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ー神有の章48- 決戦の地・博多

 神帝(しんてい)暦5年6月5日の昼。ついに島津家は3000の兵を率いて博多の地へと到着する。長距離の行軍の疲れもあるが、すぐさま、大友家5000の支えと回るのである。


「ちぇすとおおお!ちぇすとおおお!ちぇすとおおお!」


 島津家の兵たちの掛け声は、大友家を勇気づけるには充分であった。総指揮を任されていた立花道雪(たちなばどうせつ)は、ここが勝機だとばかりに全軍を突撃体勢にするのである。


「こちら、よっしーでごわす。道雪(どうせつ)ちゃん、そちらのほうはどういう塩梅でごわすか?」


(ああ。ああ。ああああ!よく聞こえない鳴りな。ったく、せっかく分御霊(わけみたま)をしてみたものの、通心状態がよくない鳴り。ああ、よっしー?こちら、道雪(どうせつ)鳴り。ただいま、突撃準備をしていること鳴り。あーあー、応答せよ鳴り」


「おお、道雪(どうせつ)ちゃん、ついに決戦なのでごわすな!それは、おいどんも参加させてほしいのでごわす!」


(そんなこと言ったって、よっしーのところは、今さっき、到着したばかりで疲れている鳴りよね?ゆっくり、後陣を支えていてほしいの鳴り。数はあちらのほうが多い鳴り。まだ、決着が決まったわけではない鳴り。じゃあ、ちょっと、龍造寺家に挨拶してくる鳴り!)


「ああ、ああ!あああああ!道雪どうせつちゃん?道雪どうせつちゃん?切れたでごわす。ふう。最後の方がよく聞こえなかったでごわす。まあ、おいどんたちはゆっくり、後ろで控えていろと言う話なのでごわす。おい、皆の者、声は出しつつ、力を抜けでごわす!」


「ちぇすとおおお!ちぇすとおおお!ちぇすとおおお!」


「うーん。島津家の兵隊はすごいなあ。九州の南端から北端まで来たって言うのに、まるで疲れでも知らないって言った感じだぜ。俺でも、さすがにばてているってのによお」


「こ、こいつら、ニンゲンを辞めているのデスワ。道中、谷あり山あり、川ありだったのに、ほとんど休みらしい休みもとりやがらなかったのデスワ。ちょっと、僕、限界が近いから陣幕の中で休んでいい?デスワ」


「まあ、吉祥(きっしょう)はがんばったと想うぜ。何かあったら、起こしにいくから、ゆっくり休んでてくれよ?俺はこのまま、龍造寺隆信りゅうぞうじたかのぶとかが急襲してこないか注意しておくからよ?」


「た、頼んだのデスワ。お言葉に甘えさせてもらうのデスワ。でも、無茶は禁物なのデスワ。いくら、こちらには合わせて5柱がそろっているとしても、相手は、合一ごういつを果たしたばかりで、3柱を圧倒した龍造寺隆信りゅうぞうじたかのぶ鍋島直茂なべしまなおしげなのデスワ」


「ああ、わかってるって。あと、大友宗麟おおともそうりんのおっさんには気をつけておけよ?なんか、目元がやらしいんだよ、あのおっさん」


 ああ、あのひとデスワと想う吉祥きっしょうである。島津家の応援が到着したと同時に、よっしーさんが大友家の本陣に寄ったのだが、その時に、万福丸まんぷくまると自分も、大友宗麟おおともそうりんに目通しされたのだが、その彼の視線がやらしいこと、やらしいこと。


 まるで、僕の身体を舐めるように見てきたのデスワ。噂では道雪どうせつさんと同じく僧籍に入ったと言われている割には、煩悩の塊。いや、煩悩の権化のような気がしましたのデスワ。特に、胸とお尻をまじまじと見られたのデスワ。万福丸まんぷくまるも、鼻の下を伸ばして、僕の身体をクンクンと嗅いでくることがあるけど、あれの1万倍、気持ち悪い想いだったのデスワと想う、吉祥きっしょうである。


 吉祥きっしょうは、その宗麟そうりんが居ない事を願って、陣幕の中に入って行く。そこには簡易寝台があり、それと机の上には簡単な食事も準備されていた。吉祥きっしょうは机の脇にそえられていた椅子にすわり、上半身を机の上にべたーーーと押し付けるのであった。


「ああ。宗麟そうりんさんが居なくて良かったのデスワ。あのひとがもし居たら、ささ、そこの簡易寝台に横になるのでしゅ。ぼくちんが東洋の神秘、マッサージを施すのでしゅ!とか言い出しかねないのデスワ」


 吉祥きっしょうが、ぐでーーーとなりながら、そうぼやく。そして、目の前にある皿の上に盛られたおにぎりをひとつ手にとり、はぐはぐと食べ始めるのである。陣幕の外からは相変わらず、ちぇすとおおお!と雄たけびが聞こえてくる。


「ああ。何であんなに元気なのデスワ?もしかして、あの人たちなら、例え、龍造寺隆信りゅうぞうじたかのぶが直接乗り込んできても、なんとかしてくれそうなのデスワ」


 吉祥きっしょうはおにぎりをひとつ食べ終えたあと、やかんを手にもち、湯飲み茶碗に注いでいく。そして、初夏のせいか、ぬるくなっている水をゆっくりと飲むのである。


「もしかして、このやかんの水って、よっしーさんが具現化した水とかっていうオチじゃないの?デスワ。妙に生ぬるいと言うかなんというか。ああ、冷たい水を飲みたいのデスワ」


 6月に入り、九州は初夏と言えども、蒸しつく暑さである。しかも、ここは海に近い博多の地だ。なんとなく、髪をゆらす風に塩のような香りを感じるのである。


「ああ。風が生ぬるくて、嫌な感じなのデスワ。それに、行軍中はまともに行水も出来なかったのデスワ。僕、汗の匂いがプンプン匂ってないデスワよね?」


 そういうと、吉祥きっしょうは自分の腕をクンクンと嗅ぎだすのである。


「うーーーん。わからないのデスワ。そもそも、血や汗、そして鉄砲の火薬の匂いが充満してて、余計によくわからないのデスワ。なんだか、僕、女らしくないような気がするのデスワ」


 吉祥きっしょうは半ば、諦めた感じで気にしない事に決めたのであった。それよりも今は、1分1秒でも身体を休めよう。そう想い、机にもたれかかったまま眠りに堕ちていくのであった。


 それからどれほどの時間が立ったのだろうか。吉祥きっしょうは、ふと、眠りすぎたのデスワ?と眼を覚ます。辺りはいくさの喧騒も収まっていた。


「ああ。吉祥きっしょう、起きたのか?ダメだぞ?いくら暑くなってきたからと言ってそんなところに寝てたら風邪ひくぞ?まだ、夕方は少し肌寒いんだからな?」


「あれ?僕、そんなに眠っちゃったのデスワ?いくさはどうなったのデスワ?」


「うーーーん。決着はつかなかったぜ?龍造寺側が鉄砲で反撃してきたから、道雪どうせつさんは突撃をやめちまったし。んで、そこからは、お互い、距離を取って、散発的に鉄砲の撃ち合いになったって感じかな」


「それも仕方ないのデスワ。お互い、兵は農民なのデスワ。その農民たちが傷ついてしまえば、どちら側にも大きな損失となるのデスワ」


「んで、このままじゃらちが明かないだろうってことで、よっしーさんが、道雪どうせつさんとかけあっているってところみたいだな。ほら、あそこ、見てみろよ」


 吉祥きっしょう万福丸まんぷくまるに言われ、陣幕のすぐ外を見る。すると、そこに逆巻く水をまとった、よっしーさんと、その前方に時折、稲妻のようなものをパリッパリッ!と身体の周りでスパークさせている道雪どうせつさんが睨みあっていたのである。


「だから、おいどんたちに任せるのでごわす!龍造寺隆信りゅうぞうじたかのぶの頭をぶち抜いてやるのでごわす!」


「なにを言ってる鳴り!よっしーは、ここまでずっと歩きづくめだった鳴り!島津家の兵は疲れ切っている鳴り!まずは、後陣で、ゆっくり体力を回復させる鳴り!」


道雪どうせつちゃんに任せていたら、夏が終わり、秋になっても、決着はつかないのでごわす!だからこそ、島津家に任せるのごわす!」

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