ー神有の章16- まずは行動
「まあ、どこでもその【紅茶】?って奴が飲めるようになったのは便利じゃねえか?吉祥。これで、飲み水に困るってことからは解放されそうだしさあ?」
万福丸がのんきにそう言うのである。吉祥は、はあああと深いため息をつき
「そうね。あんたのポジティブな思考には救われるわ。でも、万福丸が僕から【紅茶】が飲みたいときは、お金を払ってもらうからね?」
「えええ?なんでだよ。俺、吉祥が身体から出す液体なら何でも喜んで飲むのによおおお!金を取るっておかしくないか?いや、待てよ?うーん、そうだな。やっぱり金を払ってでも飲ませてもらえるのはありがたいかもしれない」
万福丸がうんうんとひとり頷くのである。こいつは一体何を言っているんだ?と吉祥はじと眼で彼を睨むのである。
「まあ、とりあえず、1杯1文にしてくれよ、吉祥。それなら、俺も日銭稼ぎの仕事で払えるくらいの値段設定だと想うし。吉祥としても、将来の結婚式用の貯金にもなるしさ?」
「冗談よ。それくらい察しなさいよ。あと、なんで、僕が万福丸と結婚することが決定済みになってんのよ」
吉祥が呆れながら言うのであった。
「だって、その吉祥が具現化している【理の歴史書】だっけ?それって、俺と吉祥の愛と愛と愛の物語の歴史を記載してくれる書物なんだろ?」
そんなわけあるかっ!と想いながらも念のため、【理の歴史書】の最新ページあたりを開いて、まじまじと読み、そんな記載がないことにホッとする吉祥である。
「大体、個人的な記載が乗るのは歴史上に大きな功績を遺した偉人か偉神くらいよ?天照さまや信長さまくらいにならないと、記載されないわ?」
吉祥の言いに、ふーーーんと万福丸は反応する。
「おやおやおや。その書物には先生のことが書かれているんですか?ちょっと興味がありますね?」
信長がそう吉祥に問うのである。
「あっ、はい。信長さまが桶狭間の戦いに勝利したとか、そう言ったことが記載されていますわ。でも、この書物、起きた出来事が記載されるまで若干、タイムラグが起きるみたいなの。それがここ数年のこととなると顕著になっていますわ」
吉祥がそこまで信長に説明すると、天照がふむと息をつき、彼女らの会話に参加するのである。
「なるほどなのじゃ。思兼と合一を果たしている割には、おぬしは伊弉諾復活計画のような重大な歴史事件の詳細を知らぬと言うことなのかじゃ。これで納得がいったのじゃ」
「あれ?天照くん、この書物について詳しそうな感じだったのですが、そんなことなさそうですね?」
「第六天魔王よ。わらわもこの書物を目の当たりにするのは神代以来なのじゃ。しかも、この書物の厄介なことは、誰でも自由にその中身を読めないことなのじゃ」
「それって、歴史書と呼ばれている割には使い勝手が悪くないですか?歴史書は誰が読んでも、わかりやすくて、生活に役立つことが書かれてあるべきですよね?」
「わらわにそう言われても、困るのじゃ。そもそもとして、この【理の歴史書】が何の目的で、誰が作ったモノかも実のところ、はっきりとはしていないのじゃ。だが、思兼はどこからかわからぬか、その【理の歴史書】を手に入れおったんじゃ」
天照の言いに、想わず、えっ?と言ってしまう吉祥である。
「天照さまの言いを信じれば、これは元々、思兼自身の神力の一部じゃないってことなの?」
「うーーーむ、なんとも返答の困る質問がきたのじゃ。先ほども言ったのじゃが、それは誰が作ったモノなのかはっきりしないのじゃ。だから、思兼がもしかしたら、作り出したモノかも知れないということじゃ。だから、その【真実】を知っているのは、思兼自身と言うことなのじゃ」
【真実】。ひとや神、それぞれの意味での【真実】。そう、天照から言われたことを吉祥は唐突に想い出す。思兼が知っている【真実】と僕が追い求める【真実】とは全く違うかもしれないのかも。だが、ある接点を持っているかも知れないわ。思兼の知っている【真実】を知ることは、もしかすると、有意義なことなのかも?うーーーん。ダメだわ。考察を重ねようにも、そもそもとしてその材料が乏しすぎるわ。
「またぶつぶつ言い出したのじゃ。まったく、思兼と合一を果たしただけあって、あたまでっかちすぎるのじゃ」
うっさいわね!思考することは大切なことよ!そのでっかいおっぱいに脳みその栄養分を取られてるから、あんたは、そうお気楽なのよっ!と叫びそうになるが、ぐっとこらえる吉祥である。
ぐぬぬと唸る吉祥を視ながら、ふむっと天照は息をつく。
「おぬしらはまだまだ若いのじゃ。考察に時間をかけるのは結構なことじゃが、その前に行動してみることも大切なのじゃ。いぬっころのように後先、考えずに行動してみることも有意義な場合もあるのじゃ」
「あれっ?俺、天照さまにもしかしてほめられてる?いやあ。やっぱり、行動することは大切だよなあ?やってみないとわからないことって、世の中、多いしさあ?」
万福丸が笑い顔を作ってそう朗らかに言うのを、むむむーと唸りながら、吉祥は見つめ、ついには、はあああと深いため息をつく。
「そうね。今は考えるより、次のために行動しないとダメよね。情報ってのは結局、足で稼がなきゃ、手に入れることなんて出来ないんだし。でも、困ったわよね。ここに手ごろな情報源の2柱が居るっていうのに、どこに向かえば良いのかしら?」
「そうだよなあ?信長のおっさんと天照さまが知らないようなことを知っている人間や大神なんて、そうそう居ないと想うしなあ?俺たち、どうしたら良いんだ?」
万福丸と吉祥がそれぞれ腕組をして、頭を捻るのである。
「とりあえず、何をするにしても、万福丸には強くなってもらうことが先決ね。僕もある程度は闘えるほうがなったほうが良いかもしれないけど。それより、万福丸が2柱分の戦闘力があれば補えることだし」
なかなかに無茶なことを言いだす吉祥であったが、万福丸は気付いてないのか、はたまた、ただの馬鹿なのか
「おう。そうだな。俺が吉祥を守ってやらなきゃならんからな!よっし、とりあえず、次の目標は、俺の神力を高めるってことで!」
「どうやら、話が決まったみたいですね。では、先生、万福丸くんが強くなれるように、手助けしましょう。万福丸くん。強くなりたいと願ってください。先生がその【望み】を叶えましょう」
「お?いいの?いやあ、話のわかるひとで助かるよお!俺、何をしたらいいの?吉祥みたいに左手で握手すればいいのか?」
「いえいえ。そんなことしなくても良いですよ?先生、男と握手するのは嫌な経験しかないので。いやあ。握手をした間柄だと言うのに、裏切られることがしょっちゅうな人生、いや神生ですからねえ?」