ー神有の章31- 奪い、望み、喰らう
奪いなさい。あなたが恋い焦がれる女性を奪いなさい。あなたが求める力を奪いなさい。あなたが欲する未来を奪いなさい。あなたが信じる未来を奪いなさい。
「うっせーーーな!さっきから、奪う、奪う、奪う。それしか言えねえのか!」
奪いなさい。あなたが信じる未来を奪いなさい。あなたが欲する未来を奪いなさい。あなたが求める力を奪いなさい。あなたが恋い焦がれる女性を奪いなさい。
「俺は奪う趣味は持ち合わせてないの!それくらい、わからねえのか!」
奪いなさい。産まれたばかりの赤ん坊の命を奪いなさい。すくすくと育つ子供の命を奪いなさい。自分の才能を信じてやまない若者たちの命を奪いなさい。未来を誓いあった青年たちの命を奪いなさい。我が子をいつくしむ親たちの命を奪いなさい。老いて若者たちに道をゆずろうとする老人たちの未来を奪いなさい。世界の全ての命を奪いなさい。
「くっそ。今度はひとの命を奪えって言うのかよ!一体、てめえは何者なんだ!」
奪いなさい。世界の全ての命を奪いなさい。老いて若者たちに道をゆずろうとする老人たちの未来を奪いなさい。我が子をいつくしむ親たちの命を奪いなさい。未来を誓いあった青年たちの命を奪いなさい。自分の才能を信じてやまない若者たちの命を奪いなさい。すくすくと育つ子供の命を奪いなさい。産まれたばかりの赤ん坊の命を奪いなさい。
「いい加減にしやがれよ、てめえええ!そこを動くんじゃねえええ!俺が絶対にてめえをぶっとばしてやる!」
ワタシの命を奪いなさい。ワタシの神気を奪いなさい。ワタシの神力を奪いなさい。ワタシの【奪う】を奪いなさい。愛しき我が子よ、ワタシの全てを奪いなさい。
「てめえの命なんざ、誰が欲しがるか!俺はてめえをただぶっとばしてやりたいだけだ!いいか?絶対に、てめえの戯言と一緒に、てめえの顔をぶん殴ってやるからな!」
望むのである。奪われぬために望むのである。貴様が恋い焦がれる女を奪われぬために望むのである。貴様が求める力を奪われないために望むのである。貴様が欲する未来を奪われないために望むのである。貴様が信じる未来を奪われないために望むのである。
「ああ。もちろんだぜ。俺は奪われることを望まない。そんな未来を奪おうなんて奴は、俺は許さねえ!」
望むのである。産まれたばかりの赤ん坊の命を奪われないために望むのである。すくすくと育つ子供の命を奪われたいために望むのである。自分の才能を信じてやまない若者たちの命を奪われないために望むのである。未来を誓いあった青年たちの命を奪われないために望むのである。我が子をいつくしむ親たちの命を奪われないために望むのである。老いて若者たちに道をゆずろうとする老人たちの未来を奪われないために望むのである。世界の全ての命を奪われないために望むのである。
「へへっ。わかってんじゃねえか、あんた。俺は命を奪われることを望まない。そんな命を奪おうなんて奴は、俺は絶対に【否定】する!」
喰らえ。奪わんとするモノを喰らえ。望まんとするモノを喰らえ。【呪い】と【祝い】を喰らえ。【悪】と【善】を喰らえ。それはお前の希望となる。それはお前の絶望となる。それはお前の力となる。全てを喰らえ。
「うーーーん?喰らう?どこかで聞いたことがある言葉だな?なあ、あんた、もしかして、俺のことを知っているのか?」
喰らえ。お前は喰らわねば奪われる。お前は喰らわねば望まれる。お前は喰らわねば【呪い】と【祝い】に染まる。お前は喰らわねば【悪】と【善】の狭間で心を痛める。お前は喰らわねば、希望となれない。お前は喰らわねば、絶望に囚われる。お前が喰らわねば、それは力とならない。だからこそ、お前は全てを喰らえ。
「へへっ。よくわからないけど、要は全部、俺の中に盗り込んじまえってことだろ?喰らえって言うのは、そういうことを言いたいんだろ?あんたは」
そうだ。喰らうのだ。お前が愛する女を守るために喰らうのだ。お前が愛する女がやり遂げたいことを為すために喰らうのだ。お前が愛する女との【約束】を果たすために喰らうのだ。お前が愛する女が【約束】を【反故】にしないために喰らうのだ。
「そうだ。俺は吉祥を守りたい。俺は吉祥がやり遂げたいことを完遂させたい。俺は吉祥が【約束】を【反故】しないために【約束】をしたんだ!」
ならば、唱えよ。お前の【理】を唱えよ。お前は喰らうモノ。お前の【理】を示せ!
「俺は、吉祥が好きだ。吉祥を愛している。吉祥のためになら死ねる。だから、俺は俺の【理】を口にする!」
【喰らう】
「くっ!おいどんの水に包まれながらも、なおもこの神気は何なのでごわす!このままでは、この城が吹き飛ぶほどの神力となるのでごわす!」
「万福丸!聞こえてる!?僕はここだよ!?僕は万福丸のことを信じているよ!僕は万福丸が戻ってくることを信じているよ!?万福丸は僕のモノだよ!僕の所有物なんだ!戻ってこなきゃ嫌だ!」
吉祥は泣いていた。吉祥は涙を流していた。吉祥は呼びかけに応えぬ万福丸の名を呼び続けた。
「万福丸、聞いて!僕ときみは【約束】をしたんだよ!きみは僕が【真実】に辿り着けるように手伝うって【約束】したんだよ!」
吉祥は泣きながら笑っていた。吉祥は涙を流しながら笑っていた。
「万福丸は言ったよ!きみは僕が【約束】を【反故】にしないようにって言ったよ!きみは僕とさらなる【約束】をしたよ!僕はきみとの【約束】を破る気はないよ!万福丸は僕との【約束】を守ってえええ!」
吉祥は喉が張り裂けんとばかりに声を張り上げる。吉祥は自分の言葉が必ず、万福丸に届くと信じて、【約束】を声にする。
その時であった。
【喰らう】
その力ある言葉は、吉祥と、よっしーの耳に届く。
【喰らう】
その力ある言葉は、内城に居る全てのモノの耳に届く。
【喰らう】
その力ある言葉は、薩摩に居る全てのモノの耳に届く。
【喰らう】
その力ある言葉は、薩摩を飛び越えて、九州に居る全てのモノの耳に届く。
【喰らう】
その力ある言葉は、九州を飛び越えて、本州に居る全てのモノの耳に届く。
【喰らう】
その力ある言葉は、本州を飛び越えて、この世界を飛び越えて、全てのモノの耳に届く。
「万福丸ううううううううううう!」
「うおっしゃあああああああああああああああああ!」
赤黒いマユを内側から突き破るように万福丸の声が飛び出してくる。赤黒いマユを内側から突き破って、彼の右腕が飛び出してくる。
「俺は奪われない!望むんだ!全てを喰らうんだ!」
赤黒いマユを突き破り、万福丸の神気が発せられる。万福丸が神気を発し、神力へと変換する。マユを内側から突き破った彼の右腕の先、その右の手に金色の大きな5本の爪が具現化する。
「俺は吉祥を守る!吉祥が【真実】へと到達するのを手伝う!吉祥との【約束】を果たす!吉祥との【約束】を絶対に守ると【約束】する!」