ー神有の章51その1- 会談前の夕暮れ
立花道雪と龍造寺家との使者の交渉により、次の日、朝9時より互いの陣地のど真ん中の平原において、講和内容を詰めるための会談が設けられることになったのデスワ。
龍造寺家からは大名である龍造寺隆信本人とその右腕である鍋島直茂が。そして、大友・島津家側から大友宗麟、立花道雪、そして島津義弘さんが出席になったのデスワ。
そして、会談の【見届け神】として、僕と万福丸が出席することになったのデスワ。ちゃんと聞いてる?万福丸。
「ああ、聞いてるぜ。でも、吉祥はともかくとして、俺なんかが【見届け神】をやっていいのか?俺は馬鹿だから、話の内容なんて、わからないぞ?」
「いつもの通り、僕が頭脳担当で、万福丸が戦闘担当なのですわ。だから、2人セットなのがちょうど良いということデスワ。でも、ひとつ注意することがあるのデスワ」
「ん?なんだ?会談がご破算になったりした場合は俺がよっしーたちの援護に回れってことなのか?」
「それならば事は単純で済むのデスワ。でもこれは会談と言う名の【対話】に近いものなのデスワ。もし、一方的な物言いを大友・島津家側が行った場合は、制裁を加えなければならない対象は大友・島津となるのデスワ。だから、僕たちは龍造寺家側の戦力となって戦うことになりかねないのデスワ」
「ああ、なるほどー。よくわからん」
万福丸の言いに吉祥がずっこけそうになる。
「あのね?万福丸。何故、わざわざ、龍造寺家側が【見届け神】を置けと言ってきたのは、自分たちが一方的に不利にならないためなのデスワ。そうじゃなかったら、とっくの昔に龍造寺家側は、大神の力を使って、戦況を覆しているのデスワ!」
「ふーーーん。なんだか面倒なことになってきたってのは理解したぜ?でも、俺、なるべくなら、よっしーさんや道雪さんと敵対したくないんだけどなー」
「僕だってそうデスワ。でも、この意味がわからない戦を続けられて疲弊するのは九州の民たちなのデスワ。それを【話し合い】で済まそうとしてくれるだけでも、ありがたいと想わないといけないのデスワ」
「【話し合い】で決着がつくぐらいなら、最初から戦なんて起こさないと想うんだけどなあ。なんか、厄介事に巻き込まれそうな匂いがぷんぷんするぜ?」
「まあ、【話し合い】には【約束】という拘束力がある以上、大神と言えども、無理に【ご破算】にするとは想えないのデスワ。でも、さらに困った問題があるのデスワ」
「ん?【ご破算】以上に困った問題があるのか?【ご破算】って確か、一方的に情報を与えたり、与えなかったりした時に、【話し合い】をなかったことにすることだよな。その【罰】ってのは相当、重いものになるんだろ?」
「そう言った問題ではないのデスワ。龍造寺家側が博多の地を狙っていると言う情報を手に入れるためには、それ相応の情報を大友・島津家側から提示せねばならないと言うことですわ。その【取引】に使えるほどの情報を大友・島津家側が持ち合わせているかと言うことですわ」
「ああ、なるほど。確かに、大友・島津家側は今回、龍造寺家が博多の地を狙っている理由すらわからないもんな。で、龍造寺側はその情報の見返りに、大友・島津家側に神力を要求する可能性があるってことかあ」
万福丸にしては冴えているのデスワと想う、吉祥である。会談が正式な【対話】となれば、情報の代わりに神力を代用することができる。それは即ち、大友・島津家側の弱体となりかねないのである。
「道雪さんが龍造寺側に提示できる情報を持ち得ていることを願うばかりなのデスワ。それができない、さらに神力を差し出すこともしないとなれば、僕たちは【見届け神】として、その不公平を是正させるために、龍造寺家側に力を貸すことになるのデスワ」
「うーーーん。なんか、会談を持ち込まれた時点で、大友・島津家側は圧倒的に不利に聞こえるな、それだと。でも、よっしーさんとしては、この会談は待ち望んでいたものだし。ああ、なんか知恵熱が出そうだぜ。吉祥、細かいことは任せたから、俺に力を使ってほしい時は、いつでも命令してくれよ。例え、それがよっしーさんたちを傷つけることになっても良いからさ?」
「そうデスワね。できることなら、お世話になっている、よっしーさんと敵対はしたくないのデスワ。でも、【見届け神】を買ってでなかったら、僕たちはこの九州の件に関わる権利すら、持ち合わせていなかったのデスワ。これで、なんとか、僕たちは自分たちの存在感を示すことができるようになったとも言えるのデスワ」
「そうだよなあ。本当は、ただわけもわからず、信長のおっさんに、この九州の地に飛ばされてきただけだもんなあ。俺たちが、出る幕なんてなかったもんなあ?」
「信長さまがここ九州に僕たちを送り込んだ以上は、何か、僕の目的に近づくためのヒントが隠されていると言うことだと、多分、きっと、うーーーん。ちょっと?はあるはずなのですわ。だからこそ、僕たちはこの件から仲間はずれにされてはいけないのデスワ」
「【理】を超えた先の【理の外】のさらに外にある【真実】だもんなあ。吉祥が欲しがっているモノは。そんな、雲の上の話どころか、それを飛び越えた話を成し遂げようとする以上は、無茶するのは仕方ないよなあ」
「きっと、龍造寺家側は明確な目的があって、博多の地を欲しがっているのデスワ。それは何なのか、今はわからないのデスワ。でも、それが【真実】の扉を開くための鍵のひとつのはずデスワ」
「まあ、あんまり気負いするぎなよ?本当に手に入れようと想うものは回り道をしないと手に入らないって、親父がよく言ってたしな。まあ、今想えば、ただの親父の惚気話だと想うけど」
「それって、お市さまのことなのかしら?デスワ。なんでも、浅井長政さまはお市さまを手に入れるために相当、無茶をしたと聞いたことがあるのデスワ」
「【理の歴史書】ってやつだっけ。そっちのほうに詳しく書いてあるんじゃねえの?俺、産まれて間もない頃の話だから、人づてにしか聞いてないんだよなあ」
「それもそうデスワ。ちょっと、【理の歴史書】を具現化してみますデスワ」
吉祥はそう万福丸に言うと、神気を発し、神力へと変換し、【理】を口にする。
【知る】
吉祥の口から力ある言葉が発せられたと同時に、赤縁の眼鏡と分厚い書物が具現化するのである。
「なあ、吉祥。いっつも不思議に想ってたんだけど、その赤縁の眼鏡と【理の歴史書】はセットじゃないと具現化できないのか?」
「うーーーん。そうでもないのよ?ただ、この書物って分厚いだけあって、索引機能もついているのよ。でも、その索引機能を使うためには、この眼鏡があると便利になるのよ。自分が知りたい情報を得るために、まず、その索引機能を使うのだけれど、これがまた、神代のことから記載されているから、索引の項目も膨大になるわけ。だから、知りたい事だけを知るために、この眼鏡があると便利ってことなのよ」