ー神有の章53- 龍造寺家の使者
「そう言うことだった鳴りか。しかし、それなら力攻めせずとも、使者を送れば良かった鳴り」
道雪がふんっと鼻をならし、腕組をする。
「それができたら世話がなかったので候。そもそも、我らは、あの3勢力会談のときに大神と合一を果たし、その力に翻弄され、あなたたちを不本意ながら傷つけてしまったので候」
龍造寺側の鍋島がそう言うと、よっしーは椅子を蹴飛ばし、立ち上がり
「不本意?不本意とはどういことでごわす!あの時、貴様らのせいで、兄者の島津義久は左腕を失くしたのでごわす。それを不本意で片づけるのは許せないのでごわす!」
「よっしーさん、落ち着いてもらえるかしら?万福丸、よっしーさんのお腹に一発入れてちょうだい?」
「よっしゃーーー!出番がないかと心配してたぜ!よっしー、腹に力をいれておけよ?俺の腹パンは痛いぜ?」
よっしーは怒りをまき散らした【罪】で万福丸から腹パンの【罰】を喰らい、げふううう!と言いながら、胃液をまき散らし、地面をごろごろと転がるのである。
「う、うーーーむ。ようしゃないで候、この【見届け神】は。これは神選を誤ったのではないか?で候」
「あら?【見届け神】にケチをつけ始めたわ。万福丸、鍋島さんにも【罰】を与えてね?」
「ちょっとまってくれで候!謝るからやめてくれでぐふううう!」
万福丸の右腕の手甲が銀色に輝きながら、鍋島の腹を穿つ。鍋島は腹を両手で抑えながら、地面に沈むのである。
「ぼ、僕ちんはまだ何も発言していないでしゅ。だから、僕ちんに腹パンはしないでほしいでしゅ」
「あら?大丈夫よ?僕もそこまで傍若無人な【見届け神】を行うわけではないわ?でも、気を付けてね?これはあくまでも【議論】なの。【円満解決】を目指して、冷静に行ってほしいわ?」
「ぐ、ぐふ。熱くなってすまないのでごわす。ところで、不本意と言うのはどういことでごわす?あの時に隆信ちゃんと鍋島ちゃんは、我を忘れていたということでごわすか?」
「げ、げふう。腹がもっていかれたかと想ったので候。意識は確かにあったので候。だが、身体は大神に支配されかけたので候。だから、我らにはどうしようもなかったので候」
「そういうことだクマー。だから、あんなことがあった以上、大友家と島津家には謝ろうと使者を何度か送ったのでクマー。だけど、大友家に贈った使者は戻ってこなかったのだクマー。だから、俺様たちは強硬手段に出たのだクマー」
「使者?使者ってなんでしゅ?道雪、僕ちんに隠していることがないでしゅか?」
宗麟が不可思議な顔つきで道雪のほうを見る。道雪は腕組をし、首をかしげるのである。
「いや?隆信ちゃんが言っている使者など、あの3勢力会談以降では、来たと言う話は部下からは聞いていないで鳴りよ?本当に、うちに使者を送ったので鳴り?」
「本当クマー。しかし、使者を亡き者にされれば、どうなるかは明白なのだクマー。だから、俺様たちは大友家を襲撃したと言って良かったんだクマー」
「んんん?おいどんのところにも、龍造寺家から使者はきてないでごわすよ?2勢力ともに使者が来ないのはおかしな話なのではないでごわす?」
よっしーの疑問に応えるべく、鍋島が口を開く。
「島津家へ送った使者は国境付近で追い返されたので候。頑なに龍造寺家と交流を拒まれたので候。あれは、よっしーちゃんの指示ではないのか?で候」
「い、いや。こちらには報告自体、あがってこなかったのでごわす。ううむ。何かの行き違いがあったのでごわすか?いや、そんな、まさかでごわす」
「ん?何か心当たりがあるので候?出来れば詳しく教えてほしいので候」
「いや。龍造寺家と島津家の国境から南は島津家の四男の家久の領地でごわす。だから、龍造寺家からの使者が内城に来るには、そこを通らなければならないでごわす。いや、だが、まさか家久が、おいどんに黙って、使者を追い返したということになるのでごわす?」
「家久ちゃんは頭に血が昇ると、突撃を繰り返す、あいつ鳴りよね?あいつには昔、散々に苦労した鳴り。最近、大人しいと想ったら、そっちのほうに配置換えになったの鳴り?」
「ああ、道雪ちゃん。元々は家久の領地は島津領内の薩摩・北側なのでごわす。だから、ただ地元に戻しただけでごわすよ。しかし、どういうことでごわす?なぜ、家久が勝手に龍造寺家の使者を追い返しているのでごわす?」
「ふむ。何か島津家はごたごたを抱えているみたいで候。まあ、結果的に龍造寺家としては島津家との交流を断念したと言ういきさつがあるので候」
「これはすまないことをしたのでごわす。鍋ちゃん。本国に帰ったら、家久から事情を聞いておくのでごわす。もし、本当に追い返していたのであれば、ケツ罰刀をねじ込んでおくのでごわす」
「万福丸?」
「ん?なんだ?やっぱりケツ罰刀はだめだよな?よっし、俺の出番が再びやってきたぜ!」
「いえ、そうではないわ。落ち着きなさいよ。言われてみれば、内城には、よっしーさん以外の親族がいなかったわねと想っただけよ?万福丸は、よっしーさんの顔に似たようなひとは見かけたかしら?」
「そう言われりゃ、内城には、よっしーと近しい感じの匂いがする人間はいなかったなあ?よっしーって、島津家の嫌われものだったりするのか?」
「ち、ちがうでごわすよ。兄者の義久には、後方でゆっくり傷の養生をしてもらっているのでごわす。薩摩の南の城に居るのでごわす。それと、おいどんの母君や親族たちも、念のために最前線の内城からは遠ざけているだけでごわす。今は兄者と共に同じ城に居るのでごわす」
「ふーーーん。なるほどねえ。だから、誰も内城によっしーさんの近親者が居なかったわけね。ありがとうね。【議論】の邪魔をして、ごめんなさい」
「よっしゃー。【議論】の邪魔をした吉祥の腹にこぶしをいれればって、あれ?俺、吉祥を殴りたくないんだけど?」
「大丈夫よ。これは、邪魔と言うよりは確認だから。言葉のあやよ?気にしないで?」
「なんだ、そうか。ほっとしたぜ。俺、女性を殴りたくないからなあ。あっ、でも、吉祥があの女、むかつくから殴って!って言ったら、俺、遠慮なく殴るからな?安心しろよ?」
どこをどう安心したらいいのかしら?と想う、吉祥である。まあ、万福丸に色目を使ってくる女性がいたら、その時は何か考えたほうが良いのかしら?どちらにしても、よっぽど性悪女じゃない限り、万福丸のほうが悪者にされかねないから、注意しないとだわ?
「僕ちん、よくわからないのでしゅが、龍造寺家の使者が大友家にこなかったり、島津家で追い返されたり、なにか、変じゃないでしゅか?まるで、僕ちんたちを仲たがいさせるためにそんなことが起きたように思えるでしゅよ?」