ー神有の章27- フリ
ちゅちゅちゅ、ちゅちゅちゅっちゅちゅっ、ちゅちゅんがちゅん!
ううん。もう朝なのデスワ?なんだか、昨日の記憶がいまいちはっきりとしないのデスワ?
吉祥はそう想いながら、まだ眠い眼をこすりながら、辺りを見回す。そして、今、自分が置かれている状況をすぐさまに理解して、顔からボンッ!と火が出そうなほどの勢いで、顔を真っ赤にする。
な、な、何が起きたのデスワ?ぼ、ぼ、僕。万福丸に腕枕をしてもらって、さらに自分から、両足を万福丸の身体に巻きつけているのデスワ!?
お、お、落ち着くのよ。吉祥。こ、こ、これは何かの間違いなのデスワ。僕からせがむように万福丸に抱き着いているのはおかしいのデスワ!?
吉祥は混乱の極みであった。だが、唯一の救いはまだ、万福丸が寝ていることであった。
と、と、とりあえず、万福丸から身を離すのデスワ!そうすれば、何も気付かれることなく、この窮地から脱することが出来るのデスワ!
吉祥はそう想い、まずは頭と両腕を万福丸から剥がす。そして、万福丸の足に絡みついている両足を動かそうとする。
「あ、あれ?右足が万福丸のふとももの間に潜り込んでいて、抜けれないんデスワ?うーーーん、うーーーん!」
吉祥が、右足に力を入れて、なんとかしようともがく。しかし、なかなかに絡み合った右足を抜くことができない。
「うううん」
万福丸が目覚めたのデスワ!?吉祥は真っ赤な顔をさらに真っ赤にさせるのである。だが、万福丸は寝返りをうち、その拍子に、万福丸の足が開くことになる。その瞬間を吉祥は見逃さず、自分の右足を一気に引き抜くことに成功させるのであった。
「あれえええ?吉祥、どうしたんだ?ふあああ」
万福丸が眠そうにあくびをしている。
「う、うん。おはよう。万福丸は今、起きたの?」
「ううん。あああ。うーーーん。良く寝たあ。そう言えば、こんなふかふかな布団で寝るなんて、何年ぶりだったかなあ?」
万福丸の様子から見るに、吉祥がとんでもない状態になっていたことは、気付いていないようであり、吉祥は、ほっと胸をなでおろす。あああ、失敗だったのデスワ。やっぱり、同じ布団に寝てはいけないのデスワ。次はちゃんと、よっしーさんに布団を2組準備してもらうのデスワと彼女は想うのであった。
「じゃあ、万福丸。僕は顔を洗ってくるのデスワ。万福丸は二度寝をしないように注意するのデスワ?」
「うーーーん。わかったのだーーー。おやすみなさいーーー」
どこがわかっているのデスワ?と想いながらも、まだ火照る顔をまず、冷たい水で冷やそうと想い、吉祥は寝室から出て、屋敷にある井戸を探しに行くのであった。
吉祥が寝室から出て行ったあと、万福丸は布団の中で
「うっわ。やべえええ。吉祥があの後、起きそうだったから、慌てて寝ているフリをしたけど、バレなくて本当、良かったぜ!いやあ、俺、すっごい演技力だよな。ニンゲン、死にかけたら、隠された能力が発揮されるって言うけど、俺にもそれがあったんだなあああ!」
万福丸は吉祥が起きだしたので寝ているフリをしていたのであった。もちろん、寝返りも吉祥が足が抜けないともぞもぞしていたから、おこなったのである。
「本当、足をもぞもぞしだした時が、1番やばかったぜ。吉祥は気付いてなかったけど、俺のいちもつをげしげし、ふとももで刺激してたもんなあ?もうちょっと、されてたら、ギンギンにおっきしてたわ。いやあああ、やべえやべえ!」
万福丸のいちもつは、吉祥のふともも攻撃の余韻のために、いまやギンギンであった。それもあるため、自分も顔を洗いに行くと言い出せなかったのである。とりあえず、万福丸は、昂ったいちもつを抑えるために、深呼吸を何度か行い
「ちょっと、待ってくれよ!布団に吉祥の匂いが染みついてるじゃねえか!こんな布団の中でどうやって気分なんか落ち着けんだよ!」
万福丸はそう言うと、掛け布団を蹴っ飛ばし、障子を開けて、部屋の中の空気を入れ替えすることにしたのであった。
しかし、万福丸が障子をバンッと開けた時に、縁側に続く庭先で、ひとりの子供を確認することになる。
「ちぇすとおおお!ちぇすとおおお!ちぇすとおおおおおおお!」
視たところ、10歳にも満たない男の子が木刀を両手で握り、素振りをしていたのである。万福丸はその子供の服装を見るに、兵士の誰かの子供ではなく、多分、島津家のお偉いさんの息子であろうことは容易に想像できた。着ている服が明らかに民とは違って、上質だからである。
しばらく、その子供の様子を見ていると、その子供ににこやかな笑顔で近づいてくる人物がいた。島津義弘こと、よっしーである。
「おお、豊丸。朝から精が出るでごわすな。でも、身体を冷やすでないでごわすよ?じきに朝メシの時間でごわす。身体の汗をちゃんと拭いておくでごわす」
「叔父上。わかりましたでごわす。では、水垢離をしてくるでごわす!」
子供はそう元気に、よっしーに返事をして、ぱたぱたと足音を立てて、走って行くのであった。やっぱり子供はあれくらい元気じゃないとダメだよなあ。俺も吉祥と結婚したら、あんな元気な男の子が欲しいぜと想う万福丸である。
よっしーは、うんうんと頷きながら、その豊丸と呼んでいた子供を見送ると、次は万福丸の方を見る。
「おお。ぷっくー。起きたのでごわすか?いやあ、夫婦の時間を邪魔するのは悪いと想って、起こしにいかなかったでごわすが、昨夜はお楽しみでごわしたか?」
そう言いながら、よっしーはいかつい顔をニヤニヤさせていた。万福丸はどう応えていいものか、悩みながら
「うーーーん。危うく、あの世に逝きかけたよ。まあ、吉祥が言うにはあの世じゃなくて、【根の国】送りになるみたいだけどなあ?」
万福丸の言いに、よっしーは、はあーははっ!と豪快に笑い
「それほどまでに楽しんでくれたでごわすか。それは何よりでごわす。布団がびしょぬれであろうから、あとで乾かしておかなければならないでごわす!」
「い、いや。布団は濡れてないから、その点は大丈夫かな?」
そうなのでごわすか?と質問してくる、よっしーを半ばごまかすように万福丸は声を出す。
「あ、朝メシは一体、何が食べれるのかなあ?俺、できるなら、朝はがっつり食べたいところだけど?」
「はあーははっ!そんなに頑張りすぎたのでごわすかっ。しょうがない夫婦でごわすなあ。では、朝から九州で採れる、名産のニンニク料理の数々を馳走させてもらうでごわす。今夜もはりきってもらうでごわすよ」
「お、お手やわらかにお願いするよ、よっしーさん」
万福丸は、笑顔を引きつらせながら、よっしーに言うのであった。