ー神有の章23- 戦友
「あの日、あの時、かの地にて、大神が現れて、おいどんたちは円筒状の光に包まれてたのでごわす」
まるで、よっしーは苦虫をかみつぶした顔で告げる。
「おいどんには選択肢がなかったのでごわす。そこで、大神と合一を果たしたのでごわす!」
「で、でも。大神はいくら【理】のもとに合一を果たす人間を選ぶと言えども、強制力は持っていないはずよ?よっしーが嫌だと拒否をすれば、それで大神は諦めるはずよ?」
吉祥はそう、よっしーに告げる。だが、よっしーは手に持っていた盃を畳みの上にガンッと置き
「あの場で主君である島津義久さまを救うには、力を手に入れるしか方法がなかったのでごわす!あいつらは、降りてきた大神たちと合一を果たした次には、それぞれで争いはじめたのでごわす!」
どういうことなの?と吉祥は想う。ひのもとの国のイニシエの大神は、自分の持つ【理】に則り行動をするわ。だが、その【色】は【善】であり【祝い】に属する大神たちが多いのよ?その【祝い】が影響して、まず最初から争うことなんて、滅多にないはずよ?
「俺も信長のおっさんにいきなり攻撃されたからなあ?やっぱり、大神同士って【理】による縄張り意識が強いのかな?」
あっ。忘れてた。確かにここに、いきなり、信長さまに喧嘩を売ったバカ犬がいたわ。まあ、でも、万福丸の【色】はイニシエの大神の中ではめずらしい【呪い】だから、一応、いきなり戦闘になっても言い訳が効くのよね。
「よっしーさん。多分、その会合に介入してきたのは、【色】が合わない大神が多数いたのだと想うわ。だから、いきなり戦闘行為になったのだと想う」
「ふむっ。おいどんもあとになって、自分と合一を果たした大神からそのように説明を受けたのでごわす。だが、おいどんはあの場では、【色】以上に何か異質なモノを感じたのでごわす」
「できるなら、詳しい説明をお願いするわ。よっしーさんが言う、その会合の場に現れた大神の名がわかるのであれば、その情報がほしいところよ」
「すまないでごわす。おいどんも主君を生かすために必死だったのでごわす。名まではわからぬが、誰が大神と契約をかわしたのかはわかっているのでごわす」
よっしーが告げた名は、よっしーを含めて5人であった。龍造寺家の龍造寺隆信、鍋島直茂。そして、大友家のほうは、大友宗麟、立花道雪である。
「なるほどね。大名と言うのは、ひのもとの国で連綿と続く、大神の系譜に連なるひとが多いから、大神と【理】だけでなく、血の繋がりとしても結びつきが強くなるから、合一を果たしてもおかしくはないわ。でも、鍋島直茂と立花道雪は、意外だわ。彼らは、それぞれに何かしらの資質があって、大神たちとの【理】の繋がりが強かったのかしら?」
「ふむっ。鍋島直茂は龍造寺隆信の親族なのでごわす。だから、鍋島直茂は、どちらかと言えば、大神の血の系譜の影響が大きいと想えるのでごわす」
よっしーからの説明を聞き、ふむふむと頷く吉祥である。
「実際に、会合で大暴れをしていたのはその隆信と鍋島だったのでごわす。道雪は宗麟を守るように動いていたのでごわす。道雪も宗麟もまた、合一を果たしているようには見えたが、力を発揮できずに防戦一方だったのでもうす」
「まあ、そりゃそうだよな。合一を果たしたばかりの時って、神気を発して、神力に変換できないもんなあ。あれ?じゃあ、なんで、龍造寺家のほうは、いきなり、神力を使ってるんだ?」
「いいえ、万福丸。神力を使って戦っていたんじゃないと想うわ。多分、隆信たちが合一を果たした大神の地力が高かったんだと想う。だから、合一を果たしたばかりでも使える身体能力の向上が自然と高かったんだと想うわ?でも、厄介ね。大神自体の地力が高いと言うことは、それだけ神気も神力も高いってことよ」
吉祥は危険だわと想った。会合があったその日は神帝歴4年4月19日よね。神気を発して、神力に変換する術を身につけるには充分すぎる時間が経っているわ。よっしーさんは、万福丸の神力をあてにして、自分の戦力へ組み込もうとしてる。その意味することは、龍造寺家との闘いになるはずだわ。
「まあまあ、吉祥。そんなに難しい顔するなって。要は、よっしーは俺と組んで、その龍造寺隆信ってのをぶっとばすための手伝いをしてほしいんだろ?いくら、馬鹿な俺だって、それくらいわかるって」
「うーーーん。だけど、万福丸。あなた、勝つ見込みはあるの?会合の場で大神と合一を果たしたばかりとは言え、よっしーさんを含めて、宗麟と道雪の3人を防戦一方に追い込んだ連中よ?」
そう、言い合う万福丸と吉祥であったが、よっしーから意外な言葉が飛び出す。
「待つでごわす。おいどん、あの2人と闘うとは言っていないでごわす。おいどんは確かに、主君を殺されかけた恨みはあるのでごわす。だが、それ以上に、邇邇芸さまの言っていたことのほうが重要だと想っているのでごわす。邇邇芸さまは、きっと、この手に入れた大神たちの力を使って、邇邇芸さまを超えるかもしれない相手と対峙せよと言っている気がするのでごわす!ぷっくんに力を貸してほしいのは、その尋常ならざる大神との闘いのためにでごわす!もちろん、龍造寺家も説得して、彼らに力を貸してもらうつもりなのでごわす!」
「えええ?だけどよ?いきなり、よっしーたちを襲ったような連中だろ?そんなの相手に協力を求めようにも、交渉の場にもついてくれないと想うぜ?」
「万福丸の言う通りだわ。よっしーさん。話し合いの席に着かせる前に、ここは一発、ぶん殴ったほうが、効果的よ?」
「ぶ、ぶん殴ってから交渉に入るのでごわすか?それは、乱暴すぎではないのかでごわす?」
「言って分かんない奴は、まずぶん殴る。それが俺たちの流儀。そうだよな?吉祥?」
「うーーーん。それに同意すると、僕がただの馬鹿に視られる気がしないでもないんだけど、先に殴ってきたのは龍造寺家のほうなんだから、殴り返すべきではあるわ、よっしーさん」
ふたりの強気な発言に、ううむと唸ってしまう、よっしーであるが、意を決し
「ふむっ。わかったのでごわす。交渉の場に置いて、舐められてはならないと言うでごわす。では、龍造寺家のほうは、ぶん殴るでごわす。改めてだが、ぷっくん、きっちゃん、おいどんに力を貸してほしいでごわす」
「ああ。いいぜ。なんたって、よっしーは俺と戦友だもんな!戦友ってのは、仲間を助けるってのが当たり前なんだ。よっしー、俺の背中を守ってくれよ!俺は、よっしーの背中を守ってやるからな!」
「ふむっ!よおおおし、もう一度、戦友の盃交換をするのでごわす!先ほどは、理由も告げずに無理やりだったでごわす。今度は、真の戦友として飲みかわすのでごわす!」
2人、いや2柱ね。こいつら、ただ単に理由をつけて、お酒を飲みたいだけじゃないかしら?まあ、僕としては、せっかく気持ち良い気分になっている2柱へ野暮なツッコミをしたくないし、ここはおおめに見ておくことにするわ?