ー神有の章52- 罰は鉄拳制裁
「じゃあ、【議論】で進めさせてもらうわよ?ひとつ注意させてもらうけど、【議論】は自分の主張が正しいと相手に認めさせることではないから。【議論】に出ている全員が【納得】できるように話を進めてほしいわ」
「ん?吉祥、どういうこと?言っている意味がわからないんだけど?」
吉祥は頭痛がする想いではああとため息をつく。
「良い?万福丸。基本的に【話し合い】と言うのは【円満解決】を行うためのものなわけなのよ。だから、自分の主張を押し通すことは間違いなわけ。相手の意見を聞き、そして自分の意見を言い、それを【円満解決】へと昇華させていくことなのよ。要は意見のすり合わせってことね」
「なるほどなあ。でも、どうしても【話し合い】をしてたら、熱くなっちゃうときってあるじゃん?そう言うときはどうするのさ?」
「そこで万福丸、あなたの出番ってわけ。そうね。熱くなった場合の【罰】は万福丸に一発、ぶん殴られることにしましょうか。それで、頭も冷えるでしょ?」
「おっ。やっと、俺の役目がわかってきたぜ。要は、相手に噛みつくようなことを言うやつは問答無用でぶん殴れってことだな?よっしゃ!今日は、なんだか調子が良いからな!いつもの3倍、痛いのを喰らわせてやるぜ!」
まあ、それもそうねと想う吉祥である。今日は6月13日。満月の日まであと2日である。万福丸は満月の日が近付くと犬神と合一を果たしたせいもあってか、神力が大きく増幅するのよね。でも、同時に理性が働きづらくなるから注意が必要なのよね。はあああ、2日後は注意しておかないといけないわと想う吉祥である。
「皆さん、いいかしら?【罰】に関しては万福丸からきつい一発を受けてもらうわね?それが、例え、よっしーさんと言えども、容赦しないわ?」
「わかったのでごわす。おいどん、冷静になれるように頑張るのでごわす。道雪ちゃん、くれぐれも注意するのでごわす」
「なんで、よっしーに冷静になれと言われないといけない鳴り。熱くなるのはいつも、よっしー鳴り。我輩のせいにするな鳴り!」
「な、なにおおおお!おいどん、いつも冷静なのでごわす!道雪ちゃんは神鳴りばかり落としていて、機嫌が悪そうなのでごわす!神鳴り親父に言われる必要はないのでごわす!」
よっしーと道雪がふぐぐぐ!と唸りながら、にらみ合いを続けるのである。
「万福丸、さっそく、よっしーさんと道雪さんに一発づつお願いね?」
「よっしゃーーー!わかったぜ!俺の愛する女が許可をくれたんだ。俺は遠慮なくいかせてもらうぜ!」
万福丸が神気を発し、神力へと変換し、【理】を口にする。
【喰らう】
彼が力ある言葉を口から発すると同時に、両腕に銀色に輝く手甲が、そして、両足には同じく銀色に輝く脚絆が具現化する。そして、右腕を大きく振りかぶり、よっしーと道雪の左頬にその手甲をぶちこむのである。
「ぐはああああああああでごわすううう!」
「げふうううううううう鳴りいいいいい!」
万福丸に顔面を殴られた2柱は会談の場から10メートルほど吹っ飛び、頭から着地するのである。
「これで、【罰】がどれほどのものか、隆信さん、鍋島さんにもわかってもらえたと想うわ?充分、熱くならないように【議論】を行ってほしいわ?」
「わ、わかったのだクマー。しかし、あれは下手したら死んだのではないのか?クマー」
「大丈夫よ。仮にもあの2柱は大神と合一を果たしたモノたちだわ。万福丸も一応、加減はしていると想うし」
「ああ、そりゃなあ。これで全力ってわけでもないし。あっ、あの2人、戻ってくるみたいんだ。やっぱり、あの程度じゃ、気絶もさせられないかあ」
よっしーと道雪があごをごきごき鳴らしながら、いてててと呟き、再び会談の席につく。
「いやあ。咄嗟に神気を発してなかったら、もっと吹き飛ばされていたでごわす。ぷっくー、やるではないかでごわす」
「あごが痛い鳴り。殴られる瞬間に首を捻った鳴りけど、間に合わなかった鳴り。いやあ、物語で読んだものを真似するのはダメ鳴りね」
「ほらな?あんまり効いてないみたいだぜ。よっしーさんは、顔に水を具現化してクッションにしたし、道雪さんは変なテクニックを使って、衝撃を和らげてたしな」
「うーーーん。これは困ったわね。じゃあ、神力で防御するのはやめましょうか。身体能力の向上だけで耐えてもらうことにするわ。そうじゃないと【罰】にならないしね」
「えええ?ぷっくーのこぶしを身体能力の向上だけで耐えろと言うのでごわすか?それはちょっと厳しいのでごわす」
「ううむ。これは流しの訓練をもっとやっておけば良かった鳴り。そうすれば、もっとダメージを減らせる鳴り」
「万福丸。お腹をおもいっきり殴ってちょうだい。そのほうがじわじわと効くわよ?内臓を痛めて、血の小便を垂れ流すことになるはずだから」
「吉祥、なかなかにえげつないこと言うなあ。あと、女性が小便とかいう単語はつかわないほうがいいぜ?」
「あら、それもそうね。じゃあ、紅い色のお花摘みをすることになると訂正させてもらうわ。万福丸のこぶしを5発ほどお腹に喰らえば、そうなるでしょうしね。皆さん、わかってもらえました?」
会談に集まる面々が、う、うむと返事をするのであった。
「では、【議論】を開始するのですわ。【見届け神】は思兼と合一を果たした僕、吉祥と、犬神と合一を果たした万福丸が務めさせてもらうのですわ!」
そう吉祥が高らかと宣言すると同時に、大空から会談に揃った7柱を包みこむような大きさの淡い桃色の円柱形の光の筒が下りてきて、皆をその中に入れる。
うーーーん。やっぱりこの桃色は悪意を感じるわね。なんでこんな空間を【話し合い】の場に設定したのかしら?天照さまは変更する気がないの?それとも、変更するだけの力がないのかしら?と想う吉祥である。
「ふう。やっと【議論】の始まりなのだクマー。まったく、こうでもしないとお互い、冷静に【話し合い】も出来ないとは、難儀なのだクマー」
「はははっ、それも無理がないので候。我らが博多の地を狙い、戦を起こしたので候。いくら、全員を集めて会談を行おうとするための策だとしても、いささかやりすぎたので候」
隆信と鍋島がそう告げるのである。
「ん?どういうこと鳴り?お前たち2柱は、我輩たちをここにおびき寄せるために戦を行ったと言うこと鳴りか?【納得】出来るために話してもらおう鳴り」
「かまわないクマーよ?博多の地は出来るなら欲しかったところだったクマーけど、それと同時に3勢力合同の会談を行いたかったの事実だったクマー。まあ、よっしーちゃんがもう少し、ぐずってくれれば、それはそれで、博多の地を手に入れて、その後で、宗麟ちゃんから譲歩してもらう予定だったのだクマー。まあ、どっちに転んでも損がないように事を運んでいたと言うことだクマー」