ー神有の章55- 邇邇芸(ににぎ)の目的
雉の鳴女。その大神は神代の天孫降臨において、天照さまが天若日子を諭すために高天原から派遣した大神だったはずよね?と想う吉祥である。
「どういうこと?雉の鳴女は天照さまの伝言役でもあるわ?草薙剣に関して、天照さまが1枚噛んでいるってことなの?隆信さん」
「いや、吉祥ちゃん。その雉の鳴女は邇邇芸さまからの言葉を伝えにきているのだと夢の中で言っていたのだクマー」
えっ?どういうことなの?天照さまじゃなくて、邇邇芸さまが関わっているっていうことなの?何故なの?邇邇芸さまが草薙剣を欲しているの?うーーーん、わからないわ。何かひっかかるものを感じるが、そのひっかかりを解明するためのピースが全然足りていない気がするわ?と疑問に想う吉祥である。
「ごめん。【議論】を続けて?隆信さん。あまり僕から質問攻めにするのはおかしい話だわ」
「構わないのだクマー。疑問に想うことがあれば【見届け神】と言えども、俺様たちに聞いてほしいのだクマー。もしかすると、俺様たちにはわかってない何かを導き出すきっかけになるかもしれないのだクマー」
「そう鳴りね。雉の鳴女というその鳥人間?と言っては失礼鳴りな。雉の大神が伝言役となり、隆信ちゃん、鍋島ちゃん。それに我輩と宗麟さまの夢の中で【お告げ】をしたの鳴りな。そして、何故か、よっしーにはその【お告げ】がなかったのだ鳴り」
「不思議なのでごわす。なぜ、おいどんだけ、仲間はずれなのでごわす。何かこう、言い知れぬ、何かがううん?」
よっしーが不思議がっているところに万福丸が口を開く。
「なあ、よっしー。それに皆。三種の神器って言う以上は、三種類あるんだよな?えっと、草薙剣と八咫鏡と、あとなんだっけ?」
「ぷっくー。もうひとつ、【八尺瓊勾玉】なのでごわすよ」
「ああ、それそれ。よっしー、ありがと。んで、よっしーが【お告げ】を受け取らなかったのは、【八尺瓊勾玉】を探す必要がなかったからじゃねえの?その雉の鳴女だっけ?そいつは【八尺瓊勾玉】は既に手に入れていると想ったほうが良いんじゃないのか?」
「ちょっと、万福丸、何を言っているのよ。大体、八咫鏡と八尺瓊勾玉は、天照さまが持っているはずなのよ?三種の神器は帝がその神代からの血筋の正統性を示すものなの。どこかに失くしましたじゃ、済まない話よ?」
「うーーーん。でも、道雪さんと宗麟さんには、そのはずなのに八咫鏡を探せって、雉の鳴女が【お告げ】で言ってきたんだろ?そこがそもそもおかしいって気がするんだよ」
万福丸はそう吉祥に告げる。吉祥としては万福丸が意見を通そうとするのに、少し、驚きを感じつつも、話が推測の域を出ないものであるので懐疑的なのであった。だが、それでも、万福丸は、話を続ける。
「隆信さんがさっき言ってたけど、三種の神器は、最初は伊弉諾さまと伊弉冉が持っていたんだろ?それを、天照さまが受け取ったと。んで、さらに邇邇芸さまが天照さまから譲ってもらったんだろ?じゃあ、邇邇芸さまにはその三種の神器を所持して良いってことになるじゃん?」
「うーーーん。万福丸?結局、何が言いたいわけ?」
「だからさあ。天照さまが今、三種の神器を持っているんだろ?でも、邇邇芸さまも、三種の神器を持っていいって資格はあるはずじゃん?なら、邇邇芸さまはその三種の神器を欲しがるんじゃないのかな?って」
万福丸の言いに皆が、欠けていたピースがかちりとハマるのを感じる。
「そうなのだクマー!万福丸ちゃん、その通りだクマー!邇邇芸さまは理由は定かではないが、三種の神器を手に入れようとしているのだクマー!」
「そうであったのか候!万福丸ちゃん、お手柄で候。邇邇芸さまが雉の鳴女を遣わせたのは、まさにそれが目的だったので候!しかし、三種の神器を手に入れて、何をするので候?」
「鍋ちゃん。その理由はわからぬが、我輩らに八咫鏡を探せと【お告げ】をしたのもちゃんと理由があったの鳴りな。では、まさか本当に八咫鏡は阿蘇山に眠っていることになる鳴りか?」
「ちょっと、隆信ちゃん、鍋ちゃん、それに道雪ちゃん。落ち着くのでごわす。いくらなんでも話が飛躍しすぎなのでごわす!」
「吉祥。皆が落ち着くために、隆信さんと鍋島さんと道雪さんに腹パンしておこうか?」
「いいえ?万福丸。その必要はないわ?これは良い意味での【議論】の過熱よ。これは放って置くほうが良い結果を生みそうだわ?あと、万福丸、ありがとうね?あなたのおかげで、謎が解けそうよ?」
「えっ?マジで?俺、よくわからないけど、皆の役に立てたってことで良いのか?」
吉祥はニコニコしながら、万福丸の頭をよしよしと撫でる。万福丸はえへへと言いながら、後頭部を右手でかくのである。
「おいどん、あそこでいちゃついてる【見届け神】たちにイラっとしたのでごわすけど、これを言ったら、腹パンを喰らうでごわすかな?」
「やめておいたほうがいいのでしゅ。いらぬツッコミを入れれば、腹パンを喰らうのは僕ちんたちでしゅ。見ないフリをするのでしゅ」
「よっしー、宗麟さま。あの2人は容赦ない鳴り。まあ、若い男女鳴り。あれくらい眼をつむってやる鳴り」
「まあ、イラッとするのは嫁が居ない、よっしーちゃんだけクマー。ああ、俺様もあれくらい可愛い嫁がほしかったクマー。俺様は母上に無理やり縁組をさせられてしまったんだクマー」
「隆信ちゃん、母上にそれを言ったら、ぶん殴られるで候。我も無理やり、隆信ちゃんの母上に縁組をさせられたので候。でも、顔は普通だとしても、家事全般を任せられる良い嫁であるのはありがたいのは事実なので候」
「んっ?何か、僕のことを話しているのかしら?こそこそ耳打ちしているのはやましい気持ちがあるからなのかしら?」
「いやいや。吉祥ちゃんは器量良しだと皆で話あっていたので候!しかし、【見届け神】をよいしょするのは公平さから言えば、ダメなはずだから、こそこそ耳打ちしていたので候!なあ?みんな!?」
「そ、そうでしゅ。誰も悪口を言っていたわけではないのでしゅ。よっしーがあいつら、いちゃつきやがって!ってキレかけていただけでしゅ!それを、皆でなだめていただけでしゅ!」
「あら、そうなの。万福丸?よっしーさんに一発、腹パンをお願いね?」
「よっしゃーーー!久しぶりの出番だぜ!よっしー、すまねえ。これも【見届け神】の仕事なんだ。恨まないでくれよ?」