表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/124

ー神有の章26- 月明かりの夜に

 うーーーん。寝室に案内されたのはいいのだけれど、なんで、布団が夫婦用の大き目のものが1組しかないのデスワ!


 吉祥きっしょうは憤慨していた。さらには万福丸まんぷくまるが相当、酒がはいっているのか、すでに布団の中に入って、スピーーーグガーーー!スピーーーグガーーー!と寝やがっていたのである。


 宴は夜8時まで続き、いくら5月と言えども、太陽は大地の向こうに沈みきっており、すっかり当たりは暗くなっていたのだ。うち城もすっかり灯の火も落とされて、皆、就寝していた。


 吉祥きっしょうは、はあああと深いため息をつく。今更、こんな時間に誰かを叩き起こしては迷惑となるだろう。だが、そうだからと言って、泥酔する万福丸まんぷくまると一緒の寝床では、自分の貞操の危機が迫るのは、前に経験があるだけに分かりきっていることだ。


「うーーーん。どうしたものなのデスワ。このままだと、あの晩の再現が起きるかも知れないのデスワ?」


 吉祥きっしょうの脳裏に苦々しい記憶がよみがえる。まったく、あの晩は、僕もどうしてああなったのやら。つい、万福丸まんぷくまるが男らしく想えてしまったのデスワ。


 吉祥きっしょうは酒が回った頭に痛みがやってきそうな感じがしたので、両手の人差し指でこめかみを軽くこする。まあ、とりあえず、酔いを覚ますのデスワ。あのときは不覚をとったのがいけないのデスワ。だから、自分だけでも酔いが覚めれば、何か起きた時に対処ができますのデスワ。


 と吉祥きっしょうは想い、とりあえず、屋敷の縁側に出て、そこで座り、足をぶらぶらさせながら、月を見ていたのである。


「今日は多分、まだ5月の11日のはずなのですわ?だから、満月までには時間があるのデスワ?でも、さすがに月明かりがまぶしいのデスワ」


 やや光がきつく感じつつあるものの、柔和な光を吉祥きっしょうは見つめながら、何気ないことを想いだしていた。


 自分が旅に出た時のこと、そして、その旅の途中で万福丸まんぷくまると再会したこと。そして、万福丸まんぷくまるが自分の旅路のお供になってくれことになった経緯を想い出していた。


「まったく、何が俺の女を守るのは男の役目だぜ!なのデスワ?そのせいで、万福丸まんぷくまるは日に日に、その神蝕しんしょく率を上げていってしまったのデスワ?」


 吉祥きっしょうはそっと眼を閉じる。万福丸まんぷくまるが僕を守ると称して、自分の力を強くするために、神気を発し、神力へと変換し、出会う大神おおかみたちとの戦闘を積み重ねていったのデスワ。


 いくら、情報を引き出すためとは言っても交渉は上手くいかずに戦闘になることも多々あったのデスワ?でも、いきなり、万福丸まんぷくまるの【色】を見るやいなや、喧嘩腰で向かってくる大神おおかみも居たのデスワ?


 あれ?もしかして今更、想ったのだけれど、圧倒的に、万福丸まんぷくまるの【色】のせいで、即戦闘になることが多かったのではないのか?デスワ。うーーーん。もしかして、僕、パートーナーを間違えたのではないの?デスワ。


「まあ、良いのデスワ。万福丸まんぷくまるは僕のやろうとしていることに文句のひとつもつけずについてきてくれているのデスワ。それだけでもありがたいことなのデスワ。贅沢を言っては、それこそバチが当たるのデスワ」


 吉祥きっしょうは目的を持って、旅をしていた。【真実】を追うための旅だ。だが、その【真実】は【禁忌】に触れざる事柄であった。大神おおかみたちは【禁忌】のことについて、固く口を閉ざす。だからこそ、その【禁忌】について調べている吉祥きっしょうは他の大神おおかみから眼の仇にされやすい。


 それこそ、京の都周辺で聞き取りをしていた時は、よく【土着神】から絡まれたモノである。戦闘を得意としない吉祥きっしょうにとって、万福丸まんぷくまるが代わりに闘ってくれるのは非常にありがたいことであったのだ。


 万福丸まんぷくまるがとある【土着神】と闘ったあと、その【土着神】は、第六天魔王なら何かを知っているはずだと教えてくれた。だから、吉祥きっしょうたちは、その第六天魔王と接触するためにも、今日、5月11日、第六天魔王が安土魔城に入ると言う情報を手に入れて、南近江のその魔城へと向かったのである。


「最初は信長さまの重臣あたりをさらって、情報を引き出したあとに、第六天魔王と接触しようと想っていたのに、まさか、いきなりその本人が接触してきたのは大誤算だったのデスワ」


 吉祥きっしょうは鈍い頭痛がやってきたので、さらに、こめかみを右手の人差し指で強めにこする。


「僕が追っている【真実】には一歩、近づけたのデスワ。でも、代償として払わされた対価は痛かったのデスワ。あんな辱しめを受けるとは想っても見なかったのデスワ」


 うーーーん。余計に頭が痛くなってきたのデスワ。今度、信長さまに会った時は、同じように、信長さまを辱しめを受けてもらうのデスワ!ああ、ダメだわ。目的がおかしいのデスワ。まだ、酔いが覚めてないのデスワ?


 吉祥きっしょうは、そう想い、思考を一旦停止させる。その時、身がぶるっと震えてしまう。


「うーん、夏の入り始めとは言っても、夜はまだ冷えるのデスワ。そろそろ、お布団に入るのデスワ?」


 吉祥きっしょうはそう言い、縁側から立ち上がり、障子をそおおおっと開けて部屋の中を確認する。うーーーん。未だに万福丸まんぷくまるはいびきをかいて、ぐっすり寝ているのデスワ。これなら、朝まで、僕に気付かずに寝てくれそうなのデスワ。これなら、身の安全は多少なりとも保障できそうなのデスワ。


 ふあああ。眠いのデスワ。明日からはちゃんと布団を2組、用意してもらうのデスワ。


 吉祥きっしょうは段々、眠気が襲ってくることに抵抗できなくなってきていたのである。月明かりが優しく、吉祥きっしょうを包み込むからだ。


 月明かりはイニシエの大神おおかみ月読つきよみの神気がみなもととも言われている。日中の太陽とはまた別の暖かさを感じずにはいられないのである。


 吉祥きっしょうは布団の中に潜り込み、なるべく、万福丸まんぷくまるから身を離して眠ることにしたのであった。




 ちゅちゅちゅ、ちゅちゅちゅっちゅちゅっ、ちゅちゅんがちゅん!


 スズメが朝からけたたましく鳴いていた。まるで、この世の春がやってきたとばかりに鳴いていた。万福丸まんぷくまるはそのけたたましいスズメの鳴き声により、眼を覚ます。


「ふあああ。もう、朝かあ。よっく寝たあああ。って、あれ?なんか、身動きができないんだけど?これがもしかして、世にいう、金縛りって奴なのか!?」


 万福丸まんぷくまるは、何か自分の上に重みを感じて、動くことができない。かろうじて動くのは左手である。その動く、左手を自分の身体の右側にうんせっと持っていく。


「ん?あれ?なんか柔らかいものに当たっているような?あっれ?この感触、どこかで?」


 まだ、外は完全に明るいわけでもないので、締め切った部屋の中は薄暗いのであった。万福丸まんぷくまるは、眼の代わりに鼻を利かせるのである。うーーーん、このかぐわしい匂いは、吉祥きっしょうの匂いだなあ。吉祥きっしょうは、良い匂いがするから、大好きなんだよなあああ?って?


「この重みって、もしかして、吉祥きっしょうが俺の上にいいい?えええ?どういうことおおお?」


 万福丸まんぷくまるはやっと、自分の置かれている状況に気が付くのであった。吉祥きっしょうの頭が自分の左腕を、吉祥きっしょうの両足が自分の両足をがっちり挟み込んでいるのであった。


 そんな男なら嬉しい状況であったのだが、万福丸まんぷくまるの脳裏によぎったのは


「これ。吉祥きっしょうにバレタら殺される」


 であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

cont_access.php?citi_cont_id=32148659&si

ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ