表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/124

ー神有の章51その2- 議論

 神帝しんてい暦5年6月13日、午前9時。予定通り、大友・島津家の代表と龍造寺家の代表が各陣の真ん中に位置する平原で一同に会することになる。万福丸まんぷくまる吉祥きっしょうも【見届け神】として、その3勢力の会談に参加することになったのだった。


「えっと、そちらの2人が龍造寺隆信りゅうぞうじたかのぶさんと鍋島直茂なべしまなおしげさんで間違いなのかしら?もし影武者を用意したと言うのであれば、【見届け神】として、それ相応の【罰】を与えることになるのですわ?」


 吉祥きっしょうはすでに神気を発し、神力へと変換し、赤縁あかぶちの眼鏡と分厚い書物を具現化していた。その眼鏡を通して、自分の左側の位置で席についている2人の男を注意深く観察していた。


 吉祥きっしょうの眼から見て、2人の男の身体は黄色がかった神蝕しんしょくあかしをほぼ全身に表しており、間違いなく、何かしらの大神おおかみ合一ごういつを果たしているのは見て取れたのである。だが、それでも念入りに確認を取ったのである。


「俺様は間違いなく龍造寺家の棟梁、龍造寺隆信りゅうぞうじたかのぶで間違いないクマー。気軽に隆信たかのぶちゃんとでも呼んでくれだクマー。可愛いお嬢さん」


「ふふっ。いくら、女性に縁がないからといって、隆信たかのぶちゃんは、こんなところで女性をナンパしてはいけないのでそうろう。あ、申し遅れたのでそうろうわれ隆信たかのぶちゃんの右腕、鍋島直茂なべしまなおしげそうろう。気軽に鍋ちゃんと読んでほしいのでそうろう


 な、なんか、予想していたより、ノリが軽いわね。と想う吉祥きっしょうである。


「ご、ごほん。えっと、隆信たかのぶさんと鍋島さんですわね?わかりました。嘘偽りない宣言だと判断させてもらうのですわ」


隆信たかのぶちゃんで良いと言っているクマー。俺様、一度で良いから、女性にちゃんづけで呼ばれたいんだクマー」


「だから、こんなところでナンパをするのはやめるのでそうろう。あっ、われのことは鍋ちゃんで良いのでそうろう


「あ、あのね。初対面なのに、そんな気軽に呼べるわけがないでしょう?あと、少しは緊張感を持ってほしいのですわ?僕としても、調子が狂ってしまうのよ?」


「まあまあまあ。いいじゃん。隆信たかのぶちゃん、鍋ちゃん。よろしくな。俺、万福丸まんぷくまるってんだ。【見届け神】のひとりとして、戦闘を担当させてもらうぜ?」


「おう。万福丸まんぷくまるくん、よろしくなのでクマー。まあ、戦闘行為をするつもりはこっちはないのでクマー。だから、安心してほしんだクマー」


「ふふっ。やはり鍋ちゃんと気軽に呼んでもらえるのは嬉しいことでそうろう隆信たかのぶちゃんとわれは顔が強面なので、つい恐れられてしまうのでそうろう


 確かに、このふたりの言う通りだわと吉祥きっしょうは想うのである。隆信たかのぶさんはまるで、熊のような体格で、熊そものなのか、それとも熊の中にニンゲンが入っていて、ニンゲンの言葉をしゃべっているのか、わからなくなってしまう。彼のあご髭はまるで熊の体毛のようにほのかに赤みを帯びているため、余計にそう想うのである。


 それと、鍋島直茂なべしまなおしげ。こちらのほうも、顔の作り自体は二枚目だと言うのに、同時に爪でひっかけられたような傷が深々と左眼から左頬を3本走っており、それが原因で強面に視えるのである。


隆信たかのぶちゃん、鍋ちゃん、【見届け神】に好印象を植え付けようとするのはやめるのでごわす。【見届け神】は公平に判断を下す必要があるのでごわす。その【ことわり】を侵すようなことはやめるのでごわす」


「そんなに怖い顔をするなでクマー。あくまでも、挨拶の範疇でのことなのだクマー。よっしーちゃん、そんなに睨みつけてほしくないでクマー」


「せっかく【話し合い】をしにきたと言うのに、挑発行為はやめてほしいのでそうろう。このままでは、【話し合い】の前に【ご破算】となってしまうのでそうろう


 よっしーが、くっ!と唸る。よっしー自身も、この【話し合い】を望んでいたことは確かなのである。だが、それを主君の仇に言われると釈然としない気持ちとなるのである。


「まあまあまあ。ここで喧嘩になっては大変なのでしゅ。どちらもこれ以上は傷つけ合いたくないからこその【話し合い】なのでしゅ。ここは僕ちんの顔に免じて、双方、矛を収めるのでしゅ」


 あら、大友宗麟おおともそうりんさんが顔に似合わず、仲裁役を買って出ているわと想う、吉祥きっしょうである。本来なら、戦闘行為にならないように話をまとめなければならないのが【見届け神】たる吉祥きっしょう万福丸まんぷくまるであったが、宗麟そうりんさんに要らぬ借りを作ってしまったわと吉祥きっしょうは想うのである。


宗麟そうりんさん。ありがとうございます。さっそく、今回の【話し合い】についてルールを決めさせてもらうわよ。昨日の隆信たかのぶさんからの使者の話では、【対話】ではなく【議論】で解決しようと言う話でしたわね。【対話】でなくて良かったのかしら?そっちのほうが、情報の見返りを確実に受け取ることができるはずなのに」


「【対話】は堅苦しいのでクマー。それに【秤】に縛られることになるのだクマー。そちらも出したくない情報を探られるのは嫌なはずだクマー。それなら、縛りの緩い【議論】のほうが良いだろうと想ったんだクマー」


「そうね。【対話】には【取引】と【納得】が絡んでくるんですものね。一触即発な状態で【対話】を行えば【ご破算】の危険が高いわ。だから、【議論】を隆信たかのぶさんは望むのね。宗麟そうりんさん側はこれについて異論はないのかしら?」


「僕ちんは【議論】で構わないでしゅ。なあ、道雪どうせつ?」


「我輩も異論は無い鳴り。下手に【対話】で【ご破算】すれば、双方に被害が及ぶ鳴り。それがここに居るモノたちだけならまだしも、兵たちに累が及べば、困ることになるのだ鳴り。よっしーはどう想っているの鳴り?」


「おいどんは、それでいいのでごわす。ただ、おいどんはおいどんで島津家として、いや、九州全体の平穏のために【議論】に参加させてもらうのでごわす」


「わかったわ。では3陣営としての【議論】と言うことにさせてもらうわね?」


 吉祥きっしょうがそこまで言うと万福丸まんぷくまるが彼女に質問してくる。


「なあなあ。【対話】と【議論】って何が違うんだ?俺、よくわかってないんだけど?」


「うーーーん。どう説明したものかしら。【対話】って言うのは、1対1の情報交換には適しているのよ。で、万福丸まんぷくまるもわかっているとおり、情報の【取引】を行って、【秤】にかけつつ【円満解決】に持って行くように双方、努力しないといけないわけ」


 万福丸まんぷくまるがふむふむと頷きながら、吉祥きっしょうの話を聞くのである。


「まあ、簡単に言うと、【議論】においては【取引】が絶対ではないってことよ。【納得】することが大事ってこと。で、【議論】もまた【円満解決】と言う【約束】には縛られるわけだけど、情報の【取引】にとらわれることはないわけね。でも、参加者の皆が【納得】するようには【話し合い】をもっていかないと、全員が【罰】を喰らうのよ。だから、利害が複雑に絡むような集団で行う会談においては、【議論】は有用な手段になるってことなのよ?わかった?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

cont_access.php?citi_cont_id=32148659&si

ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ