ー神有の章49- ゴッド・フラッシュ
「あの2人、何を言い合っているのデスワ?別にこのまま膠着状態で、龍造寺家が退くのを待てばいいだけの話じゃないの?デスワ」
「うーーーん。よっしーさんは、ここで隆信と接触を図りたいみたいなんだよな。それで、道雪さんとやりあっているって感じに見えるんだよな。まあ、よっしーさんの気持ちもわからないでもないけど、こればっかりはなあ?」
吉祥の眼から見ると、親子ほど離れた、よっしーさんと道雪さんが親子喧嘩をしているようにも視えるのである。もちろん、道雪さんのほうが年上である。その道雪さんが、無理をする場面ではないと、はやるよっしーさんを抑えている感じなのである。
「まあまあまあ。2人とも、ぼくちんの顔に免じて、喧嘩はやめるのでしゅ。大友家と島津家の大将同士で言い争っていては下の者たちが不安がるのでしゅ」
「で、でも、宗麟さま。こいつがなかなかに頑固者で言うことを聞かない鳴り。どうしても、隆信と鍋島直茂を説得してくると言っているんだ鳴り」
「道雪ちゃん!おいどんは邇邇芸さまの言っていた、あの予言が気になって、気になってしょうがないのでごわす!もし、邇邇芸さまを超える大神が九州の地に現れれば、なす術もなく、この地は蹂躙されてしまうのでごわす」
「だからと言って、相手はこちらを問答無用で殴ってきている奴らなのだ鳴り。まともに交渉の椅子に座るとも想えないんだ鳴り。一旦、頭を冷やす鳴り」
立花道雪が、そうよっしーを諫めるのである。だが、よっしーは諫言により、余計に頭に血をのぼらせるばかりである。吉祥は、その2人の様子を視て、困ったのデスワと想っているところに、宗麟が動くのである。
「2人とも悔い改めるのデシュ。神はあなたたち2人の言い争いに心を痛めているのデシュ。僕ちんの頭をよく視るのでしゅ」
ん?宗麟さん、一体、何を言っているのかしら?と吉祥は想い、不注意にも宗麟の禿げ上がった頭を視てしまった。
【光り有れ】
宗麟が力ある言葉を口から発する。その瞬間に、宗麟の禿げ上がった頭が太陽光を乱反射するのであった。
「きゃあああああ!なんなのデスワ!宗麟さんの頭がいきなり光出したのデスワ!」
「ぐああああ、眼が!眼が痛いのでごわす!まともに【光り有れ】を視てしまったのでごわす。久しぶりだからと油断したのごわす!」
「宗麟さま、その御業をいきなりつかうのはやめるの鳴り。みんなが眼を抑えて、もだえ苦しんでいる鳴り」
「それはすまないことをしたでしゅ。でも、これで、軽い傷は癒されたはずなのでしゅ。ああ、良いことをした後は気持ちいいのでしゅ」
えっ?今の禿げ頭による太陽光の乱反射に意味なんてあったの?デスワと想う吉祥である。
「ん?なんだか、足の甲がもぞもぞするなあ。って、うおっ!行軍中に出来た、足のまめがきれいに治って行くぞ?なんだ、これ。宗麟さんの神力って、身体の傷を治す効果があるのか?」
「ちょっと、汚い足を見せないのでほしいのデスワ。でも、万福丸が痛い痛い、足の皮がずるむけたあああ!って言っていたのが、ちょっとずつだけど、きれいに治っていくのデスワ。これはすごいのデスワ」
「さっきの光は神の御威光なのでしゅ。僕ちん、西洋の天使・らふぁえると合一を果たしたのでしゅ。だから、ちょっとした傷なら、僕ちんの神力で治せるのでしゅ」
「えっ!?ひのもとの国以外の大神とでも合一を果たせるの?そんなの初めて聞いたのデスワ?」
「嘘も何もここにそれを成し遂げた僕ちんがいるのでしゅ。ちなみに西洋では、神はただ1柱。デウスさまだけなのでしゅ。僕ちんは、その神の使い、天使と合一を果たしたのでしゅ」
「ふーーーん。天使ってのを聞いたことはあるけど、大神以外と合一を果たしたモノと言うのは初耳なのデスワ。でも、その実例が眼の前に居る以上は、疑ってもしょうがないのデスワ」
「信じるモノは救われるのでしゅ。さあ、汝も僕ちんと天国に行こうなのでしゅ。ちなみに今夜は空いているでしゅか?」
「ご生憎さまデスワ。私には、万福丸と言う夫がいますのデスワ。デウスの教えでは、不倫は大罪と聞いたことがあるのデスワ。残念デスワ?宗麟さまがデウスの教えを信じているのなら、他人の妻に手を出すことは出来ないのデスワ」
「くっ!口が回る小娘でしゅ。鬼島津のツレでなければ、無理やり手籠めにしてやるものをでしゅ!」
宗麟と吉祥は火花が散らんばかりに視線をかわしあうのである。
「宗麟さま。いつも言っている鳴り。他人の妻を欲しがるのはダメだと。いい加減にしないと、罰を与える鳴りよ?」
「や、やめてほしいでしゅ。道雪は手加減を知らないでしゅ。僕ちん、死んでしまうのでしゅ!」
「なら、そのご婦人に謝る鳴り。それで罰は与えないでおく鳴り」
「わ、わかったのでしゅ。う、うっほん。吉祥さん、変なことを言ってしまい、すまないのでしゅ。夫を持つ身の御婦人に手を出すのは大罪だったのでしゅ」
「わかればいいのデスワ。それに僕も喧嘩腰だったのデスワ。その点は謝るのデスワ」
とりあえずであるが、宗麟と吉祥は道雪を介して和解することになるのであった。
「なあ。宗麟のおっさんが、うざいから、適当に俺を夫にしてくれるのはありがたいんだけど、あんまり、喧嘩腰なのは感心しないぞ?吉祥」
「万福丸、ごめんなのデスワ。なんか、イラッときたから、つい、喧嘩を売ってしまったのデスワ。以後、気をつけるのデスワ」
「いや、そういうことじゃなくて、俺は吉祥のためなら、宗麟のおっさんとでも喧嘩はしても良いんだけど、よっしーさんの手前もあるからさあ?世話になってる、よっしーさんの顔に泥を塗るのも嫌じゃないか?まあ、吉祥がやれって言うなら、俺は従うけどさあ」
「まったく、よっしーさんのことを想っているのか、わからないのデスワ」
「そりゃあ、俺が一番大事なのは吉祥だしな。よっしーさんには悪いけど、その点は譲る気はないからなあ」
「はあーははっ。要らぬ気づかいをさせてすまなかったのでごわす。皆との懸け橋になろうと言うモノが、道雪ちゃんと喧嘩をしていてはいけないでごわすな。道雪ちゃん、仲直りをするでごわす。それと、宗麟さまも、きっちゃんと仲たがいしないようにお願いするでごわす」
「わ、わかっているのでしゅ。さっきのは出来心だったのでしゅ。改めて、吉祥さん、先ほどの発言を謝るのでしゅ。ぼくちんを許してほしいのでしゅ」
「ええ、僕のほうこそ、ごめんなさいデスワ。あと、万福丸は、僕の旦那さまではないのデスワ」
「で、では、僕ちんとこのあと良いことしないか?でしゅ。博多の地には星がきれいにみえる高台があるのでしゅ!」
「宗麟さま?少し、話がある鳴り。ちょっと、陣幕の裏に来てもらう鳴り」
道雪はそう言うと、宗麟の襟首を掴んで、陣幕の裏に行く。そして、大空から太めの神鳴りがひとつ堕ちてくるのであった。