っているんだクマー。全ての黒幕かも知れない邇邇芸さまがわざわざ、自分が犯人だと言ってくるわけがないんだクマー」
「隆信ちゃんの言う通りで候。それに、偶然が偶然を呼んだだけと開き直られたら、そこまでで候。何か決定的な証拠を掴む以外、手だてはないので候」
「決定的な証拠かー。うーーーん。草薙剣と八咫鏡でも、邇邇芸さまに渡してみれば良いんじゃねえの?そしたら、はははっ!まんまとひっかかったな小僧!俺は実は、この三種の神器を使ってうんぬんとか勝手に悪事を暴露してくれるんじゃねえの?」
「万福丸?いくらなんでもそこまで間抜けな悪役は物語だけの話だと想うわよ?」
「それもそうかあ。でも、邇邇芸さまを引っ張り出すには、三種の神器は使えそうな気がするんだよなあ。やっぱり大物を釣るには立派な餌ってもんが必要じゃんか?それが草薙剣でも、八咫鏡でも良さそうな気がするぜ?」