ー神有の章40- 自由自在に
「まあ、笑うのはこれくらいにしておいて、万福丸が自分とは関係ない神力を具現化できることはすごいと想うわよ?普通なら、【否定】が起きても不思議じゃないものね?」
吉祥が笑いづかれたのか、少し真面目な顔つきで、万福丸が行っていることをそう評価するのであった。
「ううむ。不思議なのでごわす。なんでこんなことが出来るのでごわすか?ひょっとして、おいどんも他の大神から神力を受け取れば可能になることなのでごわすか?」
よっしーがそう吉祥に問うのであった。吉祥は腕を組み、あごに右手を添えながら
「うーーーん。【対話】での【取引】で、神力を分け与えることはできるわよ?でも、それで相手から神力をもらったところで、自分の総神力を上げることはできても、普通は具現化まではできないはずなのよ」
「あっれーーー?それっておかしくね?吉祥は確か、信長のおっさんから、【紅茶】を具現化できるように神力をもらったじゃねえか?」
「あら?そうだったわ。すっかり忘れてたわ。あまりにもしょうもないモノもらっちゃったから、その存在ごと、頭の中から消去してたわ。これは、うっかりしてたわね」
吉祥はそこまで言うと、神気を発し、神力へと変換し、そして【理】を口にする。
【紅茶】
吉祥がそう声を口から出すと同時に、彼女の左手に西洋製湯飲み茶碗と、その中にたゆたゆと揺れる紅い液体が具現化するのである。
「おおお!きっちゃん、それは一体、なんなのでごわす?何やら、すごく心がやすらぐ香りがするのでごわす!」
「ああ、よっしーさん。これは信長さま、ええと織田信長って言う、第六天魔王と合一を果たした大神と【対話】を行った時に【取引】で、神力を少しだけ分けてもらったのよ。それで、原理はよくわからないんだけど、何故か、【紅茶】を具現化できるようになったのよ。本当に原理はわかってないんだけど」
一体、全体、なんでこんなことができるのか自分自身、さっぱりわからない吉祥である。
「なあ、吉祥。実はこっそり、信長のおっさんに肉体を【否定】されたり、【上書き】されていたりしないか?ちゃんと、身体の隅々まで確認したのか?」
「うーーーん。そう言われれば、いきなり九州に飛ばされてきて、そのまま牢獄に入れられて、さらにはどんちゃん騒ぎの宴会をして、朝起きてみたら、万福丸に腕枕されていて」
「おうおう。やっぱり昨夜はお楽しみでごわしたか。いやあ、朝、起こしにいかなくてよかったでごわす。で?その続きは何でごわす?おはようの接吻でごわすか?」
「な、な、何を言っているのかしら!そ、そんなことするわけないでしょ!接吻したのは、朝食を食べ終わったあとに、万福丸と部屋に戻ったあとよ!そしたら、こいつ、得体の知れない何かに変わったのよ!」
「あ、あのー?吉祥さん?俺らが接吻していたのをばらしていますが?」
万福丸のツッコミを受けて、吉祥がボンッと顔を赤らめる。
「はあははっ!まあ、若いのでごわす。それこそ、ひと眼もはばからず、小鳥のさえずりのように、お互いの唇を求めるものでごわす。結構、結構でごわす。だが、ぷっくー。おいどんの前で見せつけるようにやったら、渓流に飲みこまれてしまうのでごわすよ?」
「そ、そんなことしないって。大体、吉祥は、人前でいちゃつくのをすっごく嫌がるんだよ。俺、自分の寿命を縮める趣味なんて持ち合わせてないからな?」
「それなら良いのでごわす。おいどん、今年で32歳でごわすが、可愛い彼女がいまだに出来たことがないのでごわす。そんな、おいどんの心を掻き毟ることをするようであれば、ぷっくーと言えども容赦しないのでごわす!」
ああ、やばい。いらぬ心の傷に触ってしまったと万福丸は想うのである。肝心の話題を変えるためにうってつけの人材は、未だに顔を真っ赤に染めて硬直しているのである。万福丸は仕方ないとばかりに話を切り替えるべく行動する。
「なあ。俺がよっしーの水を具現化できたは良いけれど、吉祥の話だと、俺はこの水を自由自在に操れたんだよな?その時の状況をもっと詳しく聞かせてくれないか?」
「ううむ。おいどんたちも、ぷっくーがあの赤黒いマユに包まれた時、そのマユから攻撃を受けたのでごわすよ。よくわからないヒトのような餓鬼のような真っ黒い手が、おいどんたちをそのマユに捕らえんとしたのでごわす。だから、おいどんは水を具現化して、そのマユからの攻撃を防いでいたと言うわけなのでごわす」
「じゃあ。俺がよっしーさんの水を【喰らう】ことになったのは、よっしーさんが吉祥を守るために水を具現化したってことで合っているのか?」
「まあ、正確には違うのでごわすが、マユを無力化できないものかと、水流で包んでみたのでごわすよ。そしたら、ぷっくーが何やら喚きちらして、黄金の5本の爪を具現化したのでごわす」
よっしーの説明に、なんかよくわからないぞ?と言った顔付きになる万福丸である。そこにフリーズから復活した吉祥が、白い紙と墨と筆を具現化し、2人に説明を開始するのであった。
「良い?万福丸はこの絵みたいに、赤黒いマユの内側から黄金の5本の爪を具現化して食い破るってのも変だけど、そんな感じだったわけね?」
吉祥の説明にふむふむと頷きながら、万福丸が聞くのである。
「で、よっしーさんは万福丸がそんな行動をする前に、水流で包み込んでいたわけなの。だから、万福丸が【喰らった】のはそのときの水流なわけなのね?」
「なるほどなあ。で、俺はそれを【喰らって】、さらにはその絵の通りに、ぎったんぎったんのばったんばったんに赤黒いマユを攻撃したと。あれ?俺、何やってんだ?このマユの中に入ってたのって俺自身だよな?なんで、俺、自分を攻撃してんだ?」
「言われてみれば、その通りよね?あなた、馬鹿か何かなわけ?」
「おいどんも、今更ながらにきづいたのでごわす。これ、ただの自傷行為でごわすよな?」
3人、いや、3柱が紙に書かれた絵を視ながら、うーーーん?と首を捻るのである。
「ま、まあ。無事だったから、そこは深くは考えないでおこうか。重要なのは水を自由自在に操っていたということだしな?」
「そ、そうね。深く考えないほうが良い気がしてきたわ?で、万福丸は、その具現化した水は自分の意思で、自在に操れそう?」
「うーーーん?どうだろうなあ?さっき、吉祥たちが大笑いしていた時に、無視して色々と試しては見たんだよ。で、水流の強さを上げることは出来たんだけど、よっしーのように水の壁を作れたりはできなかったんだよなあ?」
「えっ?水流の強さは上げれたの?それはすごいんじゃないかしら?水量は増やせたの?」
「ああ、それは試してなかったなあ?どうなんだろう?もっと大量の神気を発して神力へと変換したら、もしかして、水量も増やせたりするのかなあ?」
「そこは要検証ね。とりあえず試してみましょ?万福丸、さっそくで悪いけど、脚絆も具現化できるくらい、神気を発してみて?」