ー神有の章20- 島津義弘
万福丸と吉祥は新たに持ってこられたハンバーグに舌鼓を打つ。今まで味わったことのない食感と肉汁の美味さに、つい、うっとり顔になるのであった。
その2人の食べる姿を嬉しそうに眺めながら、それを肴にガバガバと酒を飲み、空のとっくりの数を増やしていく戦士である。
「ああ、美味しい。これ、何個でも食べれるんデスワ。ありがとうございますなのデスワ。あっ、あのー、ええとっ」
吉祥はハンバーグの美味さに喜んでいたため、つい、目の前でガバガバと酒を飲んでいる戦士の名前を聞きそびれていたのを想い出すのである。
「す、すいませんなのデスワ。食べることに夢中になってしまって、お名前を聞きそびれていたのデスワ」
吉祥がぺこりと頭を下げる。しかし、戦士は気にするなとばかりに左手を前後にひらひらと振る。
「おいどんの名は島津義弘でごわす。今は理由あって、島津家の棟梁代理なのでごわす。まあ、これはあとで詳しく話すのでごわす」
「ふーん、じゃあ義弘さんって呼んだら良いの?」
こらっ、そんなフランクにしゃべらないのっ!と注意をする吉祥である。だが、島津義弘はふはーははっと豪快に笑い
「よっしーと呼んでほしいのでごわす。特に、男の方。お前とは戦友になる予定でごわす。やはり戦友とは気軽に名前を呼び合いたいのごわす」
よっ、よっしー?このひと、一体、何を言ってるのデスワ?と想う吉祥をよそに万福丸が
「じゃあ、よっしー、これからよろしく!俺の名前は万福丸ってんだ。好きな呼び方で呼んでよ」
あんたは、遠慮って言うモノを知らんのか!っと想わずツッコミを入れそうになる吉祥である。
「ふむっ。では、ふくよかな顔に、ふくよかな腹をしているので、ぷっくんと呼ばせてもらうのでごわす。これからは、おいどんと、ぷっくんは戦友なのでごわす。さあ、戦友としての誓いの盃なのでごわす。飲んでくれなのでごわす」
よっしーがそう言うと、とっくりを右手に持って、前に突きだす。万福丸もえへへと笑いながら、盃を右手に持って、前に差し出す。そして、その盃には並々と酒が注がれていき、こぼれそうなほどになる。
それをおっとっとと言いながら、万福丸は飲み干し、そして、次は自分の膳の上に置いてある、小さめのとっくりを両手で持ち、次は自分の番だとばかりに、よっしーに向ける。
よっしーは、右手に持っていたとっくりを自分の盃へと持ち替え、万福丸に向けて突きだす。その大きい盃に、万福丸は自分のもっているとっくりの中身を全部、注ぐのであった。
そして、よっしーは盃に注がれた酒を一息に飲みこむ。
「ふむっ。これで戦友としての盃交換はおわったのでごわす。ぷっくー。これからよろしく頼むでごわす」
そう、よっしーは言い、深々と礼をする。そして、頭を元の位置に戻し
「では、ここから話すのは戦友としての頼み事なのでごわす」
そう、よっしーが言う。えっ?いきなり急に改まってどうしたのデスワ?やっぱり、この歓待には裏があったと言うことなのかデスワ?それなら、無理難題を押し付けられる前に、僕からも何かを言うべきなのデスワと、吉祥は想い、慌てて口を開く。
「ちょっ、ちょっと待ってほしいのデスワ!僕たちは、この、ええと、九州のどこかの国だとはわかっているのだけど、ここがどこかもわかっていないのデスワ!ですから、僕たちからも質問をさせてほしいのデスワ?」
吉祥の言いに、ふむっと息を吹く、よっしーである。
「それはすまなかったのごわす。つい、自分のことばかり考えていたのでごわす。女子よ、何が聞きたいのでごわす?」
「女子じゃないのデスワ。吉祥と言う名があるのデスワ。ちゃんと、名前で呼んでほしいのデスワ?」
「ふむっ。すまなかったでごわす。では、フレンドリーな間柄になるためにも、きっちゃんと呼ばせてもらうのでごわす」
きっ、きっちゃん!?と想わず、すっとんきょうな声をあげてしまう吉祥である。吉祥は、うっうんと咳払いをし、気を取り直し、神蝕の証が浮かび上がらない程度に神気を昂らせて言う。
「きっちゃんでもなんでも好きな呼び方でいいわ。これから、2、3、聞きたいことがありますわ。もちろん、そちらの要望も聞きますの。でも、無理だと判断したら、断らせてもらってもいいですか?」
「ふむっ。もちろん、女子のきっちゃんには無理な頼みをする気はないでごわす。だが、戦友の、ぷっくんにはどうしても頼みたい事があるでごわす」
どうしても頼みたい事ね。それが何かはわからないわ。だけど、向こうも無理強いしてくるわけではなさそうだし、とりあえず、話を聞くことにしましょう。まあ、万福丸の場合、俺は別に良いぜ?で終わりそうな気がするけど。うーーーん。やっぱり、自分がなんとかうまく話しをまとめないといけないわね。ああ、気が重いわ。と想う吉祥である。
「えっと、義弘さま」
「よっしーとフレンドリーに呼んでほしいでごわす」
くっ!どいつもこいつも面倒くさいひと?ばっかりね!
「えっ、えっと。よっしーさま。失礼ですが、僕たちはある大神の神力によって、ここ、九州に飛ばされてきたのですわ。それで、気付いたら、城?であってるのかしら?そこの大広間に飛ばされて、そして、あなたたちに捕らえられて、そして、今、ここなんですわ?だから、まずはここがどこなのかを教えてほしいのですわ?」
吉祥の問いかけに、よっしーは、ふむっと一度、息を吹き
「九州の南、薩摩の国でごわす。お前たちは、その薩摩の国の中心近くにある内城の大広間に、光輝く円筒状の空間から現れたのでごわす」
「なるほどね。ありがとうございます。よっ、よっしーさま」
うーーーん。この呼び名、本当、慣れないわね。友好的に接してくれるのはありがたいけど、距離感が近すぎて、逆にやりづらいわ。まだ、信長さまを相手にしていたほうが楽だったわ。吉祥は、はあああと深いため息をつく。もう良いわ。いつも通りにしゃべるわ。彼がせっかく友好的に接してくれるのを利用したほうが賢いわ。
「僕たちは、というよりかは、ここにいる万福丸がもっと強くなるために、ある大神に頼んだの。そしたら、ここに飛ばされたってわけ。だから、ここ、薩摩の国では、万福丸が強くなるための何かがあると、僕は睨んでいるわけなの。だから、ここ、薩摩、いえ、九州で起こっていることについて、説明を求めるわ」
「えっ?あの信長のおっさんがそこまで何かを考えて、俺たちをここ、ええと、薩摩の国だっけ?ってとこに飛ばしたのかなあ?俺、あのおっさん、何も考えずに適当なところに飛ばしてくれたもんだと想ってたけど?」
万福丸の言いに吉祥は、頭痛がやってきそうな感じがするのである。そうなのよねえ。信長さまが僕が想っているほど、何か考えがあって、ここの地に飛ばしてくれたと言うよりは、何かおもしろいことでも起こしてくれるんじゃないんでしょうかと言う、嫌な意味での期待を込めて送ってくれた気がするのよね。と吉祥は想うのであった。