ー神有の章21- 神帝(しんてい)歴3年元日 九州において
「ふむっ。どこから話せば良いのでごわす?それこそ、100年間続く九州騒乱の最初から話せばいいのかでごわす?」
よっしーがそう吉祥に問うてくる。吉祥は首を左右に振り
「いいえ。そこまで前の情報は要らないわ。僕たちは調べようと想えば、その100年前からの九州騒乱を知ることができるし。それよりも、ここ数年の出来事を教えてほしいの。僕が掴んでいる情報では、伊弉冉が受肉したあの日以来、ここ、九州では一度、皆が手を取り合って協力したと言うことは知っているの」
吉祥は、ここまで、話して、一旦、話すのをやめる。そして、神気をすこし強めに発し
「よっしーさんが万福丸の力を頼りたがっていると言うことから想像するに、よっしーさんは、僕たちが何らかの大神と合一を果たしたモノだとわかっていると言うことなのよね?」
「ふむっ。その通りなのでごわす。お前たちも薄々、感じ取っているとは想うでごわすが、おいどんも、とある大神と合一を果たしたモノでごわす」
「ああー。やっぱりそうなのか。さっきから、なんだか、よっしーからそんな気配と言うか匂いがするなあ?とは、俺、想ってたんだよな。でも、なにか形容しがたいんだけど、うーん?」
「あら?万福丸にしては、察しが良いわね?でも、その形容しがたいものって何なの?聞かせてくれる?」
吉祥がそう、万福丸に尋ねる。だが、万福丸は腕組をし、うーーーんと唸り、なかなか、返答をしない。そして、彼は困り顔で
「よっしーの肉体からは水の匂いがするんだよ。でも、海の水とか、その辺の平原に流れている川って感じじゃないんだよなあ?だからと言って、森のせせらぎでもないんだよ。うーーーん」
万福丸の犬神による鼻の良さをもってしても、確定できるほどには感じられないってことなのかしら?うーーん。よっしーさんが合一を果たした大神がわかるのであれば、話しはより有利に進められるのに、少し残念ね?まあ、いいわ。と吉祥は想う。
「水が関係していることだけ、わかれば今のところは充分よ。ありがとね?万福丸」
いやあ?それほどでもお?うへへ?と万福丸が喜んでいる。ちょろくて、助かるわと吉祥は想う。
「まあ、互いに相手の素性もよくわからない内に、重要な情報となるであろう、合一を果たした大神について話すのは、お互いにとって得策ではないのは理解しているわ。それはあとでおいおいってことにしましょ?よっしーさん」
「うむっ。そうなのでごわす。それで、きっちゃんは、ここ九州で、一度、手を結びながら、なぜ再び、相争うことになったのか。それを聞きたいのでごわすな?」
「理解が早くて助かるわ、よっしーさん。それで、天照さまが現世に受肉したあと、ここ、九州では何が起きたの?そこを知りたいの」
吉祥の問いかけに対して、間をとるためなのか、はたまた、ただ単に酒が飲みたいのかわからぬが、よっしーは、とっくりを手に取って、盃に酒を注いでいく。
しっかし、よくよく飲むひと?よね。あんなに飲んでて、酔い潰れないのかしら?さっきから、しょっちゅう、ひとが出入りして、まんぱんに満たしたお酒を次々と運んでくるわねえ?ちょっと、気が散るから、もう少し、抑えてほしいとこだわ?と、そんなことを吉祥が想っていると、よっしーは、盃の中の酒を飲み干し、ぷはあああ!と息を吐くのである。
「ふむっ。どう説明して良いものか、わからぬでごわすが、天照さまが受肉したあの、神帝歴3年元日、この九州の地にて、異変がおきたのでごわす」
「異変?朔に捕らわれていた太陽が取り戻されたことを指すのかしら?」
吉祥の問いかけに、よっしーはただ、首を左右に振り
「それとはまた別の異変なのでごわす。九州の地には高天原の地があるのでごわす。知っているでごわすか?」
「なにそれ?吉祥、知ってる?」
「万福丸。なんで、あんた、イニシエの大神と合一を果たしたのに知らないのよ!高天原は神代の時代にイニシエの大神たちが住処としていた天上界よ!ここ九州の中心部辺りにあるとされているわ。その地に至るには高千穂と呼ばれる道を辿るしか到達できないと言われている場所よ。これは常識だから、覚えておきなさい!」
吉祥は、一気に説明したため、はあはあと息をきらす。万福丸は素直に、はーーーいと返事をする。
「そ、それで、高天原で異変が起きたとでも言うの?よっしーさん」
「そうでごわす。あの神帝歴3年元日、高天原へと至るための道、高千穂が現れたのでごわす。あの日は、九州の3大勢力の大名たちが家臣を引き連れて、今後の九州での協力体制をどうするのかを決めるために、大友宗麟が治める豊後の府内館にて会合をおこなっていたのでごわす」
よっしーがそこまで言うと、またもや盃に酒を注ぎこみ、一気にそれを飲み干す。そして、ぷはあああと息を吐き
「その府内館の庭に、高千穂が現れたのでごわす。最初は何が起きたのか、その場に集まったものたちにはわからなかったのでもうす。だが、その高千穂を通って、1柱のイニシエの大神がやってきたのでごわす」
よっしーの言いに吉祥は、ごくりと唾を飲みこみ、のどを鳴らす。
「高天原からイニシエの大神がわざわざ降り立ってきたということは、何かを九州の大名たちに伝えたかったと言うことなのかしら?」
「その通りでごわす。現世に降りたってきたのは、天照さまの孫と称するイニシエの大神なのでごわす」
「天照さまの孫!?それってもしかして、あの天孫降臨で有名な、かのイニシエの大神なの!?」
吉祥は想わず、声量を大にして質問してしまう。
「きっちゃんの想っている通りなのでごわす。そのイニシエの大神の名は【邇邇芸】さまなのでごわす」
「なんでまた、そんな大神の中の大神がわざわざ出向いてきたわけ?使いとして降りてくるなら、それに適したイニシエの大神や使いとなるモノが居るはずよ?」
吉祥が不思議がるのも仕方がない。通常、イニシエの大神は現世に到来する前にはその前触れとして、使いのモノを寄越す。その使いの代表と言えば鴉だ。他にも、猿、雉と言った動物も居る。
まあ、イニシエの大神自身がそれら動物に変身して現れるため、ぞんざいに扱えば、あとで痛い眼に会うこともあるので、厄介なのよね。ったく、下手に変身が上手すぎて、万福丸の件で大変な眼に会ったわよ!イニシエの大神はイタズラ心を持ちすぎで、本当、困るわ。と想う、吉祥であった。