ー神有の章54- 【お告げ】
大友宗麟のつぶやきにも似た疑問に、【議論】をかわす皆が首をかしげるのであった。
「まあ、わからないことを【議論】してもしょうがない鳴り。それよりも何故、博多の地を欲しがったの鳴り?そこが一番の焦点鳴り」
「道雪ちゃん。まあまあ、慌てるなクマー。それよりもこちらからも質問させてもらうのでクマー。お前たちはあの3勢力会談の後に【お告げ】を聞いたか?クマー」
吉祥は聞きなれない言葉を耳にし、眉根をぴくりと動かすのである。
「隆信ちゃん、どういう意味でごわす?【お告げ】とは何のことを指しているのでごわす?」
「うーーーん?よっしーちゃんの所は【お告げ】がなかったのか?クマー。俺様と鍋島は夢の中で【お告げ】を聞いたのだクマー。博多の地の近くに眠る【神器】を手に入れろとクマー」
「んんん?本当に何をいっているのでごわす?そんな【お告げ】、一切、なかったでごわすよ?」
「ちょっと、待つ鳴り。まさか、あの夢が【お告げ】だったの鳴りか?それなら、我輩と宗麟さまが同じ夢を見た鳴り。でも、我輩たちは違う【お告げ】だったの鳴り」
「そうでしゅね。僕ちんたちは阿蘇山に眠る【神器】を手に入れろと夢の中で言われたんだでしゅ。何、言ってんだこいつと想ったものでしゅよ?」
道雪と宗麟がそう隆信に告げる。だが、よっしーは慌てた様子で
「ちょっ、ちょっと待つでごわす!なんで、おいどんだけ【お告げ】を聞いていないのでごわす?おかしくないでごわす?」
「まあ、よっしーのことだから、酒を飲みすぎて泥酔でもしてたんじゃない鳴りか?だから、酒はほどほどにしとけとあれほど言っていた鳴りよ?」
「ううん?ううーーーん?おいどん、闇淤加美と合一を果たした身であるから、体内の水を自由に操れるのでごわす。だから、泥酔なぞ、ほとんどしなくなったのでごわすよ?道雪ちゃん」
「よっしーさんがうわばみなのは、【見届け神】たる僕が保障するわ?よっしーさんは一晩中、お酒を飲んでいても、泥酔まではいかないことは、この眼で確認しているもの。本当、酒の無駄遣いだと想ってしまうわ。あの飲みっぷりは」
「そうだよなあ。俺、よっしーと飲み比べしても、ほっとんど、俺が先に飲み潰されていたもんなあ。よっしーが泥酔するなんて、想えないよなあ?」
「この2柱の言う通りでごわす。大体、【お告げ】がなんだと言うのでごわす?【神器】を手に入れろ?どういうことでごわす?」
「よっしー、落ち着く鳴りよ。何かの手違いで、よっしーに【お告げ】が届かなかっただけかも知れない鳴り。もしかしたら、間違えて、他のモノが代わりに【お告げ】を聞いたかも知れない鳴りよ?」
「そ、そうでごわすか。ううむ。しかし、龍造寺家からの使者といい、【お告げ】の件といい、おいどんだけハブにされている感じがするのでごわす」
よっしーがそうぶつぶつと文句を垂れるのである。だが、吉祥にも何か引っかかるモノを感じるのであった。何故、よっしーさんだけ知らされてないことが多いのかしら?もしかしたら、何モノかの意思?でも、そんなことが起きえるのかしら?ただの偶然?それとも必然なのかしら?
「まあ、【お告げ】を聞いてないのなら仕方ないのだクマー。道雪ちゃん、宗麟ちゃん。【お告げ】ではどんな話を聞いたんだクマー?あと、その【お告げ】をもたらしたモノはどんな姿形をしていたのだクマー?」
「うむ。我輩に【お告げ】をもたらしたモノは鳥のような羽を両腕に、いや、その腕そのものが鳥の羽だったの鳴り。そのモノが、【神器】である【八咫鏡】を阿蘇山で手に入れろと言ってきた鳴り」
「僕ちんも道雪と同じ内容と同じ姿だったでしゅ。だから、これはただの夢ではないのではないかと、想っていたのでしゅ」
「なるほどだクマー。俺様と鍋島の夢でもお前たちと同じ姿形のモノが【お告げ】を伝えにきたのだクマー。だが、内容は違うのだクマー。博多の地の先、壇ノ浦に沈んだ【神器】。そう、あの【草薙剣】を手に入れろと伝えてきたのだクマー」
「ちょっと、待ってよ。三種の神器である【草薙剣】と【八咫鏡】のことを、あなたたちは言っているの?どういうことなの?」
「あれ?【見届け神】って【議論】に混ざっていいのか?吉祥?」
万福丸がそう吉祥に疑問を投げかけるのである。
「別に、進行の邪魔をするとか、ある方向に誘導しようとしない限りは大丈夫よ?あと、一方の話を無理やり遮断するようなのもダメね。あくまでも公平さを求められるのが【見届け神】だけど【話し合い】に一切、関わるなと言うことではないわけよ。より、【話し合い】がスムーズに明瞭にするために質問や、助言をすることは良いのよ?」
「そっか。じゃあ。俺は話がよくわからないから、吉祥、司会進行を頼んだ。俺の力が必要になったら、いつでも言ってくれよ?」
信用してくれるのは嬉しいのだけれど、万福丸自身も少しは会話の内容を理解しようと努力はしてほしいのよね?と想う、吉祥である。まあ、それは置いておいてだ。三種の神器のうち、2つまでもがこの九州の地にあるのだ。まあ、正確に言えば、草薙剣は、壇ノ浦なのだが。
「【見届け神】いや、吉祥ちゃん、その通りだクマー。かつては伊弉諾さまと伊弉冉さまが所持し、天照さまが引き継ぎ、さらには邇邇芸さまがその天照さまから受け渡されたと言われている、あの三種の神器のことだクマー」
「でも、草薙剣はともかくとして、時の帝は【八尺瓊勾玉】と【八咫鏡】を所持しているはずよね?その時の帝は、神蝕率が100パーセントに達して、天照さまが受肉を果たしたのよ?その天照さまが所持しているはずよ?」
「そう鳴り。だから、【八咫鏡】を手に入れろなどと言う【お告げ】を無視したのだ鳴り。何故に、時の帝、いや、今は天照さまが、所持しているはずのモノをさがさねばならぬのだ鳴り」
「道雪の言う通りでしゅ。だから、狐か狸に化かされたと想って、それ以降、【お告げ】のことなんか忘れ去っていたのでしゅ」
「まあ、馬鹿な俺でも、時の帝が三種の神器を所持していることなんて知っているもんなあ。なんで、そんなこと、わざわざ、鳥人間?が夢の中で【お告げ】ってやつをしたんだ?吉祥?」
「それがわからないから、隆信さんはまず、お告げを聞いたのかと、皆に聞いたのよ。だって、【草薙剣】も、壇ノ浦に沈んでいるのよ?いくら、大神の力を使ったとしても、手に入れることは困難よ?」
「そうだクマー。だが、【お告げ】は1度だけではなかったのだクマー。2度、3度と【草薙剣】を手に入れろと夢の中で言われたのだクマー。いい加減、安眠の邪魔だから、お前は一体、何モノだと聞いたんだクマー。そしたら、自分は雉の鳴女だと名乗ったのだクマー」