ー神有の章46- 島津義弘、出陣
神帝暦5年5月20日、ついに、よっしーさんこと島津義弘さんが、窮地の大友家を救うべく、薩摩の国・内城から博多の地に向けて、軍を進発させたのデスワ。その数3000と少なく感じるかも知れないのですが、そもそも九州の地では作物が育ちにくく、大軍を養う力はどこの勢力にもないのデスワ。
実際に、立花道雪さんの話(これは雷電話からよっしーさんが道雪さんにから聞いた情報)では、大友家5000に対して、龍造寺家は兵6000を出してきているとのことなのデスワ。
だから、島津家が兵3000と言えども、大友家に加勢すれば、一気にこちら側が有利になるのデスワ。ちゃんと聞いているのデスワ?万福丸?
「ああ、ちゃんと聞いているよ、吉祥。しっかし、出発したのは良いけれど、ここ九州の南端から、九州の北端の博多まで行くんだろ?んで、予定では2週間だったよな?間に合うのか?これ」
「ちなみに、言っておくけど、双方が全力で殴り合う戦など、ほとんど起きないのデスワ。それくらい万福丸でも理由を知っているはずなのデスワ」
「まあ、駆り出されている兵はそもそも農民だもんな。そいつらが怪我をしたら、ただでさえ、農業が厳しい土地なんだ。まともにやり合って、怪我人を大勢だしたら、自滅しちまうもんなあ」
「そういうことデスワ。まあ、そんなことお構いなしに全力でぶん殴って天下統一にいそしむ馬鹿がいるから、世の中、おかしいことだらけなのデスワ」
「ああ、信長のおっさんところだろ?織田家の奴らって全員、頭がおかしいのか?農民が怪我しても、知ったこっちゃないって言いたいのかなあ?」
「そもそも、信長さまは農民を徴兵しているわけではないのデスワ。それこそ、喰うに困っている民たちをお金で雇って、自分の兵にしているのですわ。だから、年がら年中、戦に明け暮れても、自国の農作業になんら影響が出ないのデスワ」
「ふーーーん。信長のおっさんってめっちゃ金持ちなんだなあ。その割には、俺とやり合った時は、そんなに良い恰好してなかったぜ?」
「あの時は、上に羽織っていた鎧などを全部、脱いでいたのですわ?安土魔城の城下町で見つけたときは、何なのあの恰好?って驚いてしまったのデスワ。南蛮製の甲冑を全身に着込んで、さらに虎の毛皮を右肩から腰に回して、それでも足りぬとばかりに南蛮の外套を背負っていたのデスワ。どこの派手好きかと想っていたら、信長さま本人だっと言うことデスワ」
「ああ、なるほど。あれは鎧の下に着る服だったわけか。道理でみすぼらしいただのその辺に歩いてるおっさんと勘違いしたわけだわ。やっと、納得したわ」
「まあ、鎧の下に着る服なのに、質の良いモノを着込むヒトなんて、なかなか居ないのデスワ。信長さまは効率を重視するんでしょうデスワ。着飾るより、動きやすいことが最上としているのデスワ」
「ふーーーん。南蛮製の甲冑って、それほど動きやすいようには想えないんだけどなあ?ゴツゴツしてて、そりゃあ、防御力は高そうではあるけど、俊敏さに欠けそうって言うか」
「お父さんに聞いたことがあるのデスワ。織田家の兵士は軽量化されながらも防御力も高い足軽用の鎧を生産して使用していると。しかも、生産性が上がるように、作りが簡素化されているとも聞いているのデスワ。そんな信長さまが、自分の南蛮製の甲冑に手を加えてないはずがありえないのデスワ」
「ほっほお。随分、吉祥は信長のおっさん推しですなあ?もしかして、吉祥は、ああいう渋目のおっさんが好みなのか?」
「うーーーん。そこは難しいのデスワ。僕は包容力がある大人の男性が好みだけど、信長さまは包容力と言うより、底なしの沼のような感じを受けるのデスワ。アレは危険な魅力なのデスワ。一度、その沼に足を入れれば、二度と自力では這い上がることができない魅力、いえ、魔力を感じるのデスワ」
「うわあああ。なんか、恐ろしいなあ、その表現。もしかして、男でも、信長のおっさんの魔力に囚われたら、二度と逃げ出せない感じなのかな?」
「まあ、信長さまは男だってかまわず、喰っちまうのデスワ。信長さま付きの親衛隊のほとんどは、信長さまにお尻を掘られていると【理の歴史書】には記載されていますのデスワ」
「うっわ。じゃあ、俺がもし、絶世の美男子だったら、今頃、信長のおっさんにアヒンアヒン!言わされてた可能性があったってこと?」
「その可能性は否定できないのデスワ。良かったのデスワ。万福丸が大福のような膨れたほっぺただったことに感謝したほうが良いのデスワ?」
「うーーーん。でもよ?信長のおっさんって、確か、大福も神力で具現化してなかったか?吉祥、アレ、喰ってたじゃん?」
「あれは京の都で去年、獅子屋の、のれん分けをされて開店したばかりの鹿屋の大福の味、そのままだったのデスワ。想わずほっぺたが堕ちそうになってしまいましたのデスワ!」
「ああ、獅子屋ってあの羊かんがすっごい美味いやつな。鹿屋の大福も、1度、吉祥が食べたいって駄々をこねたから、朝いちばんに並んで買ってきたけど、よくあの味を覚えていたもんだな?」
「それもそうなのデスワ。鹿屋の大福はひのもとの国一番と言っても過言ではないのデスワ。その味を忘れるわけがないのデスワ!」
「じゃあさ。なんで吉祥は【紅茶】だけじゃなくて、【大福】も具現化できるように、信長さまに頼まなかったわけ?」
「まさか、自分が【紅茶】を自由自在に具現化できるなんて、誰が想像すると想うの?デスワ。未だに、この【紅茶】の具現化を説明できないのデスワ?あの時は驚きすぎていて、大福のことなんて、頭からすっぽり抜け落ちていたのデスワ」
「もぐもぐ。しっかし、この桜島大根はシャキシャキしてて、美味しいな。吉祥も腹減ってきただろ?すこし、かじるか?」
「ひとの話をちゃんと聞くのデスワ!まったく、話を振るだけ振っといて、自分だけ大根をかじるなんて、おかしいと想わないの?デスワ」
「うーん。そんなこと言ったって、俺、吉祥を抱っこして運んでんだぜ?そりゃあ、腹も減って当然だろうが。大体、足が痛いデスワ。もう歩けないのデスワって言いだしたのは、一体、どこの誰だよ」
吉祥は想わず、うっと言葉を詰まらせてしまう。
「い、いいじゃないの?デスワ!万福丸だって、美人を背負って歩けるのは嬉しいはずデスワ?」
「吉祥は美人系じゃなくて、可愛い系だけどな。まあ、俺としましては、吉祥の柔らかい尻を無条件でさわれるから、文句もないんだけどな?」
万福丸がそう言いながら、吉祥を背負ったまま、片手で器用に大根をむしゃむしゃと食べるのである。まあ、運んでもらっている以上、多少は自分の尻を撫でまわされるのも致し方なしなのデスワと想うことにする吉祥である。
まあ、万福丸はそう言いながらも、いやらしい感じでさわってくるわけでもなく、ただ、吉祥を想って背負って運んでいるので、そんなそぶりも見せないわけなのだが。
「ふう。あとどれくらい歩くんだろうな?内城から出発して、早5時間ってところだけど、瀬戸内の海も見えやしねえぜ」