ー神有の章44- 飲めや、歌えや
神力を俺に喰われた、よっしーは、その後、夕方5時近くまで眠り続けることになったんだ。不幸中の幸いか、よっしーの肉体に欠損などはなく、よっしーは見た目は五体満足であった。だが、俺に喰われた神力の量は過大であったためか、よっしーさんは目覚めたあと
「はあーははっ!失った分の水は酒で補充するのでごわす!さあ、ぷっくー、きっちゃんもどんどん飲むのでごわす!」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!俺、そんなペースで飲まされたら、潰されちまうよおおお!」
「うえええ。世界が回って視えるのデスワ。こんなにハイペースでお酒を飲んだのは初めてなんデスワ。もう、まともに動けないのデスワ」
そうである。よっしーは喰われた分の神力を回復しようと称して、よっしーの家臣たちを集めて、どんちゃん騒ぎの大宴会を始めたのだ。それに俺と吉祥が巻き込まれることになったわけである。
「飲めよ、歌えよ。我が世の春なのでごわす!さあ、皆の者、今宵は城の蔵にある酒が全て無くなるまで飲むのでごわす!ああ?これ以上、飲めないというのでごわすか?そんなの、厠でしょんべんでもしてきて、体内を浄化してくるでごわす!」
うわあ。よっしーの家臣のひとたち、かわいそうだぜ。千鳥足になりながらも厠に向かっていく連中だらけだ。あれ、しょんべんじゃなくて、絶対、上の口から出してくることになるよなあ?
「おいおいおい。ぷっくー。飲みが進んでないでごわすな?もっと、じゃんじゃん飲むでごわすよ?」
「いやいや。待ってくれって。俺、これ以上、飲めないって!てか、なんで、よっしーはそれだけガバガバ飲んでるのに、一向に酔い潰れる感じがしないんだ?」
「ああ、これは、神気を発して、神力へと変換し、体内の水の流れを調整しているからでごわす。ぷっくーも、おいどんの神力を喰らったのなら、可能なはずでごわすよ?」
「えっ?マジなの?じゃあ、俺もちょっとやってみようかな!」
万福丸がそう言うなり、神気を発し、神力へと変換し、【理】を口にする。
【流す】
万福丸が力ある言葉を口にしたと同時に、彼の右腕に巻き付いている赤黒い神蝕の証が鈍い明滅を繰り返す。そして、万福丸は右手のやや前方から透明で有りながらやや色のついた液体をチョロチョロチョロと具現化するのであった。
「うーーーん?ちょっと、酔いがマシになった感じだけど、これ、一体、何が出てるんだ?」
「さあ?何でごわすかな?試しに飲んでみたら良いのではないのでは?でごわす」
「なんか、ちょっとしょっぱいというか、普通の水では無さそうなんだけど?これ、なんだろうな?」
万福丸と、よっしーが万福丸の右手から具現化されて出てくる液体を舐めながら、一体、何だろうと不思議がるのである。
「んっんーーー。世界が回るよおおお。もう、動けないよおおお。吐きたい気分だよおおお。お水をもってきてーーーデスワ?万福丸ううう」
「ああ、吉祥。気が付いたのか?水で良ければ、俺の右手の先から出ているやつでも飲むか?」
「うんうん。飲む飲むーーー。って、なにこの微妙にしょっぱいの!?これ、何を具現化したのデスワ?」
「いや。よっしーが自分の神力を使えば、身体の中の水を操れるようになって酔わないって言うから、試しにやってみたんだよ。そしたら、確かに、少しづつ、酔いがさめてきてるんだけど、これ、何を出しているのかなあって」
「な、何か、恐ろしいことを聞いた気がするのデスワ。でも、この味、なんだか懐かしさを感じるのデスワ?」
「懐かしさでごわすか?ペロペロ。うーーーん。言われてみれば、そういう気もしないではないでごわす。しかし、この水は一体、なんなのでごわす?」
「わっかんねー。もしかして、俺、体内から失ったらいけない水を出しているわけじゃないよな?例えば、血をすっごく薄くしたものだったりとかさ?」
「いいえ。これが血だったとしたら、とてもじゃないけど、飲みこめないのデスワ。ひとの身体は不思議なことに、ひとの血を飲むことを本能的に拒絶するのデスワ。それに、この水からはわずかながら神気を感じるのデスワ」
「えっ?そりゃ、神力を具現化して水にしているんだから、神気を感じて当然だろ?酔っ払って、変なことを言ってないか?吉祥」
「そうじゃないのデスワ。これは、万福丸の神気ではなくて、ましてや、よっしーさんの神気でもないのデスワ。何か別のモノの神気を感じるのデスワ」
「うーーーむ。よくわからんのでごわす。なんで、きっちゃんにはそれが感じることができるのでごわす?」
「ああ、吉祥は【知る】を【理】に持つ、思兼と合一を果たしたからだよ。だから、【知る】ことに関しては敏感に身体が反応しちゃうんだよ」
「なるほどなのでごわす。それで、きっちゃんは頭でっかちなのでごわすな。これは納得なのでごわす」
「頭でっかちは余計なのデスワ!しょうがないのデスワ。僕は頭を、いえ、その中身にまで神蝕を許してしまっているのデスワ。だから、どうしても思考が先に来てしまうだけデスワ!」
吉祥はつい、よっしーを怒鳴ってしまう。だが、その自分の大声で、酔いが回った頭に痛みがやってくるのである。
「いたたたたたっ。大声を出させないでほしいのデスワ。でも、この水は不思議なのデスワ。舐めれば舐めるほど、お酒が身体から抜けていく感じがするのデスワ」
「うーーーん。母なる海の水って感じなのかもなあ?ちょっと、これ、商品化して売りにだしたら、金がガッポガッポ稼げるんじゃね?」
「でも、無限に出せるわけじゃないのデスワ。そもそも、それは万福丸がよっしーさんの神力を喰らった副産物なのデスワ。それに均質のモノを具現化できるとも限らないのデスワ。商品化するのは難しいんじゃなかなと想うのデスワ」
「あああ。一攫千金の夢があああ。まあ、良いか。あぶく銭は身につかないって言うからな。結局、貯金もせずに散財しそうだな、うんうん」
「正しくは、悪銭身に付かずデスワ。悪銭は質の悪い銭のことを本来は差すのだけれど、今は、賭博で儲けたお金を指すようになってしまったのデスワ」
「きっちゃんは物知りでごわすなあ。どこでそんな知識を仕入れているのでごわすか?」
「ああ、吉祥は、しょうもないことから重要なことまで網羅されている分厚い書物を神力で具現化できるんだよ。なんて言ったっけ?」
「【理の歴史書】なんですわ。古今東西の重要な歴史的事件とか、ちょっとしたエピソードが絵図付きで載っているのデスワ。時間がある時に、読み進めているのデスワ。万福丸が体力勝負な日雇い仕事をしている間に、僕は暇だから、この書物を読んで時間を潰しているのですわ」
「そうそう。吉祥も傘張りや造花の仕事をしてくれてはいるんだけど、そんなに注文が入るわけじゃないんだよな。だから、内職の仕事が無い時は読書にいそしんでいるんだよな?」
「ぷっくー、きっちゃん、なんだか世帯じみたことをしているのでごわすな。そんなことをしなくても、ぷっくーほどの力があれば、どこかの大名家に仕官をすれば良いのではないのか?でごわす」