ー神有の章37- 赤黒い神気
「ぷっくん、きっちゃん。いちゃつくのはあとにして、とりあえず、何か服を着たほうが良いでごわすよ?それとも、2人は裸属なのでごわすか?」
「誰が裸属よ!天照さまと一緒にしないでほしいわ!」
「まあまあまあ。吉祥。とりあえず、服を着ようぜ?俺もさすがに吉祥の裸を見続けてたら、ちょっと、眼のやり場に困るっていうか、なんていうか?」
万福丸の言いに、それもそうね?と想う吉祥ではあるが、さっきの得体の知れないアレのせいで、部屋の調度品は散乱しており、さらには、その瓦礫に埋もれているのが、よっしーさんである。
これでは着るものを手に入れようにも、内城に居る誰かを呼ばない限りは、どうしようもないのである。困ったわねと想っているところを、吉祥の肩に厚手の布がかけられる。
「とりあえず、これで肌を隠してくれよ。それなら、吉祥が誰かに裸を見られるわけじゃなくなるからさあ?」
万福丸の言いに吉祥は、ほっほうと想ってしまうのである。
「あれ?万福丸は、もしかして、僕の裸を誰かに見られるのは嫌なの?もしかして、万福丸って焼きもち焼きなわけ?」
吉祥は万福丸から渡された布を身体に巻き付けて、彼にそう質問をするのであった。
「うっ、うるせえなあ。自分の女の裸を他の男に見られて喜ぶような馬鹿がいるんなら、逆に視てみたいぜ。そんなことより、俺も何か、肌を隠すようなモノを探さないとなあ?」
万福丸がそう言うと、頭をぼりぼりとかきながら、散乱した部屋の中を散策するのである。吉祥は、少し嬉しくなってしまい
「あーあ。よっしーさんに僕の裸を見られちゃったわ?これは、よっしーさんに責任を取ってもらわないとダメだよおおお?」
「ま、マジでごわすか?いやあ、きっちゃんを嫁にもらえるのなら、おいどん、嬉しい限りでごわす。いやあ、子供は3人欲しいところでごわすなあああ?」
よっしーがそう言うと、どこからともなく、木彫りの熊が飛んできて、よっしーの頭頂部にぶち当たるのであった。
「うるせえええ!俺の女に手を出したら、例え、戦友のよっしーでも許さないからな?」
「おおお、怖いのでごわす。男の嫉妬は見苦しいのでごわす。おいどん、こうならないように気をつけなければならないのでごわす」
瓦礫に埋もれながら、頭だけを出している、よっしーがニヤニヤしながら、そう万福丸をおちょくるのである。万福丸は、うぐぐぐ!と唸りながら、やがて、よっしーを無視して、手ごろな白い布を見つけ出し、それを自分の身体に巻き付けるのである。
「ふう、やっと手ごろな布が見つかったぜ。よっし、これを身体に巻き付けてっと。うわっ!」
「ん?どうしたの?万福丸?って、えええ!?」
2人が驚くのも無理は無い。万福丸の肌に触れた、いや、正確には彼の右腕の赤黒いアザに触れた布の部分にも、その赤黒い色が伝播したからである。
「おいおいおい。これ、どうなってんだ?白い布の部分に、くっきりと赤黒い色が写っちゃったんだけど?」
「何なのかしら?このアザ。しかも、そこから布に染みるように広がるわけでもなくて、ただ、透けでているような感じに見えるわよね?」
「うーーーん?不思議だなあ?色移りしたわけでもないもんな?ほら、布を肌から離したら、布には何も残ってないもんなあ?」
「きっちゃんが先ほど言ったように、それは神気が混ぜ合ったようなモノでごわすよな?では、白い布に赤黒い神気が映りだされただけではないか?でごわす」
3人、いや、3柱はその現象を不思議そうに視るのである。
「ねえ?万福丸。ちょっと、神気を発して、神力に変換して、手甲を具現化してみて?」
「ん?なんで?そんなことしたら、何か、この赤黒いアザの正体がわかるって言うのか?吉祥は」
「うーーーん。予感としか、今は言いようがないのよね?とりあえず、右の手甲だけでいいから、具幻化してくれるかしら?」
「ああ、わかったぜ。吉祥の頼みなら、俺、喜んで引き受けるぜ。よっし、ちょっと、離れてくれよ?」
言われなくてもそうするわよと想う、吉祥である。もしかしたら、あの万福丸の右腕にできた赤黒いアザが、何か悪影響を及ぼすかも知れないのである。充分に警戒はすべきだが、そんなことを万福丸に説明すれば、いくら馬鹿とは言え、彼が具現化を嫌がる可能性がある。だからこそ、あえて、仮説はあったが、その説明を省いた吉祥なのであった。
万福丸が神気を発し、神力へと変換する。そして【理】を口にする。
【喰らう】
彼がそう声を口から出したと同時に、右手の先から右腕の肘辺りまでを包み込む銀色に輝く手甲が具現化したのであった。だが、いつもとは違っていたのである。
「うおっ!なんだこれ!?赤黒いアザが、俺のかっこいい銀色の手甲に映りこんでいるんだけど!いや、まてよ?これはこれで恰好良いんじゃないのか?」
万福丸が自分の右腕を身体の前に持って行き、じろじろと手甲に刻まれたかのように映える赤黒い模様を観察しているのであった。
「やっぱり、僕の予想通りだったわね。万福丸、その赤黒いアザは、万福丸が神蝕された証だわ?」
「神蝕された証?いまいち意味がわからないんだけど?」
「これは仮説にすぎないんだけど、万福丸は赤黒いマユのようなモノに包まれて、その中で存在を賭けた闘いをしていたと想うのよ。何と闘っていたのかまではわからないわ?でも、万福丸はその闘いに勝って、その存在を【喰らって】しまったと想うの」
「へえええ?俺の記憶があいまいなのは、その闘いでの弊害ってことなのかあ。じゃあ、俺の右腕の赤黒いアザは、正体不明の何かの神気だってこと?」
「そうね。その認識で多分、合っていると想うわ。だけど、【喰らった】までは良かったけど、それは同時に、万福丸はその正体不明の何かに自分の肉体に神蝕を許してしまったと言うことになるのかも知れないわね」
「ふうん。なるほどねえ?まあ、今のところ、害は無さそうな感じはするぜ?もっと、こう、手甲を具現化した時に、待ってました!とばかりに、この正体不明の神気に神蝕される感じはしなかったからさあ?」
「あら、そうなの?僕は下手をすると、神力を具現化したと同時に、万福丸の右腕の赤黒いアザが肉体全体に広がるかも?って想ってたけど。そうならなくて良かったわ?ふう。心配しちゃって損したわ?」
「いや、ちょっと、待ってくれ。吉祥。そう想うなら、手甲を具現化する前にちゃんと説明してくれても良かったんじゃね?」
「そんなこと説明しちゃったら、いくら馬鹿な万福丸でも、察しちゃうでしょ?でも、良かったわ。これで、もし戦闘中に、こんな説明がつかない現象が起きていたら、戦うどころじゃなかったもんね」
「うーーーん?なーーーんか、納得いかないけど、吉祥がそれで良いっていうなら、俺もそれで良いかあああ。吉祥は俺のことを心配してくれているってことは確かなんだしな。うんうん」
本当、根が馬鹿で助かるわと想う、吉祥なのであった。




